かつて人気が低迷していた広島東洋カープは、「カープ女子」と呼ばれる女性ファンを獲得したことで、人気が急上昇したのは周知のとおりですよね。
観客動員が増えるにつれて、実力もアップ。セ・リーグで3連覇を達成しました。
そんなカープの右肩上がりの秘密には何があったのか、さらに発足間もないプロバスケットボールのBリーグにおける、最新の「マーケティング戦略」について見ていきましょう。
また、MLBなど海外スポーツでの事例も紹介します。スポーツマーケティングに興味のある方は必見ですよ!
スポーツマーケティングとは?
スポーツマーケティングとは、興行成績やニーズなどを調査分析することで、スポーツとビジネスを結びつける活動のことです。
また、スポーツの試合を利用した広告展開をはじめ、選手やチーム、スポンサーの代理人として、ファンとメディア、企業をつなぐ役割を果たす広報的な活動もスポーツマーケティングに含まれます。
さらに情報やデータ配信のほか、スポーツ映像制作などのメディア事業、ファンクラブの運営、イベント開催なども広い意味でのスポーツマーケティングの一環です。
日本のスポーツ界では、戦前にいち早くプロ化した野球をはじめ、90年代に発足したサッカーのJリーグ、近年ではプロバスケットボールのBリーグもスタートしました。
福利厚生と企業宣伝の一環だったかつてのスタイルから脱し、スポーツ競技を積極的に活用して事業化につなげるビジネスモデルの模索が続けられています。
そんな動きを支えるのが、「スポーツマーケティング」事業です。
日本国内におけるスポーツマーケティングの事例
ここからは具体的に日本国内のスポーツマーケティングの事例を見ていきましょう。
広島東洋カープの場合
2014年に「カープ女子」がユーキャン新語・流行語大賞のトップテンに選定されて話題になりました。
広島東洋カープと言えば、かつてセ・リーグの球団の中ではあまり人気のないチームだったのですが、現在ではNPB全体でトップクラスの人気球団となっています。
その人気浮上を支えたのが「カープ女子」。つまり若い女性のファンでした。彼女たちの人気を獲得したのは、球団のマーケティング戦略が功を奏したからだと分析されているのです。
第一の要因は、2009年に本拠地をMAZDA Zoom-Zoom スタジアムに移したことです。
アメリカの球場を参考に、いわゆる「ボールパーク」の要素を採り入れた球場です。
つまり、野球を見るだけでない「プラスアルファ」の要素が満載。バーベキューができるテラスがあれば、寝転んで観戦できるシートもあります。
また、子供が遊べる大型遊具を備えるといった、従来のスタジアムにはまったく見られなかった座席や仕掛けがたくさんあり、多くの付加価値を生み出しました。ガチガチの野球ファンだけでなく、若い女性たちをはじめ、老若男女誰もが楽しめる場所になったのです。
さらに、2017年6月にはシャープが開発した「ファンバンド」というグッズを発売。これはスマートフォンアプリと連動した腕時計型のウェアラブル端末で、試合状況を一目で把握できる便利なアイテム。
さらにハイテクのデジタル技術が満載。装着した人の動きを「応援動作」として感知し、数値化したものをクラウドへ送信するという機能もあり、送信されたデータは、集計されて「応援ランキング」の表示に使われるなど、球場での演出に利用されているのです。そんな目新しさも、若い女性を惹き付けました。
このようにソフトとハード面双方でファンのニーズに応え、広島東洋カープの観客動員は年々右肩上がりとなり、チーム成績も目に見えて向上。2016年に25年ぶりの優勝を果たすと、2018年シーズンまで3連覇を達しました。
まさに、スポーツマーケティングの成功からチーム成績が飛躍的にアップするという好事例となったのです。
B.LEAGUEの場合
2016年9月、バスケットボールの新しいプロリーグである「B.LEAGUE」が開幕しました。歴史が新しいこともあり、B.LEAGUEは、発足当初から大いにマーケティング施策を実践していました。
まず、ファンのターゲットを10代から30代がメイン層と設定。彼らの大多数が所持するスマートフォンを活用したサービスを展開します。専用アプリから購入できる電子チケットで会場に入れるなど、従来のスポーツ界にはあまり見られなかった画期的な仕組みを導入しました。
細かい部分では、好きなチームのカラーに画面デザインを変更する機能などを採用。さらに、チケット購入者の情報を一元的に管理し、ユーザー個人に最適化した情報やサービスの提供も行っています。
さらに、アプリには試合のスケジュールや速報、ハイライト映像などをプッシュ通知で取得できるため、ユーザーは会場にいなくても応援するチームの最新情報や当日の試合状況を知ることが可能です。
また開幕戦のオープニングセレモニーでは「LEDコート」が大きな話題になりました。
ゲーム中や試合展開に応じて様々なグラフィックやメッセージが電飾によって表示されるので、まさにビジュアルインパクトが絶大でした。アメリカなどのバスケットボール先進国の関係者にも、その技術が高く評価されたようです。
CGによる演出や、ペンライトと連動した非日常的なエンターテインメントの演出といった、従来のスポーツボール観戦になかった新たな観戦体験を提供したことで、インパクト抜群のスタートを切ったB.LEAGUE。
このようなサービスの導入により、リピーター観戦を促すことに成功し、リーグは順調にファンを獲得しています。
海外におけるスポーツマーケティングの事例
では、海外におけるスポーツマーケティングの事例はどのようなものなのでしょうか?詳しく見ていきましょう。
MLB(プロ野球メジャーリーグ)の場合
米国MLB(Major League Baseball)では、チーム編成において「セイバーメトリクス」をフル活用することが一般的です。
映画「マネー・ボール」などでも絵描かれて有名になりましたが、セイバーメトリクスとは、簡単に言えば細かいデータをチーム編成や戦略に活かしているわけです。
近年では、日本のプロ野球チームにも導入されていますが、実はMLBでは、セイバーメトリクスで取り上げられる様々なデータが、チーム編成だけでなく野球ファンが観戦を楽しむツールとしても利用されているのです。
最近は、スタジアムだけではなく、スポーツバーなどでタブレットを片手に観戦しているファンの姿が目立っています。
彼らの多くは、MLBの公式サイトをはじめ、各種のファンサイトやスポーツ系メディアなどが公開しているデータや、コアなファンなどが独自にまとめたデータを見ながら試合観戦をより深く楽しんでいるのです。
近年では「スタットキャスト」と呼ばれる解析システムが導入され、盗塁の際に捕手が送球する速度といった、より細かいデータも瞬時に計測できるようになりました。
また、ホームランの飛距離のようなこれまで推定値だった数値も、「スタットキャスト」でかなり正確に導き出すことができるようになったのです。
スタットキャストを活用し、現在では今打った打球の速度や外野手が本塁へ送球した時速といったデータが、テレビ中継で表示されるようになっています。
MLBが様々なデータを駆使して、ファンの野球を見る楽しみを一層レベルアップさせていることに注目すべきです。
MLS(アメリカのプロサッカー)の場合
アメリカでは、どちらかと言えばマイナーなプロスポーツとされているサッカーですが、アメリカサッカーリーグのMLS(Major League Soccer)では、オールスターゲームのチームキャプテンを選ぶ投票イベントをSNSで実施するという画期的な試みを行いました。
MLSの公式アカウントをフォローした上で、3人のキャプテン候補から1人を選んで投票するという仕組みです。
そして、そこで活用されたSNSが「Snapchat」でした。MLSは、MLBやNFLといったメジャーなプロスポーツに対し、若年層の人気が強いことが特徴なのです。12歳から24歳に絞り込むと、野球やバスケットを抜いてNFLに次いで2番目に人気のあるスポーツだという調査結果もあるのです。
Snapchatは、10代の利用率が急上昇しているSNS。MLSが10代をキャンペーンのターゲットとしたことで、プラットフォームにSnapchatを採用し、成功を収めました。
先輩格の野球やアメフト人気に対向するために、若年層にアピールする手法を採用したことは非常に合理的なスポーツマーケティングの手法だと言えます。
スポーツマーケティングの鍵はSNSにあり!
上記の事例では、スタジアムやアリーナに足を運ぶ来場者だけでなく、スマートフォンアプリやSNSを活用して幅広いファンにアピールしている点が特徴といえるでしょう。
現代では、「インスタ映え」するかどうかが、観光地や飲食店などの人気を左右する重要な要素となっています。
スポーツ業界においても、B.LEAGUEのLEDコートや、MAZDA Zoom-Zoom スタジアム広島のユニークな仕掛けといった演出は、まさに「インスタ映え」必至の要素になっているはずです。
インスタグラムだけではなく、SNS全般での情報拡散はプロモーションにおいてきわめて重要です。
中日ドラゴンズのマスコットキャラクター「ドアラ」は、バック転などで注目を集め、その姿をSNS投稿したいファンが数多く球場に足を運んでいます。
球団もドアラをさまざまな形で活用し、商品・サービスのブランディングを行いつつSNS上での情報拡散を狙って成功を収めています。
また、大小さまざまなSNSが運営されている現代では、MLSでの事例のようにターゲット層に合わせた形で、よりターゲットに刺さる最適なSNSを活用することも求められるでしょう。
まとめ
日本では、まだ産声を上げたばかりとも言えるスポーツマーケティングですが、上記の実例でわかる通り、明らかに成果を上げています。
2020年の東京オリンピック・パラリンピックを控えて、今後もスポーツを介した経済効果がより期待されるだけに、大いに注目されていくでしょう。
参考記事一覧
【国内外事例】スポーツ業界から学ぶマーケティングの勘所(PLAN-B)