ウィズコロナ時代、変化するスポーツ観戦スタイルとスポーツビジネス手法

人々の日常生活を大きく変えた新型コロナウイルス感染症。

その影響はスポーツ界にも及んでいます。

2020年開催予定であった東京オリンピックが1年延期となったことをはじめ、各種プロスポーツ競技も、2020年度は軒並み当初の年度計画が日程を変更。緊急事態宣言解除後、7月に入って、中断や延期されていた大会やリーグが再開しています。

しかし、新型コロナウイルスが完全な収束に向かうのは2022年という意見もあり、大人数がスタジアムに集まって声を大にして選手やチームを応援するという、従来のスポーツ観戦のスタイルが完全に戻るのにはしばらく時間がかかりそうです。

ここでは、サッカーJリーグの動きや取り組みを中心に、新型コロナウイルス感染症と共存していく「ウィズコロナ」時代のスポーツ経営についてみていきましょう。

7月から観客を入れての試合開催を開始

新型コロナウイルス感染症の影響により日程変更を余儀なくされたスポーツ競技。

緊急事態宣言解除後、Jリーグは無観客での試合を開始しましたが、7月に入ってから観客を入れての試合開催が開始しました。

今年度のJリーグの日程と感染症対策について紹介していきます。

日程変更を余儀なくされたJリーグ。その開催日程は?

2020年。Jリーグは開幕直後に感染が拡大した新型コロナウイルス感染症の影響によって、中断を余儀なくされましたが、6月27日からJ2・J3が開幕し、7月4日からJ1が再開されました。

再開当初、無観客での試合開催でしたが、7月10日以降は、5,000人を上限に観客を入れての試合が再開しました。8月1日からは観客入場をスタジアムの半数まで緩和の方針でしたが、全国的な感染者数増加に伴い緩和は延期。8月15日現在、5,000人を上限とした試合開催となっています。

また、ルヴァンカップは、2月16日に開幕戦第1節8試合が行われたのち、長く中断されていましたが、大会方式を大幅に変えて8月5日から再開されています。

新型コロナウイルス感染症の特徴を考慮し、感染対策を徹底

新型コロナウイルス感染症は、

  • 無症状者でも感染力がある
  • ウイルスが変異しやすくワクチンが作りにくい
  • 特効薬がまだない

などの厄介な部分がありますが、

  • 3密を避ける
  • 社会的距離を確保する
  • 体温を測り体に変調があるときには無理に外出しない

など、注意を払うことで、ある程度、感染拡大が抑えられることが分かってきました。

コロナウイルスについて分かった情報を基に、Jリーグは、専門家の監修のもと、5月14日付で73ページからなる新型コロナウイルス感染症対応ガイドライン(最新更新7月27日)を公表しました。

内容は、選手や関係者の健康と安全を確保するため、練習や試合、移動や宿泊などでの留意点と発生時の措置を定めたほか、観戦者の入場ゲートでの検温実施(37.5度以上の入場禁止)やマスク着用、消毒の実施や人との間隔の確保、座席の移動禁止や大声を出したり歌を歌ったりすることでの応援の禁止、ハイタッチや肩を組むこと、タオルや旗・ビックフラッグの禁止などとなっています。

また、Jリーグは独自にPCR検査センター(JCTC)を設け、再開後は2週間に1回は選手とコーチングスタッフに検査を継続して行うとしています。

試合を盛り上げるため、さまざまな取り組みを実施

多くの制約がある中で試合が再開されたJリーグ。

無観客・観客動員数を限定しての試合開催となるなか、試合を盛り上げるためにさまざまな取り組みがなされました。

その1つが、ファンの写真をプリントした段ボールパネルを観客席に並べる、というもの。

これは、2014シーズンの大宮アルディージャと徳島ヴォルティスの試合で大宮アルディージャのサポーターがユニフォームやTシャツを着せた段ボール人形をスタンドに並べたものが原型であり、アルビレックス新潟やサガン鳥栖、大分トリニータなど、さまざまなチームに取り入れられています。

また、モンテディオ山形やジュビロ磐田はサポーターの顔を印刷した旗を、ベガルタ仙台はマスコット人形を観客席に置くなど、各クラブごとに特色のある取り組みがなされています。

このほか、川崎フロンターレのスタジアムでは、選手の原寸大の足形をプリントした注意喚起シートを社会的距離の間隔で地面に貼っていますが、これは、開場を待つ間、サッカー選手の個性ある足形を楽しみながらテンションを上げつつ、コロナ対策をしてもらおうという取り組みです。

ヴィッセル神戸では、7月11日に開催された大分トリニータとの試合の際に、「ドライブインパブリックビューイング」を実施しましたが、これは、神戸市内の大型商業施設の駐車場を会場に、大型ビジョンとラジオ実況で試合観戦を楽しむというものであり、抽選で選ばれた40組の人たちが参加しました。

自動車のライトやハザードランプの点滅などでの応援方法のルールも決められており、参加者は自動車に居ながら応援を楽しむことができたとしています。

新しい観戦スタイルへの順応

ウィズコロナの時代にあって、声を出して応援する代わりに拍手で応援をするという新たな応援方法がスタートしています。

この応援方法には、選手側からは無観客の試合よりも応援されているという感覚が味わえてうれしかったという声が、そして、観客側からは、従来は応援の音によってかき消されていたボールの音が新鮮に聞こえて臨場感を味わえた、との好意的な感想がありました。

また、J1ジュビロ磐田のスポンサーである音楽メーカーのヤマハは、スタジアムで観戦できないサポーターたち向けに「リモート応援システム」を開発しましたが、これは、スマホ上の専用アプリで、視聴者が拍手や歓声のボタンを押すと、自分の拍手音や声が競技場のスピーカーから出る仕組みのもの。

声を上げての応援が難しい時代に、試合を盛り上げる重要なシステムとなりそうです。

ヤマハは楽器メーカーらしく、このリモート応援システムは音楽ライブなどで活用することも考えています。

入場料収入から放映権料収入へ

写真提供 = Wpadington / Shutterstock.com

新型コロナウイルス感染症が拡大する以前、スポーツのビジネスモデルは、多くのファンにスタジアムに集まってもらい、その入場料収入とスタジアムでのグッズや飲食の販売で収益を得るというものでした。

したがって、各チームはできるだけ主催試合を増やしたい、と力を入れていましたが、ウィズコロナの時代では、スタジアムに集まって応援するということができない、もしくは健康上のリスクからスタジアムに行きたくない人が増える傾向にあり、従来のスポーツビジネスのスタイルは変更せざるを得ない状況に来ています。

すでに、地上波や衛星放送、有料チャンネル放送から、自分で希望する場所と時間でスポーツ観戦が可能になるスポーツ専用ネット配信事業者DAZNなど、オンデマンドのネットメディアに興味が移りつつあります。

緊急事態宣言下での自宅待機で、ネット会議アプリなどを通じて大人数でコミュニケーションすることの楽しさをネットユーザーが知ったことで、今後はスポーツ観戦もオンラインで仲間たちとネットで観戦し、盛り上がる機会が増えることでしょう。

また、大容量・高速通信を実現する5G放送の普及により、5Gを使った臨場感あふれるスポーツ中継が行われつつあります。

2020年度は日米より先に韓国や台湾のプロ野球が開幕し、その試合中継に注目が集まりましたが、台湾のプロ野球は、時差のためにちょうど朝食をとりながら野球を観戦できるため、アメリカの野球好きの間で「ブレイクファスト・ベースボール」と呼ばれて人気が出ていて、韓国のプロ野球も、アメリカのスポーツ専門チャンネルESPNと放映権契約を結び、世界130カ国で試合が放送されるようになりました。

ウィズコロナの時代では、スタジアムの観客収入から放映権にシフトしていくものと考えられます。

一方で、スタジアムで観たい観客が一定数いるのは間違いありません。

スタジアムでの観戦方法は、コロナ観戦対策をしっかり行ったVIPや接待用のシートなど、低価格×大人数から、高価格×少人数へ変化していくことも予想されています。

まとめ

ウィズコロナのスポーツ観戦とスポーツビジネスについて、Jリーグの現状を交えて紹介しましたがいかがでしたでしょうか。

ウィズコロナの時代のスポーツ観戦は、IT技術等を用いた取り組みなど、新たなスタイルが求められています。

また、スポーツビジネスでは「入場料収入から放映権収入へ」という流れがすすんでいます。

まだまだ手探り状態での運営が続くウィズコロナのスポーツ観戦とスポーツビジネス。

柔軟な対応が求められています。

( TOP写真提供 = Black_Kira / Shutterstock.com)


《参考記事一覧》

座席移動、応援歌禁止などの観戦ルールも Jリーグがコロナ対応ガイドライン (毎日新聞)

コロナ後のサッカー観戦はどう変わる? 5G活用と客席高級化の可能性(WEB SPORTIVA)

新型コロナはスポーツ観戦を変えるのか。プロ野球とJリーグの観客入り開催を機に、専門家に聞いた。(HUFFPOST)

「ウィズ・コロナ」の時代に求められるプロスポーツ経営、バーチャル集客と感染防止が課題(nippon.com)

Jリーグが実施する感染予防策 (Jリーグ公式サイト)