【経営者・鈴木啓太#3】総合コンディション管理へ。描く成長戦略 

多くのスポーツ選手がセカンドキャリアで指導者や解説者に進む中、ビジネスのフィールドで第一線を行くのが、元浦和レッズの鈴木啓太氏である。2015年に腸内フローラ(腸内の細菌生態系)の解析でアスリートのパフォーマンス向上を支援するAuB社(Athletemicro-biome Bank)を設立。現在は、化粧品や食品、医療機器メーカーとの共同研究や、一般を対象としたヘルスケアサービスの提供を見据えて、さらに事業を拡大しつつある。「経営者・鈴木啓太」に、そのビジョンと情熱、独自の経営哲学を聞いた。

前回インタビュー:【経営者・鈴木啓太#2】組織作りと事業モデル。ビジネスの出発点

腸内フローラの研究から、総合的なコンディション管理へ

鈴木 啓太:AuB株式会社 代表取締役。2015年に引退するまでJリーグ浦和レッズでプロサッカー選手として活躍。日本代表には2006年に初選出後、28キャップを獲得。現在はサッカーの普及に関わるとともに、AuBではアスリートのコンディション維持・パフォーマンス向上を目指す。

前回、鈴木啓太氏が指摘したのは、コンディショニングを整えたとしても、パフォーマンスにつながらなければ意味がない、そこを結びつけていくのが新たな目標になるという問題意識だった。今回は、その具体的な方策について尋ねた。

――コンディショニングとパフォーマンスをつなげる。その鍵は何でしょうか?

「我々は腸内細菌だけで全てを変えられるとも思っていませんし、腸内細菌のデータの他にも、血液や唾液、遺伝子のデータという様々な要素もある。ですから、今後はそういったデータまで含めて、いかにトータルでコンディショニングや健康づくりをサポートしていくかという研究に入っていきます」

――その延長線上に、一般の人々の健康管理に役立つサービス展開も見えてくる

「もちろん厳密に言えば、アスリートと一般の方では違う部分もあります。例えば、アス リートの場合、減量のタイミングや目標を細かくコントロールしていくことが必要な競技 もありますから。これに対して一般の人の場合は、痩せたいとか太らないようにする、あるいは、少しだけ太りたいとか、基準がもう少し漠然としたものに変わってくる」

「これは怪我の回復や疲労の回復、メンタル面の管理、体の総合的なコンディショニングにも当てはまります。しかし、アスリートが抱えている課題と、一般の方にとっての課題は、本質的に一緒だと思うんです」

――ノウハウが共有できる可能性があるということですね

「その通りです。たとえば選手寿命はアスリートにとって大事な問題ですが、一般の人たちに落とし込んでいけば、健康寿命というテーマになる。ましてや、これからの日本は高齢社会を迎えていくので、単純な寿命ではなく、健康寿命が大事になってきます」

「たしかにアスリートはハードにトレーニングしますし、一般の人よりもコンディショニ ングに気を使っている。その意味では、ある種尖った存在になっていますが、まったく同じ形ではないにせよ、スポーツやアスリートの支援の分野で蓄積したデータを活かして、 一般の人たちの健康づくりにも十分貢献できると思うんです」

「だから、むしろ我々としては、(広範に活用できるデータを蓄積するために)アスリートを対象に“研究”をしているという感覚なんです」

――ある種、一般の方よりアスリートの方のほうがデータを取りやすい

「アスリートの場合は、何を食べた、どのくらい休んだ、どのくらいトレーニングしたという情報が綿密に記録されますし、0.1秒でも速くなりたいとか、高く飛びたいとか、そういった課題も明確になる」

「アスリートのデータというのはものすごくスクリーニングされているので、一般の人に とっても、非常に貴重なサンプルになるんです」

コンペティションではなくコラボレーション。AuBのビジネス戦略

――健康寿命の増進は、社会全体で関心が高まってきています。今後、競合他社との競争も 予想されますが、どのように差別化を図るのでしょうか

「自分たちはまったく別のポジションにいると思うので、他の企業と競い合うというよりは、我々のデータを活用していただいて、一緒にやっていきたいと思っています。我々の研究成果はいろいろな形に変えられるので、むしろ一緒に新しいものをつくっていくイメージですね」

――コンペティションというより、コラボレーションに近い

「そもそもアスリートの検体をこれだけ集めている会社は他にないので、我々にしかできないことは確実にある。ただしリソースやスケールの問題などで、できないことももちろんあります。だからこそパートナーや研究機関と協働しながら、幅広い人たちに対してお手伝いをする。我々はそういったポジショニングなのかなと思います」

――将来的には、海外の研究機関などとも提携される可能性もありますか

「やりたいですね。たとえばアスリートの腸内細菌を調べているという、ハーバード発の研究チームがあるんです。そのチームとはすでにコミュニケーションを取って、何か一緒にやりたいねという話もしていますから」

――AuB はビジネスでも一種のハブ的な存在になりつつありますね

「我々の場合は、そもそも自分たちの組織を大きくしたい、あるいは自分たちで全てを完結させたいという意識はありません。むしろいろんなクライアントを持たれている企業や様々なグループと協同しながら、課題解決のお手伝いをできたらなと思っています」「もちろんその過程では、こちらから先方に出向いていくこともあるでしょうし、あるはパートナーに来てもらうようなケースもあると思います。我々をうまく使っていただきたいとも思いますし」

――以前、DeNAの南場智子氏さんも、自社ですべてを抱えようとするとフットワークが鈍くなる、むしろ「つながっていく」ことが重要だと仰っていました

「これからはたぶん、社会全体のあり方がそういう形になっていくと思うんです。ビジネスで言えば大企業中心ではなく、中小くらいの規模の企業さんがたくさん増えていくようなイメージですね。もちろんグーグルやアップルのような企業もあるでしょうけど、そういう企業でさえも、さらに多様化していくイメージです」

「社会そのものも、情報が(一律的に)上から流されてきて従っていくというよりは、多様な個人のつながりの中で、これはいいよねという共感が生まれながら、動いていくようになってきている。様々な価値観があって、多様化していった方がいいというのは、腸内細菌の問題と少し似ているかもしれません(笑)」

他社との「競合」ではなく、独自のノウハウを活用した新たな「協働」関係の確立へ。鈴木啓太氏は、きわめてリアリスティックに新たな一歩への青写真を描いていた。次の第4回では、組織づくりの哲学と、未来に向けた人材確保のプランについて話を伺う。

 
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