「ファンを連れてくるのはファン」 栃木SCマーケティング戦略部長 江藤美帆氏が語る、インフルエンサーマーケティングの「本質」

マーケティング支援会社トライバルメディアハウスによるオンライントークイベント「#好きだから宣伝したい~インフルエンサーマーケティングを変えよう~」が10月に開催。インフルエンサーマーケティングの「あるべき姿」と「成功・失敗則」をテーマにしたセッションには、同社代表取締役社長の池田紀行氏と共に、J2クラブの栃木SC マーケティング戦略部 部長の「えとみほ」こと江藤美帆氏が登壇し、プロスポーツにおけるSNSマーケティングやインフルエンサー活用、ファンづくりについて語られた。

そもそも、インフルエンサーとは?

栃木SC マーケティング戦略部 部長 江藤美帆氏

セッションは「そもそもインフルエンサーとは何か?」という本質的な問いからスタート。デジタルマーケティングの豊富な知見をもとに栃木SCのマーケティング戦略部長としてクラブ運営に関わる江藤氏は、「SNSのフォロワー数に関係なく、特徴がはっきりしていて、(他人の)行動変容を起こすことができる人がインフルエンサー」と定義づけた。

また、自分自身のフォーマットが出来ているからこそ、アンチとされる人も一定数存在する。これがマスメディアで人気になる芸能人とは異なる特徴であり、「100万人アンチがいても、10万人に好かれていればビジネスが成り立つのがSNS」(江藤氏)であるという。

とはいえ同氏は、この基準に照らし合わせてみると「インフルエンサーと認識できる人は、事実上少ないのではないか」とも指摘し、安易にインフルエンサー活用に傾倒することに警鐘を鳴らした。単純にフォロワー数という量的な尺度だけではなく、いかにエンゲージメントと、その先の行動の変化を起こせるかがカギだという。

池田氏は、インフルエンサーという存在がファンマーケティングの観点から重要である点を指摘した。「ファンという強い顧客基盤があることが、ブランドにとっての強みになる」と話す同氏は、「ファンを連れてくるのはファン」との見解を示し、公式SNSでユーザーに商品やサービスを認知してもらっても、その先の購買という行動変異まで起こすためには、「ファンによる最後の一押し」が重要であると話った。

江藤氏もこれに同意し、アイドルグループのファンによる「布教活動」を例に挙げ、「SNSを通して、既存のファンが新しいファンを引き込むことができる時代」だと語る。それはサッカーでも同様であり、新規のサポーターはユニフォームやチケットの買い方などに敷居の高さを感じやすいが、そこで手ほどきをしてくれる既存サポーターがいると一気に敷居は低くなるという。

スポーツは、得てして「専門用語」や「玄人向け」の説明が飛び交いがちだ。先述の例はまさに、既存のファンがインフルエンサーになることで、クラブの新たなファンが生み出される瞬間であるといえるだろう。

インフルエンサーマーケティングの本質

トライバルメディアハウス 代表取締役社長 池田紀行氏

続いて池田氏は、現在のインフルエンサーマーケティングに対して、インフルエンサーが広告媒体の代替として捉えられ、「フォロワー数の多いアカウントに対してお金を払い、宣伝を依頼すれば効果が得られる」と考えられている風潮があるのではないかと問題提起した。

江藤氏もこれに同意し、「自身のアカウントのコンテンツに直接関係しない、商品やサービスの宣伝依頼をされることが多い。それはフォロワーに対する(自分の)信頼度を下げることにつながる」と、自身の体験談をもとに語った。元IT企業社長からJクラブへの転身で注目される同氏(@etomiho)のフォロワー数は5.7万を誇る。

その上で同氏は、SNSは、あくまで「関係づくり」の媒体であると認識することが重要だと唱える。フォロワー数が増えればインプレッションが大きくなるため、目に見えるリーチとしての効果が注目されがちだ。しかし重要なことは、「信頼度」であり、時に「ネガティブなことも発信する」(江藤氏)という。

フォロワーとは、そこに透明性やその人らしさを感じて信頼関係が構築される、それこそがインフルエンサーマーケティングの本質であり、企業やクラブは今一度これを理解しなければならない。

選手もファンもインフルエンサーに

デジタル化が進むスポーツ界の中で、いち早く「デジタル人材」を据えた栃木SC。クラブのこれからの展望へと話が移ると、江藤氏がまず挙げたのは、「熱をもって応援してくれるサポーターを、さらに巻き込んでいくこと」だ。「ファンを連れてくるのはファン」であり、熱を持ったファンがインフルエンサーになることで、クラブが地域や市民と「共創」していくことが重要であると語った。

加えて江藤氏は、「選手のローカル・インフルエンサーとしての可能性」も今後の展望として挙げた。コロナ禍で試合での露出が減り、選手の広告媒体としての価値が発揮できない状態に陥ってしまった反面、SNS上での露出を増やしたところ新たな発見があったという。

クラブではコロナ禍、初めは公式SNSでパートナー企業の商品のPR活動を行っていた。すると選手たちから「チームのために何かできることはないか」と相談があり、選手個人のアカウントでも積極的に地域パートナー企業のPR活動を行うこととなったという。その結果、非常に高いエンゲージメントを獲得したのだ。

江藤氏は驚きとともに、SNSマーケティングにおいて、選手の持つローカルサポーターとのつながりが非常に有効であることを実感したという。そして今後は、この選手のローカル・インフルエンサーとしての可能性を活かした取り組みを積極的に行っていきたいと抱負を述べた。

前述のように、フォロワー数だけでインフルエンサーであるかどうかを判断するのではなく、誰とコミュニケーションしたいかを明確にした上で、それに対して影響を与えられる人物をインフルエンサーに据えるという発想だ。

セッションの最後には、池田氏から「これからインフルエンサーマーケティングに取り組む人々へ、何を伝えたいか」という質問が投げかけられると、江藤氏はこれまでのクラブでの取り組みを振り返って、次のように企業やプロスポーツクラブの担当者にメッセージを送った。

「SNSは『熱』を伝えるメディア。だからこそ、事業主側は単にフォロワー数が多い人に依頼をするのではなく、本当に企業の商品を熱を持って愛してくれる人に声をかけ、インフルエンサーになってもらうことが重要です」