日本のプロ野球にセ・リーグとパ・リーグがあることは誰もが知っていることですが、なぜセ・リーグとパ・リーグの2リーグ制になったのかを知っている、という方は少ないのではないでしょうか。
本記事では、セ・リーグとパ・リーグの2リーグ制となった理由について迫ります。
各リーグの特徴
まず簡単に、セ・リーグとパ・リーグそれぞれの特徴についてご説明しましょう。
セ・リーグには、日本で最古の職業野球チームである読売巨人軍を含む6球団が所属し、1960年代は人気選手を獲得し、1965年から9年連続セ・リーグ優勝・日本一になるなど圧倒的に巨人軍が強い時代がありました。その巨人軍の試合を中心にセ・リーグについてはテレビ放送の編成も組まれ、野球放送がない日はないくらい放送され、「人気のセ」と言われました。その後、プロ野球選手の獲得方法も従来から変わり、今ではドラフト制度が新人選手の獲得に公平性をもたらしたため、チーム力や人気の偏りもかつてより是正されています。
現在は、新聞社が2社(読売ジャイアンツ、中日ドラゴンズ)、電鉄会社が1社(阪神タイガース)、メーカー系会社が2社(東京ヤクルトスワローズ、広島東洋カープ)、ソフトウェア系の会社が1社(横浜DeNAベイスターズ)いう企業6社がオーナーで、観客動員数では今なおセ・リーグチームが上位を占め、宣伝広告塔などの役割を果たしています。なお、セ・リーグの優勝回数では圧倒的に巨人軍が38勝で最多、2位は広島と中日の9勝です。(2020年時点)
一方のパ・リーグも6球団が所属し、人気でセ・リーグには劣るものの日本シリーズでの成績や、交流戦での勝ち越し、オールスターゲームでの勝利数などから「実力のパ」と呼ばれています。セ・リーグに比較して球団オーナー会社の交代が多く、今では電鉄系の会社1社(埼玉西武ライオンズ)、メーカー系会社2社(北海道日本ハムファイターズ、千葉ロッテマリーンズ)、ソフトウェア系の会社1社(福岡ソフトバンクホークス)、ノンバンク会社1社(オリックス・バファローズ、パ・リーグでは最古の球団)、通販を母体として多角化した会社1社(東北楽天ゴールデンイーグルス)という比較的新興の6社が球団オーナーになっています。
またパ・リーグはアイディアや柔軟性に富み、インターネット配信など新しい企画にチャレンジし、プロ野球をビジネスとしてファンサービスに力を入れてきたことから、ソフトバンクホークスが、観客動員数ではセ・リーグの巨人・阪神に次いで3位に付けるなど、令和の今では「人気も実力もパ」と言われるようになってきています。パ・リーグでの優勝回数は西武ライオンズの23回が最多、2位はソフトバンクホークスの19回です。(2020年時点)
現在の日本のプロ野球の組織図
プロ野球事業を統括しているのは、一般社団法人日本野球機構(本部・東京都港区、以下NPB)です。
現在、セパ両リーグには12球団が所属していますが、セ・リーグの正式名称は「日本プロ野球組織セントラル・リーグ運営部」、パ・リーグの正式名称は「日本プロ野球組織パシフィック・リーグ運営部」。
つまり、セパ両リーグは、プロ野球組織の「運営部」に所属するものであることが分かります。
NPBはプロ野球の試合を主催、開催し、審判をしますが、NPBには、球団の所有者で構成するオーナー会議があり、ここが最高の議決機関となります。
プロ野球球団が破産したり解散したりしたら、NPBが選手たちの報酬を救済することもあります。
元は単一リーグだった!セパ誕生の歴史
日本のプロ野球がスタートしたのは1920年。
そして1936年に最初のリーグ、日本職業野球連盟が発足しました。
日本職業野球連盟が発足した当初、1リーグ制で、同連盟はその後、日本野球連盟に改称しました。
新聞社どうしの対決が分裂を招いた
2リーグ制になったのは「新聞社どうしの対決」のため。
1950年ごろ、毎日新聞社が保有する毎日オリオンズがプロ野球に参入することを希望したものの、新聞社が保有する球団である読売ジャイアンツと中日ドラゴンズが参入に反対。
当時はプロ野球ビジネスが新聞ビジネスに大きな影響を与えていたため、読売新聞と中日新聞が、毎日新聞を拒否したわけです。
しかし、毎日オリオンズの新規参入に賛同する球団もあったため、球界が分断し2リーグ制となったのです。
名前に込められた熱い想い
パ・リーグのパシフィックは太平洋という意味で、そこには大海を超えて国際的なプロ野球事業を展開するという野望が込められています。
セ・リーグのセントラルは中央という意味で、自分たちこそ正当なプロ野球グループであるという自負が込められています。
セパのルールの違い
セ・リーグもパ・リーグもNPBに属していて、両リーグの審判もNPBの職員です。
そのため、セパのルールはほとんど同じですが、パ・リーグにはセ・リーグにはないDH(Designated Hitter)制があります。
DH制では、ピッチャーが打席に立つ必要がなく、ピッチャーの打順に打者専門の選手を出すことが可能であることから、ピッチャーはピッチングに、打者専門の選手は打撃に集中することができるます。
つまり、DH制は強いピッチャーと強い打者が生まれやすくなるというメリットがあり、強いピッチャーと強い打者が生まれれば、試合がより盛り上がることが期待できます。
2リーグ制は勝負系コンテンツ・ビジネスに都合がよい
セパの誕生は偶発的なものでしたが、2リーグ制となることによって現在のプロ野球人気が支えられている部分もあります。
2リーグ制のマーケティング効果を考察していきましょう。
チャンピオン戦を年3回も組むことができる
2リーグ制の最大のメリットは、リーグどうしの対決を行えること。
毎春シーズンが始まると、12球団はリーグ優勝を目指し、毎年秋にセ・リーグの優勝球団とパ・リーグの優勝球団が決まります。
その後、2つの球団が日本シリーズという大会で頂上決戦を繰り広げます。
つまり、日本プロ野球では毎年、セ・リーグのチャンピオン戦と、パ・リーグのチャンピオン戦と、日本シリーズというチャンピオン戦の3回のチャンピオン戦が開催されることになります。
チャンピオン戦となるとファンが盛り上がるので、興行収入の増加が見込めます。
国民的行事になるチャンピオン戦が年3回も開催できることは、マーケターにとって魅力的といえるでしょう。
経営母体のビジネスが伸びる
12球団の保有企業には、新聞社、IT企業、食品企業、鉄道会社、飲料メーカー、リース会社、ネット企業が名を連ねています。
広島東洋カープのオーナーは個人ですが、その個人は自動車メーカーのマツダの創業家一族ですので、やはり「企業系球団」ということができます。
これらのオーナー企業は、保有球団が優勝するとセールを打ち出すことができます。
優勝機会が1回より、3回のほうがビジネスが大きくなるため、オーナー企業にとっても、チャンピオン戦は1回より3回のほうがよいといえるでしょう。
ファンの気持ちを揺さぶることができる
勝負系コンテンツ・ビジネスでは、顧客を絶えず興奮させる必要があります。
プロ野球の顧客とは、球団のファンです。
プロ野球のファンたちは長年にわたって、「どちらのリーグのほうが強いのか」「どちらのリーグのほうが面白い試合を展開しているのか」「どちらのリーグのほうが人気か」といったことで論争しています。
例えば、福岡ソフトバンクホークスは2020年の日本シリーズで、4年連続の日本一となりましたが、そのことによってマスコミやネットでは「パ・リーグ6球団のほうが、セ・リーグ6球団より強いのではないか」ということが話題になりました。
このような議論が起きると、セ・リーグのファンは「短期決戦の日本シリーズだけでは、球団の本当の強さは決まらない」と反論し、パ・リーグのファンは、「1年間を通じて高度な試合を見ることができるパ・リーグのファンでよかった」と思うでしょう。
つまり、ライバル関係の2つのリーグがあることで、ファンの気持ちを揺さぶることができるのです。
これはマーケティング的には、顧客をつなぎとめる効果を持ちます。
まとめ
プロ野球の2リーグ制は偶発的に生まれましたが、複数のリーグがあることでドラマが生まれやすくなり、面白さが増します。
プロ野球を含むコンテンツ・ビジネスでは、演出をしてファンをわかせる必要がありますが、2リーグ制の仕組みは、高い演出効果を持っているといえそうです。
(TOP写真提供 = zimmytws / Shutterstock.com)
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