埋もれていた『知』を活用せよ。NECが牽引する、日本スポーツ界の次世代育成スタイル

復活から躍進へ。日本スポーツ界はポストコロナ時代に向けて、力強く歩み始めた。そのような状況の中、改めて重要性が認識されているのがスポーツ界の発展を根底で支える、選手の育成や指導である。NECは昨年、画期的なプラットフォームを開発。内外の関係者から大きな注目を集めている。同社の開発スタッフ、そして酒井高徳選手のサポートなどを手掛けてきたライフパフォーマンス社CEOの大塚慶輔氏に、スポーツ育成支援プラットフォームが与えるインパクト、そして無限の可能性について伺った。

再び動き出したスポーツ界と、改めて浮かび上がった課題

華々しく開幕したJリーグ、再開されたトップリーグ、そして後半戦に差し掛かりつつあるBリーグ。日本スポーツ界は復活に向けて力強く歩み始めた。

ただし、これは厳しいサバイバル競争が本格化したことも示唆する。各クラブは指導や育成の充実、ファンの獲得、経営の合理化など、幾多の課題をクリアしていかなければならない。

そのような状況の中、ひときわ熱い視線を注がれているのが、NECが開発したスポーツ育成支援プラットフォームである。FC今治とNECが描く壮大な『絵』。岡田武史会長が語る、カギとなる「DX」とは でも紹介したように、このプラットフォームは、クラブやチーム、指導者が培ってきたノウハウをデジタル化。貴重な「知」や「経験値」を体系的なロジックにしながら、広く共有していくための新たな基盤になると目されている。

人々が抱く『熱』を形あるものに

育成・指導の「知の共有」はこれからますます重要になる

画期的なプラットフォームは、いかにして誕生したのか。NECで開発を手掛けた担当者は、プロジェクトの原点を次のように振り返る。

「もともとこの事業は人々が抱く『熱量』――共感や感動、情熱を形あるものにしたいという発想から始まりました。世間には、自分の経験や知識を若い世代に伝えたいと思っている指導者や、そういう人たちからきちんとした指導を受けたいと願っている子供たちがたくさんいるじゃないですか。

でも従来のスポーツ界はきわめてアナログな世界だったので、培われたものをメソッドとして体系化したり、『知の資産』として蓄積することができなかったんですね。ならばそれをデジタル化して、共有できるプラットフォームを開発しなければならない。それこそが自分たちに課せられた使命だと、確信するようになったんです」

「バリュー」を常に意識させる仕組み

2020年にプロサッカークラブに導入。他種目にも展開が可能なNECのスポーツ育成支援プラットフォーム

とは言え開発には、相応の苦労が伴った。最初に腐心したのは汎用性の確保である。

たしかにNECは育成支援プラットフォームを立ち上げる際、モデルケースとしてサッカーを採用したが、開発チームが目指したのは、競技種目やプロ・アマという違いにとらわれず、様々な競技で幅広く利用可能なツールを設計することだった。

同じく重視したのは、「バリュー(価値)」を意識させる仕掛けづくりである。NECで開発を手掛けた担当者の証言を再び引用しよう。

「もちろん我々のプラットフォームを使えば、個人レベルのアナログ的な知識に留まっていたノウハウをデジタル化し、クラブ内で共有することが可能になります。また詳細な分析データを見ながら、PDCA(計画→実行→評価→改善)のサイクルを回していくこともできるので、客観的なマネジメントが浸透していくことも期待できます」

「ただし、これらの機能以上にこだわったのは、根本的なロジックでした。我々が大切だと考えているのはチームが掲げるビジョンやフィロソフィーになります。そこをしっかり認識するからこそ、具体的なトレーニングメニューも立案することが可能になると考えています。

育成支援プラットフォームを設計する際には、まず長期的な指針や今年の目標をきちんと入力してもらい、そのプロセスが完了した時点で、初めて日々のトレーニングの計画やメニューづくりの画面に移行できるような仕組みにしました。現場で指導をしていると、ともすれば目先のトレーニングメニューを決めるような作業にばかり意識が向きがちですからね」

体系的な発想方法を学ぶための生きた教材

育成支援プラットフォームでは、トレーニングデータなどをチーム内で共有できる

この機能こそは、育成支援プラットフォームの最大の特徴であり、他社のシステムにはないアドバンテージだと言えるだろう。NECのプラットフォームは指導者に軸足を置いた上で、自分たちの価値観に基づいて具体的なプランを考える習慣を、自然に身につけるための配慮がなされている。

「こういう部分を大切にしていきたい」という希望を漠然と抱いていても、どこから具体化すればいいのかがわからない、あるいは志の高い目標と具体的な指導メニューをうまく結びつけられないと、思い悩んでいるスポーツ関係者は少なくない。そのような人たちにとって、きわめて実用的なツールになるのは間違いない。

育成支援プラットフォームがいかに優れているかは、導入を検討しているスポーツクラブが急増していることからもうかがえる。NEC側にはJリーグ、Bリーグ、トップリーグ、プロ野球などのクラブから打診が相次ぎ、対応に追われるような状況になりつつある。

強い関心を示しているのは、これらのクラブで組織運営やトップチームの指導にあたっているスタッフだけではない。各クラブで若手の育成に携わっている指導者、アカデミーやスポーツクラブのコーチ、部活動の指導をしている顧問、地域自治体、トレーニングのメソッドを専門的に提供しているジムなどからも引き合いは絶えないという。

ライフパフォーマンス社とのパートナーシップ

代表的な企業の1つが、大塚慶輔氏が設立した株式会社ライフパフォーマンスである。

もともと大塚氏は、アルビレックス新潟をはじめとする複数のJクラブで長年フィジカルコーチを務めていた人物で、酒井高徳選手(現:ヴィッセル神戸)をユース時代から指導。同選手がドイツに移籍した際にも、フィジカルコンディションだけでなく栄養や休養、睡眠、生活習慣、メンタル面まで含めた総合的なアドバイスを8年間に亘って提供した実績を誇る。

現在、同社は国内外のサッカー選手を数多くサポート。「健康を文化に」という理念の下、NECとパートナーシップを結びながら、プロスポーツクラブやアスリート、部活動や地域スポーツの指導者、一般企業、ビジネスマン、主婦層、学生などにもサポート事業を拡大しつつある。

酒井高徳選手(中央)は大塚氏が指導してきたうちの一人。トッププレーヤーへの指導メソッドを広く共有していこうとしている

育成支援プラットフォームのメリット

大塚氏自身は、NECが開発したシステムのどこに価値を見出したのか。その説明は説得力と実感に満ちていた。

「まず注目したのは学習機能ですね。育成支援プラットフォームでは、どうしてこういうメニューが必要なのかという『意図』を考えながらプログラムを組んだり、自分で修正を加えていく形になる。他人任せではなく、自律的にトレーニングやコンディション管理に取り組めるかどうかは、結果を出す上で決定的に重要になるんです。酒井選手があれだけのパフォーマンスを発揮できているのも、目的意識が高いからに他なりません。

このシステムを使うと、データを頻繁にチェックしたり入力したりする癖もつく。最近はトレーニングに対する関心が高まってきて、ハウツー本がたくさん出版されているじゃないですか。でも紙の書籍は一回読めば終わりになるし、インプットがないので一方通行になってしまう。その点でもデジタル化されたコンテンツは理に適っているんです」

「しかもNECのプラットフォームは、作業環境やファイル形式に関係なく、誰もがテキストや図版、動画データまでどんどんアップロードして蓄積しながら、仲間と共有していける。これも私が強く惹かれた特徴でした。実際問題、情報の一元化は指導者間でずっと懸案になっていたんです。指導の現場ではWord を使う人もいれば、PowerPointで資料を作る人もいる。いまだにペンと紙の人もたくさんいますから」

指導の現場で痛感していたニーズ

トップレベルの正しい指導が、グラスルーツまで広がる起爆剤にもなる

大塚氏がかくも魅了された理由は他にもある。日本スポーツ界の実情である。

「私は16年間、Jリーグでフィジカルコーチとして活動しながら、延べ1000人近い選手たちを指導してきましたが、特にフィジカルトレーニングに関しては、まだまだ正しい理論が共有されていないんですね。

たとえば筋トレなどに関しても誤った認識に基づいて指導がなされ、それに慣れ親しんで育った方が、次の世代に適切ではない指導をしていったりするようなケースが後を絶たない。指導ができる人材は圧倒的に不足しているんです」

「しかもJリーグの場合は、やはりトップチームの強化が主体にならざるを得ないため、ユースやジュニア世代、クラブが経営するアカデミーやスクールなどの生徒にはどうしても手が回りにくくなってしまうという現状もある。

でもコンディショニングの知識は、第一線で活躍している選手よりも、実は若い年代の子供たちや彼らを指導するコーチ、保護者の方々が最も必要としているものなんですね。このギャップに悩んでいる指導者は少なくありません」

トップアスリートのメニューを全指導者が共有する日

株式会社ライフパフォーマンス 代表取締役CEO 大塚慶輔氏

トップアスリートをサポートしながらも、NECと連携して、より多くの人たちに正しいトレーニングや健康づくりのノウハウを届けられるようにしたい。大塚氏はこう力説する。

「ある意味、私が行っているのは健康で充実した人生を送るための『トリセツ(取り扱い説明書)』づくりなんですが、育成支援プラットフォームを使っていくと、各現場でデジタル化されたトリセツが、地域や距離を超えて共有されるようになっていく。

だから日本全国、極端な話をすれば、きちんとした指導者がいないような地域に対しても、トップアスリートが実践しているような質の高いトレーニングを提供することが可能になるんです」

育成支援プラットフォームの採用は競技種目や事業規模、プロアマの違いを問わずに、事業拡大の道を拓くことも意味する。

育成年代まで視野に入れたマネジメントを行いながら、オリジナルのメソッドとしてデジタルコンテンツ化し、本プラットフォームに搭載すれば、他のクラブやスクール、部活動の指導者、地域のスポーツ団体などにセールスを展開していける。これもまた、既存のシステムになかったメリットであるのは明らかだ。

育成支援プラットフォームを根幹で支えるもの

アナログ的なノウハウをデジタル化し、体系的なメソッドとして共有できる汎用性と拡張性。考え抜かれた実用性。そして何より重要な「バリュー」に対する意識を自然に高めていくための数々の工夫。

最後にNECの担当者は、育成支援プラットフォームに密かに託した、自らの熱い想いを明かしてくれた。

「自分は学生時代、プロの選手になることを夢見て野球に打ち込んでいたんですね。あの頃、適切な指導を受けることができていれば、もう少し上のレベルまでいけたかもしれない。今でも、そんなことをよく思うんです。

だからこそプロスポーツクラブやアカデミー、スクール、部活動の先生方には、このプラットフォームを是非活用してほしいんです。それは子供たちの未来を無限に膨らませるし、貴重なノウハウを継承して、日本のスポーツ界全体をもっと元気にしていくことにも必ずつながりますから」


■NEC スポーツ育成支援プラットフォーム

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