2016年のリオ五輪において、男子団体が銀メダル、女子団体が銅メダル、水谷隼選手が個人で銅メダルを獲得するなど、日本選手の活躍が記憶に新しい方も多いと思いますが、張本智和選手や伊藤美誠選手ら、若手選手の世界大会での活躍など、東京五輪を前にメダルの期待も高まり、卓球界は大きな盛り上がりを見せています。
そんな卓球の市場規模はどのくらいでしょうか?
市場規模は、メーカーが販売計画を立てる上での重要な指標であり、その競技のスポーツ団体の売上の合計で表すこともありますが、ここでは競技の用具出荷額の市場規模について紹介していきます。
卓球ブームで右肩上がりの競技人口
冒頭でも述べた通り、大きな盛り上がりを見せる卓球界ですが、その競技人口はどのぐらいでしょうか。
世界と日本、それぞれの競技人口について見ていきましょう。
世界の卓球競技人口
全世界における卓球の競技人口は約3億人。卓球というと中国を思い浮かべる方も多いと思いますが、その中国の競技人口は3,000万人。愛好者を含めると8,300万人いるとされています。
一方、日本の愛好者は120万人。中国についで2番目に多い数であり、この2国は世界で突出しています。
韓国も卓球の競技人口が多いイメージがありますが、その数は40万人と、差は歴然です。
卓球プロリーグのブンデスリーガがあるドイツの登録人数は70万人、そして、フランスは20万人といわれています。
日本の卓球競技人口
日本卓球協会は、毎年、加盟団体登録人数を発表していますが、この登録人数は、試合に出場するようなコアの競技人数を表すもの。それによると、2018年の登録人数は358,600人。年々、右肩上がりで増えているとされています。
日本卓球協会 加盟団体登録人数
年度 | 2015 | 2016 | 2017 | 2018 |
登録人数(人) | 327,132 | 333,567 | 348,195 | 358,600 |
一方、総務省が発表している10歳以上のスポーツ行動者数の統計では、卓球の2016年のスポーツ行動者数は766万人。日本卓球協会が発表している登録人数とはかなり差がありますが、総務省のスポーツ行動者数には、例えば湯治場にある卓球台で温泉卓球をプレーしたような人数も含まれる数字であるため、この差が生まれたと考えることができます。
また、少子化で各競技の登録者数は減少傾向にありますが、中学生徒の卓球加盟団体登録者数は10年前よりも増加しており、卓球競技への関心の高さを伺うことができます。
卓球台・卓球用品の市場規模も成長中
矢野経済研究所の「スポーツ用品分野別国内出荷市場規模推移」(2020年)によると、スポーツ用品全体の市場規模は、2019年まで4年連続のプラス成長となっています。
スポーツ用品分野別国内出荷市場規模推移(単位:百万円)
2015 | 2016 | 2017 | 2018 | 2019(見込) | |
全体 | 1,411,380 | 1,450,250 | 1,486,700 | 1,536,400 | 1,569,110 |
ゴルフ | 259,590 | 254,690 | 258,700 | 262,640 | 269,020 |
野球・ソフトボール | 70,630 | 71,530 | 70,670 | 68,770 | 67,780 |
サッカー・フットサル | 62,320 | 61,120 | 61,400 | 59,070 | 53,940 |
テニス | 56,640 | 55,900 | 55,510 | 52,140 | 48,890 |
卓球 | 12,150 | 12,250 | 12,830 | 13,640 | 13,230 |
そして、卓球の市場規模も年々増加していることが分かります。
卓球の市場規模は約130億円
スポーツ用品全体に対する卓球用品の割合は1%に満たない約130億円ですが、2015年の121億円から、Tリーグが開幕した2018年の136億円まで、年々、市場規模が拡大しています。2017年から18年にかけて野球やサッカー、テニスなどが出荷額を下げる中、卓球は堅調といえるでしょう。
卓球用品の市場は、ラバー、ラケット、ボールの3つの用品が中心になりますが、それ以外にも卓球台やネットなどの付属用品等があります。
卓球台の世界需要と国際展開
世界全体における卓球台の需要は年間40万台。そのうち約5%がトップアスリート向けといわれていますが、卓球台は、ボールのバウンドや速さに影響があるため、選手にとって試合を行う上で大きな影響を及ぼすものでもあります。
その卓球台の中でも、注目を集めたのが千葉県流山市の卓球台メーカー「三英」が作る卓球台です。
「三英」が作る卓球台は、機能だけでなくデザインも美しく、2016年リオ五輪でも採用。日本選手の活躍とともに注目されました。
三英は、ボールのバウンドに影響を及ぼす塗料を、天板塗料の有機溶剤から水性顔料に切り替え、塗料を乾かす時の天板の反りを極力抑えることでバウンドの安定を図りました。また、揮発性有機化合物削減による作業環境の改善にも取り組んでいます。
25年前に発表された青色天板は、日本ではすでに定着しているものの、海外では今なお緑色の天板が主流。海外展開へ向け、光の加減で青にも緑にも見える「レジュブルー」色の天板を開発し、売り込みを図っています。
「ラバーを制すれば業界を制す」
市場の約4割にあたる約50億円の売上を計上するのが消耗品のラバーです。これは、ラケットの売り上げのほぼ5倍であり、業界では「ラバーを制するものは業界を制す」といわれるなど、各社、消耗品のラバーの開発にしのぎを削っています。
ラバーは天然ゴムと合成ゴムを配合して、焼き固めて作るもの。
ラバーの中で圧倒的なシェアを誇るものとして裏ラバーがありますが、これは、表はつるつる、裏にゴムの突起物をスポンジに貼り付けたラバーです。
ゴムの突起物の長さや間隔の組み合わせで、スピードと回転を調節して選手達にベストフィットのラバーを提供します。
ミズノは、卓球市場への参入は後発であり、ラバーの自社開発は2007年からスタートしました。ラバーを自社で開発する以前は、ドイツメーカーからの輸入を行っていましたが、市場が受け入れてくれるよい商品を自社で提供したいと考え、愛知県の化学メーカー住友理工と協力し、開発に至ったのです。
ミズノは、ラバーの開発にあたり、1,000件以上の試作品を作り、計測テストは3,000回以上行ったとされています。
初の自社商品である「Q3」は、開発を始めて10年の2017年に満を持して発表されましたが、市場に受け入れられ、進化を続けています。
新型コロナ感染症の影響
新型コロナ感染症の拡大により、さまざまなスポーツに影響が及んでいますが、卓球も冷害ではありません。
卓球はラケットでボールを打ち合う競技であり、練習用ボールは多くの選手が繰り返し使うことから、感染予防に気をつけたいところ。
卓球用品メーカー日本卓球(ニッタク)は、2020年8月、卓球愛好者向けに業界初の抗菌ボール「Jトップクリーントレ球」を発表しました。
卓球のボールは2014年にセルロイドからプラスチックに変わり、回転がかかりにくくなりました。また、硬式球もセルロイドでは直径が下限39.6ミリだったところ、プラスチックボールでは40ミリと若干大きくなっています。
それに従い、選手達はラケットの材質やラバーの感触を変更させています。
新型コロナ感染症に対応した抗菌素材の用具類が販売されることによって、用具類の買い替え需要が生み出されることとなるでしょう。
テクノロジーも市場の成長を後押し
ITテクノロジーを商品開発などに取り入れる「スポーツテック」を利用したスポーツ用品の開発等も市場の成長を後押ししています。
大手電気機器メーカーの京セラは、慶應義塾大学SFC研究所と提携し、3軸水晶ジャイロセンサーを開発しましたが、このセンサーを使えば、瞬間的な速い動きを計測し、数値化することが可能。
卓球ラケットセンサーシステムは、卓球のラケットのグリップにセンサーを取り付けて使用するだけで、試合や練習でのラケットの動きのデータを収集し、パソコンやスマホでデータ分析ができるものとなっています。
使い方が簡単なので、取り入れやすいシステムだといえるでしょう。
また、大手IT企業シスコシステムズは、映像を分析することによって、選手に試合を客観視させ、戦術改善に役立てる取り組みを始めていますが、このシステムは石川佳純選手のサポートチーム「チーム佳純」が取り入れています。
このシステムを活用することによって、戦術の改善はもちろん、対戦相手の映像を予め見ることで試合でのストレスの軽減が図れるとされています。
卓球にテクノロジーを取り入れることで、スポーツ技術の向上や高度化が期待できます。
まとめ
日本でブームとして盛り上がる卓球について、競技人口や卓球用具の市場規模、スポーツテックを取り入れた卓球界の動きを紹介しましたが、いかがでしたでしょうか。
新型コロナ感染症により、開幕が遅れたTリーグも活動を開始し、2021年にはオリンピック開催が迫る今、卓球界の動きに注目が集まります。
(TOP写真提供 = PhotoProCorp / Shutterstock.com)
《参考記事一覧》
スポーツ用品市場に関する調査を実施(2020年) (矢野経済研究所)
加盟団体登録人数 (公益財団法人 日本卓球協会ホームページ)
社会生活基本調査 / 平成28年社会生活基本調査 / 調査票Aに基づく結果 生活行動に関する結果 生活行動編(全国) スポーツ (統計でみる日本)
五輪代表。120万人から6名の日本と、8300万人から6名の中国 (卓球王国WEB)
ブーム逃すな 130億円卓球ラバー市場に参入「後発」ミズノの皮算用 (産経WEST)
「どこに当たっても均一にバウンドする」卓球台で東京五輪を制するのは? (ニュースイッチ)