イニエスタからNBAまで。楽天のスポーツ投資の最前線とは 

2004年に楽天イーグルスがプロ野球に参入、その10年後にヴィッセル神戸の全株式を取得しJリーグに参入した後、2017-18年シーズンからFCバルセロナとパートナーシップ契約を行うなどスポーツ投資を進める楽天。近年では、ゴールデンステート・ウォリアーズやNBAとのパートナーシップ、ステフィン・カリーのアンバサダー就任と 、NBAへの投資を続ける。今年10月には16年ぶりとなるNBA Japan Gamesが控える中、この新たなコンテンツを仕掛けるグローバルスポンサーシップオフィスの岡本直也氏 に、楽天のグローバル・スポーツマーケティングについて聞いた。

イニエスタからNBAまで。楽天のスポンサーシップ

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岡本 直也:楽天株式会社 メディア&スポーツカンパニー グローバルスポンサーシップオフィス スポンサーシップグループ マネージャー。

グローバルスポンサーシップオフィス。この聞き慣れない部署に岡本氏は所属する。楽天が保有するスポーツアセットをビジネスにしていく部署で、ミッションは楽天が所有する権利をマネタイズすることだ。ヴィッセル神戸にアンドレス イニエスタが加入した直後の2018年7 月に組成された。

当初はイニエスタの肖像を第三者の企業に提案し、ビジネスを創出する段階からスタート。その後、取り扱うアセットはFCバルセロナが来日するRakuten Cup、そしてNBA Japan Gamesへと増え、今では7名を抱える部署へと拡大している。

取り扱うアセットが広がる一方、その権利は様々。アセットの権利を上手く活用できるかどうかが、スポーツマーケティングでは肝要となる。NBA Japan Gamesを例に出すと、実は、イニエスタとNBAとでは、全くと言っていいほど大きな違いがある。

スポンサー企業への異なる提供価値:楽天がNBAと目指すもの

Naoya Okamoto
Rakuten

イニエスタの主な活用方法はスポンサーシップ、マーチャンダイジング、スクール、メディアの4つに分かれる。スクール事業はイニエスタの独自メソッドを基にしたサッカーアカデミー「イニエスタメソドロジー」、そしてスポンサーシップに関しては、イニエスタを企業のブランドアンバサダーに起用してもらうべく、肖像権活用の提案をしている。これまでに、アシックス、DAZN、ジェネシスヘルスケア、沖電気工業、京成電鉄がスポンサーとして契約している。

例えば、京成電鉄のスポンサーシップでは、イニエスタが1日駅長を務めるアクティベーションを実施した。漫画『キャプテン翼』のラッピングを京成線四ツ木駅で行い、そこにイニエスタをコラボレーションさせた形だ。『キャプテン翼』の大ファンであるというイニエスタ自身がインスタグラムでその様子を投稿すると、60万を超える「いいね!」を獲得し、その影響力を披露した。四ツ木駅は成田空港とも接続しており、インバウンド観光客を取り込みたい京成電鉄と思惑が一致した。

一方、NBA Japan Gamesでは、楽天はプロモーターとして、NBAとともにマッチスポンサーを企業に提案している。個人肖像のセールスとはスポンサー企業に提供できる価値も異なる。マッチスポンサーの企業にとっての主なベネフィットは、ブランド露出とカスタマーへのエンゲージメントだ。ブランド露出にはコートサイドボードをはじめ、試合中にもスポンサー企業を活用したアクティベーション機会がある。岡本氏は、「特定のオーディエンスに対してダイレクトにブランドを訴求し、エンゲージメントを通してカスタマーに親近感を醸成できる点は、企業にとってメリットが大きい」と語る。

NBA Japan Gamesでは、スポンサー企業のVIPゲストを迎えるウェルカムレセプションも用意される。NBA関係者、元選手のレジェンド達を交えたパーティーが行われる予定だ。そこに「飲料メーカーなどにイベントのスポンサーになっていただき、企業にとって価値あるコミュニケーションができるような取り組みをしたい」と岡本氏は話す。試合当日にもスポンサー企業が接待に活用出来る、コーポレート・ホスピタリティ用のスイートルームも用意していく。「“ラグジュアリーな非日常空間”を演出することで、パートナー企業とその顧客企業の接点となる場を作る」ことが狙いだ。

NBAは、今年10月8日と10日の2日間、16年ぶりにJapan Gamesをさいたまスーパーアリーナで開催することを発表。試合日の間である9日にはスポンサー企業がブースなどでアクティベーションを展開し、来場者とのエンゲージメントを図るファンデーも計画中だ。

このようにプログラムが増えると同時に、一緒に盛り上げていくパートナーをこれから本格的に探すこととなる。

パートナーシップに大切なのは「親和性」

今後、楽天はどのようなスポンサー企業と手を組んでいきたいのか。岡本氏が強調するのは“親和性”だ。

「パートナーとして最適な企業は、NBAと親和性の高い企業です。コンシューマービジネスの企業と相性が良いのは勿論ですが、NBAの一番の強みはデジタルです。コンマ数秒単位で寸分の狂いなくエンターテイメントを提供できる能力がNBAにはあるからです。先進的な最先端の技術を訴求したい企業等は、NBA Japan Gamesの権利を活用して世の中により効果的なコミュニケーションを図っていただければと考えています」

今回楽天が挑むのは、NBA Japan Gamesという日本人選手が出場しない可能性が高い試合のセールス。日本人にとって関連性が高いとは言えない試合に対して、パートナーシップを模索していく難しさがある。岡本氏も「工夫が必要」と語り、楽天およびNBAと一緒に組むことのベネフィットを訴求していくことが必要という。

Japan Gamesには本場のエンターテイメント集団が来日する。ダンサーやマスコット、NBAで過去に活躍したレジェンドなどが日本に呼ばれる予定であり、そのエンターテイメントチームとのコラボレーションをスポンサー企業に提供できるのもNBAの強みの1つだ。その中には“日本流”のアクティベーションも検討していくという。

「NBAとはいえ試合会場は日本であり、バスケットボールの楽しみ方、エンターテイメントの受け取り方はアメリカと異なります。つまり、日本のオーディエンスに向けたコンテンツを提供しなければなりません。また、日本企業が訴求したいコンテンツは、米国企業とも異なるでしょう。アクティベーションの一部は、日本の伝統的な企業をスポンサーとして迎えて、盛り上がりを作りたいと思います。また楽天が提供するデジタル広告のテクノロジーなども一緒にご提案することで、より企業のセールスに繋がるような試みができればと考えています」

 Japan Gamesの発表以来、16年ぶりに日本に来るコンテンツという「新しさ」に興味を持つ企業が多く、岡本氏の元にも問い合わせが入る。ユニークでこれまでにない取り組みをしていきたいと考える積極的な企業は多い。

グローバル企業こそスポーツ投資が効く

日本だけでなくグローバルでも、スポンサー企業としてスポーツアセットをマネタイズできる組織を持つ例は非常に少ない。岡本氏はこれが楽天のスポーツマーケティングの特徴であり、他にはあまりないのではないかと言う。楽天はこれまで主にスポンサーとしてスポーツを活用してきたが、現在は権利元にもなる。これが楽天のユニークなスポーツマーケティングだ。

もともと、楽天はスポーツを商材とする企業ではない。ECモールを中心とした事業体だったが、最近ではライブ動画配信サービス「Rakuten LIVE」を開始するなど、コンテンツをはじめ多岐に渡るビジネスを展開する企業になりつつある。

企業としての成長過程で、スポーツへの投資を継続してきた楽天。スポーツで収益化を図る以外にも、スポーツは、組織にある影響を及ぼしているという。

「スポーツが好きで楽天に入りたいという人が増えているんです」

昨今、新卒採用や転職市場で、企業間における人材の争奪戦が激しくなってきている。ましてや楽天のように社員全体の20%以上が外国籍の場合は、人材の争奪戦もグローバル規模だ。海外から就職を求める新卒や転職の候補者にとっては、その企業がスポーツ投資により名を広めているのは何よりも説明しやすく、家族に対しても説得力を持つ。

ブランドを創り上げることで、人材採用や組織の強化にもつながる。楽天のスポーツ投資は、副次的にも組織に大きな影響をもたらしている。

「我々がセールスする際も、この体験談を話しています。例えばBtoC企業に比べて知名度で劣りがちなBtoB企業にとって、ホスピタリティー、チケット、VIPのネットワーク以外にも、採用に効果があるというのは大きなメリットです。これはスポーツに関わる全ての企業が魅力的に感じていることだと思います」

楽天本社のロビーには、同社が関わるチームのユニフォームが展示されている。勿論、世界を代表するサッカークラブのFCバルセロナやNBA球団のゴールデンステート・ウォリアーズが含まれ、まさにこの場所が世界への玄関口となっている。

スポーツに投資する理由は企業によって様々だ。しかし、楽天では、このロビーに一歩足を踏み入れるだけで、グローバル企業として世界のトップを目指す思いを肌で感じることができる。その役割を担っているのがスポーツなのではないだろうか。

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