コロナ禍で変わるスポーツイベント。進むDXと、鍵になる「顔認証」

コロナ禍で大きく変貌を遂げたスポーツ界。そこで鍵を握るのがDX(デジタルトランスフォーメーション)だ。今や多くのチームがデジタルを活用して新たなスポーツの価値提供を目指している。中でも注目を集めているのが、「顔認証」技術。この分野で世界トップレベルを誇るのが日本のICT企業NECだ。NewNormal時代におけるスポーツイベントの最前線とは?バレーボールVリーグに所属するNECレッドロケッツの現場からお届けする。

コロナ禍で変化を求められる「スポーツイベント」

新型コロナウイルス感染症は、スポーツイベントにも大きな影響を及ぼしている。2020年の春以降感染が拡大したことで、日本中の、いや世界中のスポーツが一時ストップしてしまった。競技を行う選手や試合・大会に携わる関係者にとって、未曾有の一年になったのは間違いない。

しかしそんな状況下でも、スポーツに関わる人々は前を向き、新たな道を切り開いてきた。率先して感染症対策を講じ、スポーツを徐々に再開していったのだ。選手や現場のスタッフに限らず、関係する人たちに対してPCR検査を行う。大会やイベントでは、選手や関係者の行動を特定のエリアに制限し、外との接触を断つ。こうした取り組みは、国内外でスタンダードになっていった。

とはいえ、現在もコロナ禍であることに変わりはない。政府のガイドラインによれば、「屋内イベントは5000人以下、かつ収容定員の50%以内の参加人数に限る」、「屋外イベントは5000人以下、かつ人と人との距離(できるだけ2m)を十分確保する」というのが、現状の方針となっている。

「バレーボールなどの屋内競技は、ガイドラインに従うと試合会場のキャパシティの半分しか観客を入れられないんですね。そうなると、収益の面で大きなマイナスとなります。また、フードやアルコールを楽しみながら試合観戦するというスタイルもできなくなり、飲食などの販売の面でも収益減になってしまいます」

Vリーグ女子1部に所属するNECレッドロケッツ。その試合運営を手がける有限会社ル・スポール 代表取締役の石坂政一氏は、現在のスポーツ運営の窮状をこう語る。

一方で、現場のスタッフの間では、「こんなときだからこそ、安全・安心なイベントを実現させよう」という一体感も生まれているという。

「選手はもちろんですが、スポーツに関わる人たちすべての想いを、なんとか形にしたいと知恵を絞っています。それには、安心してお客様にスポーツの現場に戻ってきてもらわないといけない。イベントでは、どうしても“密”になる場面が出てきます。入場時やフードの販売、物販では行列ができることもあり、それらを解消することが求められています」

「顔認証」がリードする、デジタル技術の最先端

有限会社ル・スポール 代表取締役 石坂政一氏

1月に行われたVリーグNECレッドロケッツ対日立リヴァーレの一戦。50%の観客減で2000名規模となった試合会場のとどろきアリーナ(神奈川県川崎市)で、感染症対策の一環で導入されていたのが、顔認証技術を用いた入場ゲートだ。

実際に体験したアリーナの来場客からは、その速さや便利さを実感して、驚きに似た声が上がった。

「一瞬で認証しました。立ち止まる必要すらなくて驚きました」

「(今回の試合での販売はなかったが)購入したフードを手にしている時でもチケットの再提示が不要で、とても便利だと思います」

当日は、観客の再入場時に「顔認証」が使われていた。顔認証入場を希望する来場客は入場時に本人同意のもと、顔データを登録。再入場するときに顔認証でチェックされるという仕組みだ。もちろん、今後は来場前に顔データを登録して、初回入場時から顔認証で入場することも可能になってくる。

利便性が高い上に、「安全・安心」という現代のスポーツイベントの開催条件にもそぐう。石坂氏は試合の運営面だけではないメリットも強調した。

「コロナ禍の以前から、デジタル技術がスポーツの現場に導入され始めていましたが、顔認証は導入する側にも利用する側にも、わかりやすいメリットがあります。これまでは入場ゲートに係員を配置し、チケットを確認していました。当然、人と人の距離も近くなるし、接触が発生します。しかし顔認証を使えば、運営側としては係員を配置する必要もなくなり、利用側もチケットを出してチェックしてもらう煩わしさから解放されます」

世界トップレベルの顔認証システム

NECの顔認証技術は世界でもトップクラス

NECの顔認証システムは、コロナ禍以前の2018年頃から様々なスポーツイベントに導入されてきた。バレーボールなどの屋内競技だけでなく、ゴルフやラグビーなどの屋外競技でも採用され、1日に数千人という規模で顔認証をしてきた実績がある。

NECの担当者はこう解説する。

「NECの顔認証技術は、顔のデータを数値化することが特徴です。米国国立標準技術研究所(NIST)が行った最新の顔認証技術のベンチマークテスト(FRVT2018)で、1200万人分の静止画をエラー率0.5%という圧倒的な精度の高さで認証し、性能評価で第1位を獲得。NISTのベンチマークテストでは、2017年の動画の顔認証ベンチマークに続き、5回目の第1位獲得でした」

コロナ禍ではスポーツ観戦もマスク着用が必須。マスクをした顔の認証精度はどうなのだろうか? 先出の担当者は語る。

「NECの顔認証は、マスク等で顔が大きく覆われた場合でも、事前に登録した画像データと照合し、本人かどうかを高精度で識別できます。人工知能(AI)の手法の一つであるディープラーニングで、本人と他人との違いを強調する独自の工夫を取り入れて、精度を高めています。ですから、マスクだけでなくサングラスをかけている場合などでも高精度で認証が可能です。また、(NECの顔認証ゲートは)専用装置が不要で、一般的なWebカメラが利用できます。導入時の手間やコストが少なく済むのもポイントです」

イベント運営の効率化だけでなく、セキュリティも向上

先出のル・スポール石坂氏は、顔認証システムのもう一つのメリットについても言及するのを忘れなかった。それは、「セキュリティ」だ。

スポーツイベントでは、セキュリティを確保する必要性から、スタッフによって出入りできるエリアが限られていることがある。これをゾーニングという。レッドロケッツの試合会場でも、スタッフは来場者と同様に入場時に顔データを登録し、顔認証で各エリアを移動するシステムとなっていた。

「これまでのゾーニングでは、入場可能なエリアをスタッフパスに記して、目視でチェックしていました。そこに顔認証が導入されることで効率よくチェックができるようになりますし、パスの偽造やなりすましも防ぐことができる。セキュリティ強化につながります」

感染症対策だけでなく、一歩進んでセキュリティ対策まで。安全・安心への対策をしっかり行っているイベントだということは、ファンへの力強いアピールになる。

新たな決済方法、そしてスタジアム体験を提供

レッドロケッツのグッズ販売コーナー。試合会場のとどろきアリーナにて

高精度の顔認証技術を活用した新たな取り組みも進められている。それが「決済」だ。スポーツイベントでは、フードやグッズなどの会計の際に「会場」での決済が欠かせない。NECの担当者は、次のように話す。

「入場ゲートではマスクをしたままで認証しますが、物販購入での決済では、より高い認証精度を求めるため、認証時のみマスクを外していただきました。セキュリティ面で安全であるということはもちろん、イベントの主催者様にもお客様にも、『安心感』を持って利用していただくことが何より重要だと考えています」

現金を使わない、クレジットカードやスマートフォンの提示も必要としない顔認証決済は、「完全非接触」の決済方法であることから感染症対策にもなる。また、スポーツに限らずコンサートなどのイベントでも、物販エリアは特に混雑する。支払いの場面で行列を作ってしまうケースも多いが、顔認証を活用したスマートな決済は、こうした“密”を解消するソリューションにもなる。

スポーツイベントでもスマートな支払い方法が導入されることで、フードやグッズの売上増にもつながる。試合前、ハーフタイム、そして試合後と購買時間が集中するスポーツの現場では、いかにスムーズに、手際良く販売できるかがカギだ。実際、NECの担当者も、レッドロケッツのグッズ販売に大きく貢献できたと手応えを感じているという。

試合会場で顔認証によるスマート決済が標準化され、来場客にも定着すれば、その手軽さと安心感から、リピート購入の増加など販売数量への貢献も期待できる。つまり、顔認証の決済システムは、スポーツイベントの収入にも大きなインパクトをもたらすことができるのだ。

事実、NECは自社のチームで顔認証の決済システムを横展開させようとしている。トップリーグに参戦するラグビーチームのNECグリーンロケッツでは、3月6日のヤマハ発動機ジュビロ戦を皮切りに、このシステムを導入済みだ。今シーズン、残りの試合でも導入していく予定となっている。

DXがもたらす、おもてなし体験

顔認証で決済が完了。現金やカードを出す手間を省くことができ、混雑にもならない。

顔認証はもとより、デジタル技術がスポーツイベントにもたらす最大のメリットとは、どのようなことだろうか。ル・スポールの石坂氏は、お客様への「おもてなし」が向上する点だと断言する。

「これまで私たち運営サイドは、お客様の満足度を『感覚』で捉えていました。それがDXによって『見える化』されることで、より良いホスピタリティにつながります。

プライバシーへの配慮、個人情報の保護として、お客様にはもちろん同意を得て活用していますが、入退場記録などの行動履歴や決済情報などの購買履歴は、すべてデジタル化されて管理されます。つまり、お客様がイベント会場でどんな行動をしているのか、どのフードの売れ行きがいいのか、どこで混雑してしまっているのかなどが数値で示されるのです。

お客様とのタッチポイント(接点)をログ化する。そして、それを分析することで、安定したサービスが実現する。改善点を明らかにできるので、運営側は然るべき対策を講じられるんです」

スポーツが先行する、「来たるべき未来」

NECの担当者は、最後に、今後のデジタル技術を用いたスポーツ、そして社会への展望を話してくれた。

「スポーツイベントで顔認証を体験していただくことで、その利便性とセキュリティの確かさを広く知ってもらいたいですね。将来的には、顔認証技術が安全・安心な生活のためのツールとして活用されるようにしていきたい。デジタル技術は、人の生活を快適にするために開発されています。安心感を持って使っていただけるように、これからも努力を重ねていきます」

ル・スポールの石坂氏も、デジタル技術を活用することで、今後のスポーツに新しい価値が生まれてくると語る。

「バーチャル観戦など、デジタルが新しいスポーツ体験をもたらしてくれるわけですが、それに対して、“リアル”の価値も上がっていくのではないかと思います。私たち運営サイドから観戦スタイルの再提案をしていき、いろんな価値を生み出していければいいですね」

新型コロナウイルスの感染拡大という危機に見舞われた中で、それを乗り越えるために、自分たちができることを最大限やりきるという機運が高まっている。スポーツの現場も、あらためて自分たちの存在意義を見つめ直し、その本質を再確認してリスタートを切っている。デジタル技術の進歩も、前に進むために大きな力となっていくことだろう。


■関連リンク

・NECの顔認証 https://jpn.nec.com/biometrics/face/index.html

・顔認証決済 https://jpn.nec.com/fintech/face_settlement/

・NECレッドロケッツ https://w-volley.necsports.net/

・NECグリーンロケッツ https://rugby.necsports.net/