市場規模の拡大が進むスポーツテック。ウェアラブルデバイスによってアスリートの複雑な動きをデータ化して解析したり、試合のデータからハイライト動画を作成するなど、さまざまなソリューションの開発が進められています。
その中から、戦術ボードアプリや超音波・LED、各種のモニタリングセンサーを活用したスポーツテックの事例を紹介します。
著名アスリートが動画を監修。練習方法・戦術を分かりやすく伝える戦術ボードアプリ「Coachbase」
「Coachbase」は、iOS用に開発された戦術ボードのアプリです。
バスケットボールやサッカーなど、さまざまな競技で活用されているこのアプリの開発者はキース・ラムジャン氏。
「Coachbase」は、スマートフォンやタブレットで選手とボールの動きをシーンごとにアニメーションで表示することができるため、マグネットボードなどによるアナログな方法に比べてはるかに伝わりやすく、ハーフタイムや短いタイムアウトなどの限られた時間でも選手に作戦を的確に伝達することができます。
このアプリをアップデートした「Coachbase Practice Planner」は、チームのスキルに応じてメニューの難易度や種目を調節するアルゴリズムを搭載し、チームのレベルアップに必要な練習メニューを作成することが可能。
練習メニューの監修は、NBAのスーパースターであるステファン・カリー氏の育ての親、デル・カリー氏。そのスペシャリストが自ら動画に出演してコーチングしてくれる、というのもこのアプリの強みといえます。(http://www.coachbase.com/)
体内のグリコーゲンのデータを超音波で測定・解析し怪我を予防「MuscleSound」
「MuscleSound」は、超音波でアスリートの体内を計測することでケガを予防することができる、という画期的な技術です。
体内のグリコーゲンやグルコースの指標をモニタリングすることで、最適なタイミングで栄養補給をしたり、コンディションに則したパフォーマンスに関するアドバイスを受けることができます。
アスリートは、身体を鍛えるために強度の高いトレーニングを継続して行う必要がありますが、強度の高い運動は、体内のグリコーゲンをエネルギーとして消費します。グリコーゲンが十分な量だけ蓄えられていれば問題は無いのですが、グリコーゲンは体内で生成して貯蔵することが難しい物質。そのため、アスリートのように強度の高い練習を継続的にするとグリコーゲンの生成が追いつかなくなる「オーバートレーニング」を招くのです。
オーバートレーニングは筋肉にダメージを与え、それが慢性化すればグリコーゲンの貯蔵量が低下して、パフォーマンスも下がってしまいます。
MuscleSoundの使用方法はとても簡単。筋肉にデバイスを当てるだけで、6秒以内にグリコーゲンについてのデータを知ることができます。また、超音波を使って筋肉中の画像を15秒ごとに投影する仕組みとなっていることから、オーバートレーニングの予防が可能です。
アスリートに応じた指導を可能とし、軟部組織の損傷を予防する効果があることがMuscleSound活用のメリットといえるでしょう。(https://www.musclesound.com/)
体内の乳酸閾値の計測「BSX Insight」
「BSX Insight」は、LED光を使って体内の乳酸閾値を計測し、フィードバックすることによって、アスリートの限界まで運動をサポートするデバイスです。
「乳酸閾値」とは、血液中の乳酸濃度が急速に増加する限界点のこと。
激しい運動を行うと、細胞内に十分な酸素が行き渡らず、筋細胞内に乳酸が蓄積しますが、通常、乳酸は筋収集のエネルギーとして利用され、血液中に放出されます。血液中の乳酸濃度は筋細胞内で生産される量と利用量が同じであれば、変動がみられないものですが、筋肉で利用される速度より、生産する速度が上回った時、血液中の乳酸濃度が増加します。この血液中の乳酸濃度が急激に増加する値のことを「乳酸閾値」といいます。
つまり、乳酸閾値を計測すれば、トレーニング量の管理やパフォーマンスの管理が可能となりますが、乳酸閾値を計測するには、運動中に筋肉中の乳酸濃度を何度も分析する必要があり、容易ではありません。
BSX Insightは、脚の装着するだけで乳酸閾値を簡単に測定することを実現。LED光をふくらはぎに照射することで筋繊維中から毛細血管、脂肪組織層までを見透かし、皮膚の下で何が起きているかをリアルタイムで分析することができます。
乳酸閾値のほか、ペースやスピード、心拍数や走行距離、カロリーを同時計測することができ、スマートウォッチと連携することで、リアルタイムに乳酸値のフィードバックを得ることも可能。トレーニング後に分析を受けることで、アスリートはその成果を自分で簡単に確認することができます。
まさに、アスリートが自己の限界に挑戦するための、究極の武器となるでしょう。(https://wearables.com/products/bsx-insight)
球速や回転数、球種までも計測できる「Technical Pitch」
アクロディアが開発した「i・Ball Technical Pitch(テクニカル・ピッチ)」は、球速や回転数といった投球データを計測できるIoTボールです。
これは、3軸加速度センサー、3軸地磁気センサー、3軸角速度センサーを内蔵し、ボールを投げるとこれらのセンサーが投球データを測定する仕組みで、球速、回転数のほか、球種や最大加速値、回転軸などを計測することができます。
また、静止状態からボールをリリースするまでの時間、リリースから捕球するまでの時間、双方の合計タイムの3つでピッチングタイムも計測できます。
計測したデータは専用のアプリをインストールしたスマートフォンに転送されるので、自分の投球データを簡単に確認することが可能。投球データは専用のWebサービスで管理・記録できるため、「球速が何キロアップした」など、成長具合を可視化することで、トレーニングの成果を確認したり、コンディション調整をしたりするにも便利です。(https://technicalpitch.net/)
3Dカメラで正確なワークアウトをサポート「SmartSpot」
「SmartSpot」は、3Dカメラを駆使して正しいフォームを教えてくれるロボットトレーナーです。
使用方法は、カメラ付きのディスプレイデバイスを壁に鏡のように設置するだけ。約360あるといわれる関節のうち、トレーニングで重要となる22の関節の角度を測定してディスプレイに矢印や数字を表示することで正しいフォームかどうかをフィードバックしてくれるのです。
誤ったフォームで行うことで腰や背中を強く痛め、慢性化すると腰痛やヘルニアなどを引き起こす可能性もある重量スクワットなど、スポーツジムでは、間違ったトレーニングによる事故なども少なくありません。
SmartSpotを活用することで、間違ったトレーニングフォームによる事故を防止することにも役立つと期待されています。
FocusMotionが開発した投球動作を解析できるウェアラブルデバイス
FocusMotionは、投球練習のパーソナルトレーニングを受けられるソフトウェアを開発しました。同社では、ウェアラブルデバイスのジャイロスコープや加速度計、筋電計にアクセスする開発キットを提供しています。
その技術を活用し、野球の投手の投球動作を解析すれば、腕の振りや回転をトラッキングし、変化球の投げ方の指導に生かせるのです。同社は複数のウェアラブル企業とパートナーシップを結んでいますが、iOSとAndroid双方のアプリに対応したスマートウォッチ「Pebble」ともパートナーシップを結んでいます。
ウォッチに搭載されたモーションセンサーの精度を向上させる取り組みを進めて、MLB球団のロサンゼルス・ドジャース傘下のベンチャーファンドも支援していますが、野球に限らず、あらゆる競技への活用が期待されています。(https://focusmotion.io/)
まとめ
スポーツとテクノロジーの組み合わせを表す「スポーツテック」。
アスリートのパフォーマンスのさらなる向上を支えるには「スポーツテック」が欠かせないという時代を迎えつつあるといえるかもしれません。
今回紹介したスポーツテック以外にも、数多くのスポーツテックが活用されています。
どのようなスポーツテックが活用されているのか、注視してみると面白いでしょう。
(TOP 写真提供 = PhotoProCorp / Shutterstock.com)
《参考記事一覧》
3Dカメラで正しいフォームを教えてくれるロボットトレーナー「SmartSpot」(CNET Japan)
野球で変化球の投げ方を教えてくれる「FocusMotion」--アップルとも提携 -(CNET Japan)
球速や回転数などの投球データを計測できるIoTボール「Technical Pitch」(engadget)
プロスポーツ選手が監修した戦術ボードアプリ「Coachbase」(CNET Japan)