新卒でJクラブのフロントスタッフに。栃木SC福島愛海さんの「人生を変えた3分」

スポーツ業界で働くビジネスパーソンに、これまでのキャリアと現職について伺う連載企画。今回は、新潟の専門学校・JAPANサッカーカレッジを卒業後、新卒でフロントスタッフとして栃木SCに入り、チケットとファンクラブを担当する福島愛海(ふくしま・あみ)さんです。(聞き手はHALF TIME編集部の横井良昭)

栃木SCでチケットとファンクラブを担当

――まずは現在の栃木SCでのお仕事について聞かせください。

栃木SCのマーケティング戦略部に所属していまして、主にチケットセールスとファンクラブ運営を担当しています。シーズンパスの商品設計からインターネットでのチケット販売の準備、そして販売促進のためのプロモーション活動を担当しています。

フロントといっても、試合日はチケット売り場の担当です。試合日は朝礼が終わったら販売の作業に入ります。チケット売り場のオープンの準備をして、販売スタッフの方々に運営の指示をして。開場後はイレギュラー対応がメインになります。試合が始まるとチケット売り場は落ち着いてくるので売上の集計をしたり休憩をとったりという流れですね。

ファンクラブについては、シーズンパスチケットと同様に特典となる商品の企画をしています。特典内容は多岐にわたるのでもうひとりの担当者と一緒にアイデアを練っています。

――オフィスワークから現場まで、様々なお仕事をされているんですね。チケットの販促では、具体的にどのような施策をされてきたのですか?

コロナ禍でスタジアムに足を運ぶというのがなかなか難しくなっているのですが、去年は「NO残業デー」という企画をやりました。平日ナイターの試合で、サラリーマンの方々が名刺をチケット売り場に持ってくると、バックスタンドの席が1コインの500円で購入できるという企画をやって、かなり好評でした。

あとは昨年から本拠地が「カンセキスタジアムとちぎ」という新しいスタジアムになったので、それをフックに近隣住民の方々を招待するという企画も年間を通して行いました。

フロントスタッフの仕事へ。「人生を変えた3分間」

――新卒でスポーツ業界で働こうと思ったきっかけは。

父がサッカーをやっていたりと私の家族はサッカーが好きで、地元が愛知県なので名古屋グランパスの試合をよく見に行っていました。フロントスタッフの仕事に興味を持ったのは、中学生くらいのときですね。私自身はサッカーがすごく好きだったので、サッカーの面白さをもっと色んな人に知ってもらいたいなって。

今でこそ「セレ女」とか、インスタ映えでサッカーも話題になってますけど、当時はスタジアムに行っても女性はほとんどいなくて(苦笑)。特に私のような学生世代は少なかったので、そういう人にもっとサッカーを知ってもらいたいと思ってフロントスタッフを目指したのがきっかけです。

――栃木SCへの入社に至るまでのエピソードを教えてください。

フロントスタッフに興味を持ってからは、どうやったらなれるのかをインターネットで検索しました。新潟のJAPANサッカーカレッジが出てきたので、スポーツビジネス科に入学を決めて、高校卒業後は専門学生として2年間学びました。

今でこそサッカー界の求人もオープンになっていますけど、私が学生のころは人脈で何とかするという感じだったので、先輩が多くいるところの方がいいのかなと思ったんです。実際に入社してみて思うことは、確かに人脈は大事です。

専門学校ではアルビレックス新潟でインターンをさせてもらったり、いろんなフロントスタッフの方に講演会などでお話を聞く機会がありました。学校外でも、1年生のときに新潟でスポーツビジネスの講演会があったんですが、そこの講師にたまたま江藤さん(江藤美帆氏。栃木SC取締役 マーケティング戦略部長)がいまして。講演後に名刺をいただいて、将来についてほんの2~3分お話しをさせていただいたんです。

その後、2年生になって就職活動をしていた頃、江藤さんから「チケットセールスのポストが空いてる」というお話をありがたいことにいただいて。その後、栃木SCで数日インターンをしたのち、入社しました。

――アルビレックスなど様々なクラブにも携わって、最終的に栃木SCに決めたきっかけは?

クラブの雰囲気がすごくアットホームで、おこがましいですけど、インターンの初日からスッとフィットしたというか…。いろんなクラブに行って、その度にもちろん緊張するんですけど、栃木SCには他のクラブ以上の「温かさ」があって。

「ここでだったら頑張りたい」という思いがすごく強かったので、それが決め手になりましたね。もちろん江藤さんの存在も大きくて。新卒で江藤さんのもとで働く機会はなかなかないと思うので。

即戦力としての入社「そうなれていたらいいな」

――就職後、専門学校での経験が活きたというエピソードがあれば教えてください。

やはり実務の場数を多く踏めていたというのは、大きかったですね。学校自体も北信越リーグのチームをひとつ持っていて、学生が運営をするという実習もありました。なので実務はかなり鍛えられたと思います。

就職すると外からクラブを見られる機会はなくなってしまうので、在学中はアルビレックスだけでなく他のチームにも何回かインターンに行きました。

――「即戦力」としての入社ということですね!

そうなれていたらいいなと思います(笑)。専門学校の先生方も仰っていたんですが、サッカークラブでは一般企業のような研修や育成期間があまり無いので、学校はインターンや実務に力を入れていました。

――お仕事をしていて、やりがいを感じた瞬間は。

チケットは如実に成果を見られます。プロモーションが狙い通りにいったときは嬉しいですね。今は「コロナ前にスタジアムに来ていたけれど、それ以降は来ていない」という層が増えていると思います。今年はその層を呼び戻すことを手厚くやっていきたいと思っています。

実際、Jリーグ全体もそういう動きになってきています。栃木SCでは去年の来場履歴が無い方に対して、チケットを特別価格で買えるというようなメルマガを送る施策もしています。単純ではあるんですけど、そういうところからはじめています。

コロナ禍を経て「過去最高」へ挑戦

――今後の目標は何かありますか?

実は私、入社してからすぐコロナ禍になってしまって、まだコロナ禍じゃない試合運営をしたことがないんです。なので、コロナ禍が落ち着いたタイミングで栃木SCとして今までで一番のチケット売上をあげるとか、シーズンパスやファンクラブの会員数を史上最高値まで持っていくというのが今の目標です。

――今後スポーツ業界に入りたい方に伝えたいことは。

やっぱりチームに入ってみると、研修や育成期間はなかなかありません。なので、理想としては即戦力として入社するのが一番だと思います。

あとは、クラブに入ると「このやり方が当たり前」という固定観念を持つようになってしまうので、いろいろなチケット施策やプロモーション施策をみておくと、柔軟な考えができていいのではと思います。

私も、一人のサポーターとしてこういう施策があったらいいなというものをノートに書き留めておいたんですが、いまそれを見返すと「すごい発想してるな」って。今はこんな考え方できない(笑)。クラブの外からの視点を残しておくというのも、大事なのかなと思いますね。