スポーツ大国オーストラリアはスポーツビジネスにも積極的

オーストラリアは、国民の8割近くが何らかのスポーツをしていて、国民の半数近くがスポーツを観戦したことがあるといわれている国です。このことから、オーストラリアはスポーツ大国としてスポーツビジネスにも積極的です。ここでは、オーストラリアがなぜこんなにもスポーツに積極的なのか、また、どのようなスポーツビジネスを展開しているのかということについて解説していきます。

スポーツ大国「オーストラリア」

Australia

オーストラリアは、多くの国民がスポーツに関心を抱いている国の1つです。ここでは、オーストラリアのスポーツ人気の秘訣や政府の取り組みについて解説していきます。

オーストラリアで人気の高いスポーツ

オーストラリアで特に人気があるのが、海に関係するスポーツです。オーストラリアは世界有数のビーチを有しているので、水泳やボート、カヤックやカヌーといったスポーツが特に高い人気をほこっています。そして、その分野から世界トップクラスのアスリートが次々と誕生しています。

また、自転車競技もオリンピックや世界的な大会で数多くのメダルを獲得しているなど、人気が高いスポーツです。その他、ラグビーやサッカーも人気が急上昇しているスポーツであり、週末にはさまざまな場所でサッカーの試合が開催されています。

オーストラリアのスポーツに対する姿勢の違いとは?     

スポーツの大会では、アルコール飲料を販売する企業が大手のスポンサーになっていることが多くあります。しかし、オーストラリアでは、スポーツの大会や試合でのアルコール飲料の広告掲出を禁止する動きも活発です。

これは、オーストラリア野球協会がジュニア大会や代表戦におけるアルコール飲料の広告掲出や酒類メーカーとのスポンサーシップ契約を撤廃すること発表したことが由来しています。さらに、同協会はオーストラリアのあらゆるスポーツから、アルコール飲料の広告を取り退くことを政府に求めるなどもしています。

オーストラリアでこうした動きが活発になっているのは、アルコール依存症の予防や悪化防止という目的だけでなく、将来、有能なアスリートになる可能性がある子どもたちをアルコールから守るという目的もあります。

政府主導での取り組み

オーストラリアがスポーツに積極的な理由として、スポーツに適した広大な海と大地があることが挙げられます。さらに、市民レベルでなく国家レベルでスポーツへの取り組みが行われているということも挙げられます。

オーストラリア政府主導でのスポーツへの取り組みとして、70年代には国立スポーツセンターとセンターに併設したスポーツの研究所が設立されました。 

カタパルト社×IT

スポーツ大国であるオーストラリアで、世界規模のスポーツビジネスを展開しているのがカタパルト社です。そのカタパルト社が開発したのが、スポーツの世界に革命を起こしたと話題になっている「オプティムアイS5」というサッカーブラジャーです。

カタパルト社とは?

1976年のモントリオール五輪では、オーストラリアの金メダルの獲得数がゼロという異例の事態が起きました。それは、スポーツにチカラを入れるオーストラリアにとって屈辱的なことであったことから、政府は1981年にオーストラリアスポーツ研究所(AIS)を設立しました。

さらに、1990年には産業発展などのための研究組織として共同リサーチセンター(CRC)を設立し、これまで以上に国を挙げてのアスリートの育成に力を入れました。

この共同リサーチセンターに在籍していた研究者によって2006年に創業されたのがカタパルト社です。創業者が研究者ということもあり、社員にスポーツ科学の専門家が多いのがカタパルト社の特徴です。また、スポーツチームでコンディション管理の経験がある社員も多く在籍しています。

カタパルト社は企業買収などを通じてスポーツセンシングの領域で積極攻勢に出ており、2014年にはスポーツ向けGPSデバイスで競合のオーストラリアGPSports社を買収しました。さらに、2016年にはスポーツの映像解析サービスを手掛ける米XOS Digital社を、そして一般アスリート向けにGPSデバイスを販売するアイルランドPLAYERTEK社を買収しています。

顧客は世界で1000社以上

この「オプティムアイS5」は、現在では、オーストラリアのサッカーチームだけでなく、バイエルンミュンヘンやレアル・マドリード、チェルシーFCやナショナルチームではブラジル代表などでも採用され、カタパルト社の顧客は世界に1000社以上あるといわれています。

日本でもJリーグの11チームが採用していて、全スタジアムに専用カメラが設置されています。ピッチ全体を撮影して、選手・ボール・審判の動きをデータ化する「TRACAB」というシステムが導入されているJ1チームでも柏レイソルや清水エスパルスなどの4チームで採用されています。

サッカー以外のスポーツでは、アメリカのプロバスケットボールのNBAやプロアイスホッケーのNHL、アメリカンフットボールのNFLのチームや日本のラグビーのトップリーグに所属するチーム、日本卓球協会などでも採用されています。

カタパルト社が開発したデジタルブラジャーとは

カタパルト社は「オプティムアイS5」というデジタルブラジャーの開発によって、スポーツ向けGPSデバイスで市場をリードする会社へと成長しています。

「オプティムアイS5」にはGPS機能付きのチップが内蔵されていて、選手がそれを装着することで選手の走行距離や強度を測定し、試合中におけるポジションの修正や戦術変更を行ったり、選手のコンディションをデータとして蓄積することで、怪我のリスクを軽減することを可能としています。

「オプティムアイS5」では、走行距離や走行スピードのほか、加速・減速や体の傾き、地磁気センサーを搭載する場合には方向転換なども検出できます。

アディダス×海洋保護団体

カタパルト社が開発した製品は、日本のいくつかのプロチームで使われていますが、日本企業とオーストラリアの団体が一緒になってスポーツビジネスをすすめるなど、日本とオーストラリアがスポーツビジネスの分野で共同する場面があります。

例えば、日本の大手スポーツメーカーであるアディダスは、オーストラリアの海洋保護団体『パーレイ・フォー・ザ・オーシャン』と共同して、海岸に捨てられているプラスチック廃棄物を回収し、リサイクルする取り組みを行っています。

プラスチック廃棄物からつくられたウェアは、アディダスと契約しているテニスプレイヤーが世界的な大会で着用したことがありますが、その着心地は軽量で伸縮性があり、吸汗速乾性にも優れていて快適にプレーができたとされています。

アディダスはショーツやシューズ、ソックスなども制作していて、同社のオフィシャルショップで購入することができます。

電通×オーストラリアメディア

日本の広告代理店である電通は、「電通スポーツヨーロッパ」や「電通スポーツアメリカ」に続いて、オーストラリアにスポーツビジネスの営業拠点となる「電通メディア・オーストラリア」を設立しています。

電通メディア・オーストラリアとは

「電通メディア・オーストラリア」は、電通が世界でのスポーツビジネスの展開のために設立した16社目のネットワーク拠点です。母体は1976年に設立し、1990年代にはオーストラリアを代表するメディアエージェンシーへと成長した「Mitchell & Partners」。

電通は電通メディア・オーストラリアの設立を契機に、オーストラリアで高度な統合ソリューションやコンテンツ、テクノロジーを活用したイノベーティブなサービスを提供し、同国における成長戦略をさらに加速させています。 

広告代理店なのにスポーツビジネス?

広告代理店として有名な電通ですが、スポーツビジネスに力を入れていることでも有名です。

電通グループは、国際オリンピック委員会(IOC)や国際サッカー連盟(FIFA)、国際陸上競技連盟(IAAF)や国際水泳連盟(FINA)、メジャーリーグベースボール(MLB)といった国内外の競技団体とも密接な関係を築いています。

また、オリンピックやFIFAワールドカップに代表される世界的規模のイベントから、東京マラソンのような国内の市民参加型のスポーツイベントまで多種多様なスポーツビジネスに関わっています。

特に、IAAF・FINAとは10年以上の長く強固な関係を築いており、全世界的な権利販売の実績があります。

2020年の東京オリンピック・パラリンピックでは、マーケティング専任代理店に指名されています。

電通が「キャプテン翼」でスポーツビジネスを展開

日本の多くの人が、サッカーに興味を持つきっかけとなった「キャプテン翼」。

2018年にテレビ東京でリメイクアニメが放送されましたが、電通は、アジアとオセアニア地域における幅広い権利を独占的に獲得しています。

電通が獲得した権利には番組販売権や商品化権のほか広告使用権も含まれており、これらの権利を活用してサッカー人気が高まってきているオーストラリアで「キャプテン翼」を使ったスポーツ振興とビジネス開発を行っています。

まとめ

スポーツ大国として知られるオーストラリアでも、規模が拡大しているスポーツビジネス。

オーストラリアと日本が共同で進めているスポーツビジネスや、日本企業が大きく関わっているスポーツビジネスも多いといえます。


参考記事一覧

GPSでケガ減らす、「カタパルト」が支持されるワケ(SPORT INNOVATORS)

南半球でビジネスを考える vol.21 南半球で“スポーツビジネス”を考える(ビープラス)

オーストラリア野球協会で酒類メーカーとのスポンサーシップ撤廃の動き(Sports Sponsorship Journal)

アディダス、全豪オープンで“海岸のプラスチックごみ”で開発したユニフォームを選手に提供するCSV活動を実施(Sports Sponsorship Journal)

電通、オーストラリアにメディアエージェンシー「電通メディア・オーストラリア」を設立(DENTSU)