コロナ禍で多くのスポーツが苦境に立たされている。試合の中止や無観客試合、観客数の制限などが課されると、チームの収益にも甚大な影響が出る。そこでJリーグクラブのセレッソ大阪は、オークションを活用して2020年から会場で使われたバナー(旗、横断幕、のぼりのこと)などを販売してきた。サポーターへの認知も広まりつつあり、新しい価値を提供するために取り組みを進めている。
利用するのはスポーツチーム公認オークション「HATTRICK」。会場で使われたバナーや会場で使われたチームフラッグなど、スポーツグッズなどの公式アイテムをオークション形式でファンのもとに届けるオークションプラットフォームだ。取り組みについて、セレッソ大阪 事業部 コンシューマーグループ マーチャンダイジングユニットの島村里実さん、社長室 広報プロモーショングループ プロモーションユニットの野口翔大さん、そしてHATTRICK ファンクリエイターの福重瑛貴さんに話を伺った。
新しい価値を見える化するオークション
特定の試合でだけスタジアムで使われるバナーなどは、使用後は処分されてしまうことが多い。それをオークションという形で販売することで、チームには新しい収益をもたらし、ファンには普段は購入することのできない貴重なアイテムを手にするチャンスを作り出す。これがHATTRICKの仕組みだ。
HATTRICKを運営しているのはバリュエンスグループのバリュエンスジャパン。バリュエンスはブランド品などのリセール、リユース事業を手掛けているので、そのノウハウを存分に活かし、スポーツ、そして選手の価値を高めるため、チームと共にオークションに取り組んでいる。
――セレッソ大阪とHATTRICKのファーストコンタクトはいつ頃だったのですか。
セレッソ大阪 島村里実さん(以下、島村):2019年にHATTRICKさんから声をかけていただきましたね。新型コロナウイルスの感染拡大が起きる前です。実施の準備をしているうちに感染が拡大していき、Jリーグの試合も観客数を制限するなどしたため、チケット収入などが減ってしまっていました。今にして思うと、極めて絶妙なタイミングでHATTRICKを活用してチームに収益をもたらせたので、とてもよかったと思っています。
HATTRICK 福重瑛貴さん(以下、福重):HATTRICKでは、私たちファンクリエイターがチームに寄り添う形で、どのような形で課題を解決していけるかを一緒に考えていきます。オークションについても、いつ、どんなものを、どんな形で販売していけばよいか、チームと共に検討しています。
――これまでどのくらいオークションを開催したのでしょうか?
島村:2020年には2回、2021年には本格的に開催して16回行うことができました。2021年は、ホームゲームで試合に勝利したときには必ずオークションを行うということにしたんですが、チームの調子がよかったこともあり、回数を重ねられましたね。2021年の売上は1100万円ほどになりました。
セレッソ大阪 野口翔大さん(以下、野口):数年前から「ホットマーケット」の取り込みを進めています。チームが勝利した直後は、サポーターの熱気が最高潮に達しています。その状態でグッズ販売を行うことで、収益をより上げていくことができることがわかってきました。ですので、オークションでの収益を最大化するために、ホームゲームでの勝利後、タイミングを逃さずにオークションを行うことを決めました。チームの勝利のほかには、選手の移籍のタイミングなども熱量が高まりますね。
福重:大久保嘉人選手がJ1歴代最多得点の記録を更新したときのユニフォームなども、タイミングよくオークションすることで、高価格で落札されたという実績もありました。
島村:以前はバナーをチーム独自でオークションしたり、ユニフォームを特典としてプレゼントするなどしていたんです。現在はHATTRICKを通じてオークションを開催し、出品商品に選手にサインなどをしてもらうことで付加価値が高まって、高額で落札していただけることも多くなってきましたね。
選手の意識改革にもつながっている
アスリートが自分の価値を知る機会というのは、実のところそう多くない。プロであれば年俸や契約金という具体的な数字があるが、目に見えない価値を知ることはなかなか難しい。オークションの落札額は、アスリートにとってひとつの指標となっているのだろうか?
――オークションの落札価格は選手に伝えていますか?
野口:選手には金額を伝えています。ユニフォームの落札額が40万円近くになったことを知って、「そんなに!」と驚く選手もいますね。選手とサポーターは、ファンサービスのときに触れ合うことができますが、ただサインをしているだけでは、自分にどのくらいの価値があるかわからないんですね。オークションを通して、自分自身の価値を、選手にも理解してもらうことは重要なことだと思っています。
島村:坂元達裕選手は、落札額を聞いて「そんなに出してもらってユニフォームだけでは申し訳ない」ということで、サプライズでスパイクも提供してくれましたよね。
野口:運営側としては「それにも価値があるんですが…(笑)」と思ったんですけどね、選手のモチベーションが上がるのはとてもよいことだと思います。
福重:選手をはじめ、セレッソさんにはいろいろとご協力いただいて、オークションに付加価値をつけていただいているんです。特別サプライズとして、選手のサインだけでなく落札者の名前を記入してもらったこともあります。
島村:選手にサポーターさんの名前を覚えてもらえるチャンスにもなっていますね(笑)。中には、応援の意味を込めて新人選手のアイテムをリピートして落札してくださっている方もいらっしゃいます。若手選手は、まだサインすることだけでもうれしいという段階だったりしますが、自分の価値がどのくらいなのかを計るものさしとして、落札額を知ってもらうようにしています。年俸などとは別に、オークションは肌感覚で自分の人気や価値を感じてもらえるいい機会にもなっていますね。
福重:セレッソさんのご協力を得ながら、これからも一緒にいろんな仕掛けを考えていきたいと思います。たとえば、サインをする様子を、落札者だけが見られる動画として撮影して特典としてご提供するなんていうのもいいかなと。
今後は「体験型」オークションも
ファンやサポーターが求めているものとは、どんなものなのか。それを適確に把握して提供していくことで、熱量が高まり、チームや選手個人の価値も高まってくる。
――サポーターからは、オークションについてどんな反応がありますか?
野口:スタジアムで会ったサポーターの方からは、「もう少しで落札できたんだけど、惜しかったんだよなぁ…」なんていうお話を聞きました。
島村:2021年は定期的にオークションを開催しました。「ホームゲームで勝利したときにはオークションがある」と知ってもらえたので、それが認知につながっているのではないでしょうか。聞くところによると、オークションのためにマネープランを立てている人もいるほどです。リピーターの方をたくさん獲得できているのはとてもうれしいですね。今後はさらに多くの人に参加してもらえるように、もっともっと周知させていきたいと思います。
野口:落札した方から「届くのを今か今かと待っています!」と、お礼メールをいただいたこともあります。他にも「これからもぜひ続けてください」という好意的な反応もあったり、私たちの励みになっていますね。
――今シーズンはどのようなものをオークションにかけていきたいと考えていますか?
野口:体験型のオークションもやっていきたいと思っています。選手にインタビューできる体験とか、スタジアムではピッチサイドのより近くでゲームを観戦できる体験など、いろいろと考えています。他には、ロッカールームの見学などもいいですね。普段できない、普段入れないところで体験できるプレミアム感があるものをと、どんどん案を出して検討しているところです。
受け取った「想い」を活かしていきたい
オークションでチームが得られるのは、金銭的な収益だけではない。選手やチームを応援したいというサポーターの気持ちやサッカーへの愛も含まれている。それを十二分に活用していくことは、受け取った側の責務でもある。
――今後は、HATTRICKを通してどんなことを実現させていきたいと考えていますか?
島村:高額で落札していただくのはとてもありがたいことなのですが、「オークション=マネーゲーム」ということだけでなく、地域貢献などで還元していきたいと考えています。
福重:HATTRICKを通して販売しているアイテムは、もともとは廃棄されてしまう予定だったものもあります。サステナビリティの観点からも、そうした処分されるものをリユースしていくことは企業に課せられた責任だと思います。もちろん、チーム側の廃棄費用の削減にもつながりますし。
島村:オークションで提供していただいたのはお金だけでなく、そこにはサッカーを愛するサポーターの「想い」が込められています。その想いを無駄にすることなく、サッカーができる環境の整備や、プレーをさせていただいている地域への還元などに取り組んでいきたいと思います。
セレッソ大阪はオークションを担当する人たちだけでなく、部署を横断しながら新しい価値を作り出すことに積極的に取り組んでいる。HATTRICKという仕組みを活用しながら、選手、チーム、サポーターの3者、そしてそれを取り巻く社会に対してどんなアプローチを試みていくのか、要注目だ。
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