東京フロッグキングス2年目の挑戦:北島康介「ISLのカギを握る、新たな総力戦」

昨年ISL(International Swimming League:国際水泳リーグ)に日本初のチームとして参戦した東京フロッグキングス。五輪メダリストの北島康介氏がGMを務め、昨シーズンは準決勝まで駒を進めた。参戦2年目となる2021年シーズンの展望は?そして、今後一層重要になる「プール外」も含む総力戦とは。北島GMに聞いた。(取材・文=田邊雅之)

ISLという大会が持つ意義

――東京オリンピック、パラリンピックが成功裏に終了し、いよいよ今シーズンのISL(国際水泳リーグ)が幕を開けました。オリンピックの結果なども踏まえた上で、ISLという大会が持つ意義を、改めてどう捉えていらっしゃいますか?

今回のオリンピックに関してはコロナ禍の影響もあって、テレビの視聴率は非常に良かったと言われています。でも水泳界の未来を考えるなら、単に競技を見てもらうだけではなくて、一緒に共感してもらったり、積極的に発言してもらう人たちを増やしていかなければならない。「金メダルを取ったからすごいね」で終わってしまうのではなく、そこから一歩進んでもっと水泳に親しみを持っていただいたり、競技を楽しんでもらえるような新しいファンの創出は、今後、非常に重要になってくると思います。

もともとISLは、個人競技である競泳にチームスポーツとしての側面も持たせていく画期的な試みですし、いろんな方たちを魅了しながらファンを開拓していける大会です。しかも選手たちの側に立てば、新たな目標を設定できるようなプラットフォームにもなる。水泳界全体を大きく活性化させるだけでなく、オリンピックで活躍する選手、世界選手権で活躍できるような選手を育てていくという点でも、ISLは未来に確実につながるプロジェクトだと思います。

――北島さんがGMを務める東京フロッグキングスは、昨年からISLに参戦されました。昨年の大会はどう評価されますか?

去年はチームを作るのも初めてだったし、ISLに参戦するのも初めてでした。だから正直、ISLに対応していくのにすごく必死だった部分もありました。でも選手はあの状況で本当によくやってくれたし、東京フロッグキングスは最終的に準決勝リーグまで進むことができましたから。

たしかに、オープンフィールド(一般に公開された会場)で多くの人に大会を観てもらい、新たなファンの方を取り込んでいければ、それがベストだったと思います。

でもコロナ禍の中で選手を集めてハンガリーに行き、継続的に強化しながらレースに臨める環境を提供することができた。さらに日本の人たちに目を向けてもらったという意味では、自分に120点満点をあげてもいいかなと。選手たちもISLという新しい大会を楽しみながら、自分の競技能力を高めるきっかけをつかんだので、やはり大きな収穫がありました。

――強い手応えを感じられたと。実際、昨年の北島GMのインタビューも、非常に多くの反響がありました。

とはいえ、今年はもう新しい大会が始まっていますし、去年の反省点や課題点を踏まえて、細かな競技ルールが改正されたり、チーム作りの制度が変更されたりしている。こういう改革をどんどん進めていって、より良いリーグに導いていこうとする実行力があるのは、ISLのすばらしい特徴だといえます。

もちろん東京フロッグキングスに関しても、僕自身はいくつか課題を設定しています。そういう点については、時間をかけながら少しずつ改善していければと思っていますが、ある意味、僕が抱いている課題感や評価、情報発信の仕方というのは、まだ一方的なレベルに留まっているのも事実で。一般の人による評価や意見、情報発信はそれほど多いわけじゃない。

だから僕としては、もっとたくさんの人にISLや東京フロッグキングスのことを知ってもらって、ISLはこういうふうにリーグを改善すべきだとか、チームにこの選手を入れるべきだというような意見が、ポンポン出てくるような状況を作っていきたいんです。それこそが、本当の意味で今後の目標ですね。

――すでに一歩先を見据えて動いていらっしゃる。

いきなりゼロから100を目指すつもりはないんですが、ISLを発展させようとするなら、他の競技に興味を持ってきた人たちの目に、どう映るかという評価基準も必要になってくる。さらには、単にこれまでにないレースやリレーがあるからおもしろいというレベルを超えて、システムや運営の点でも、よりエンターテイメントを兼ね備えるように工夫していくこともできると思うんです。

たとえばベッティング(合法的な賭けごと)などをうまく絡ませられるのであれば、ファンの人たちももっと夢中になって、大会を楽しめるかもしれない。たしかに大枠のシステム作りはISL本体の管轄になりますが、僕自身は今後に向けていろいろとアイディアを練ったり、提案したりしています。

求められる「発想の転換」

ISL参戦2年目の東京フロッグキングスを率いる北島康介GM

――私は数年前、高名なプロスポーツクラブを運営されているキーマンにロングインタビューをさせていたただいたんですが、その方もベッティングの導入が、日本のスポーツ界を活性化させる。一つのカギになるだろうと指摘されていました。

やはり僕たちに求められているのは、発想の転換だと思うんですね。スポンサーさんを獲得する際にも、単にメディアでの露出が期待できます、商業的価値がこれだけ生まれますということで協力をお願いするのではなく、僕は一緒に新しい価値を作り上げていこうという目的の下で、パートナーシップを組むような形を目指していきたい。

スポーツ界は10年、20年単位で大きく変わっていくじゃないですか。だからブロックチェーンを使ってトークンを発行したり、あるいは今流行りのNFTでもいいんですが、これまでにない技術やアイディアを活用しながら、若い世代に情報を発信する。あるいは斬新な仕掛けを作ってファンを獲得していく作業は、大事になってくると思いますね。

――東京フロッグキングスに関しても、運営体制やオペレーションの方法などを刷新していかれるご予定ですか?

将来に向けては組織の体制を固めながら、チームのブランディングやスポンサー獲得、ISLやこのチームをさらに認知してもらうための活動に力を入れていきたいですね。

正直、去年から今年にかけてはオリンピック絡みの仕事もたくさんあったので、僕自身、なかなか100%でフルにコミットするのは難しかった。またISL自体、FINA(国際水泳連盟)の日程発表を踏まえた上で、自分たちの大会を実施する形になってしまう。だから仮に日本で3年後にISLを開催したいと思っていても、実現させていくのは大変なんです。ましてやISLは新しいリーグで、どんどんルールも変わっていきますから。

でも、だからこそチームの基盤を揺るぎないものにしていく必要がある。競技面とマネージメントの両面において、チームにパワーをつけていきたいですね。

強いチームを作っていく

予選リーグはイタリア・ナポリで開幕。北島GMもレースを見守った

――車の両輪というか、強いチームを作る上でも、資金力や価値を生み出す力も高めていかなければならない。

強化に関して言えば、日本の選手は社会人が中心になっている。で、そういう選手たちが、このISLにきちんとコミットしてもらえるようにするためにも、東京になんらかの活動拠点も設けられればと思っています。

それと同時に、組織としていろんな要素を加えてスケールアップさせていきたい。様々な知識やノウハウを持った方、他競技の経験がある人たちが東京フロッグキングスやISL本体に関わるような事例も、どんどん作っていきたいですね。

――お話を聞いていると、北島さんが目指されているのは、東京フロッグキングスを一種、常駐化していくプランなのではないかという印象を受けます。

まさに仰るとおりで。僕はチームを常駐化していきたい。今年の活動を踏まえた上で、来年に向けて、施設も含めてどういう動き方ができるのかをちょっと考えたいんです。

たとえば野球だったら二軍の練習を、ファンの方が気軽に見に来たりするじゃないですか。今のコロナの状況を考えると、もう少し時間がかかるかなという気はしますが、そういう環境は是非、作っていきたいですね。

――関連してお訊ねします。もともとISLは、競泳を個人競技から団体競技に変えていくという点も独自の魅力になっていました。ただし大会で勝とうとするならば、実は試合の現場を離れたところでの総合力こそが問われてくる。ISLはその意味でも組織力や資金力まで含めたチーム戦にシフトしてきていると言えるのではないでしょうか。

ええ。チームでのパワーのつけ方はすごく変わってくると思います。そもそも強い選手を獲得しようとするなら、チームそのものの資金力が強くなければならない。こういう土壌を築いていくのは、ISL全体を発展させるのにもつながるんです。

今はISL本体がすべてを管理していますが、この形だと何か予想外のことが起きたときに、共倒れしてしまう危険性もなくはない。でも各チームが運営面や財政面で体力をつけつつ、ISL自体も組織改革を進めていけば、より運営は安定するし、選手や大会自体の価値をさらに高めていくことが可能になってくると思います。

昨年よりも大きなスケールとなったISL

東京オリンピックでも活躍した大橋悠依選手。今シーズンのチームの柱になる

――今後の発展が楽しみですね。では今年のシーズンの見所、注目ポイントを簡単に解説していただけますか?

今年はまずイタリアに10チームが集まって1ヶ月半集中的に予選リーグを開催し、そこで勝ち残った8チームが、11月にオランダのアイントホーフェンで3週間、決勝トーナメントを戦う。そして最後に残った4チームが、ファイナルに臨む形になります。ファイナルの日程はまだ流動的ですが、各国を転戦しながら予選、準決勝、そしてファイナルを行っていくので、昨年よりもスケール感は明らかに大きくなるし、観ている方にとっても、よりわくわくできる大会になると思いますね。

――東京フロッグキングスや、日本人選手についてはいかがですか。

東京フロッグキングスでは、東京オリンピックで金メダルを獲得した大橋悠依選手が予選リーグから出ていますし、去年参加できなかった瀬戸大也選手もすでに活躍しています。昨年一番ポイントを稼いでくれた川本武史選手は、東京オリンピックではあまりいい成績を残せなかったですが、彼も初戦で活躍してくれました。現にISLでは川本選手のように短水路(25mプール)のスペシャリストとして才能を伸ばしていてきている選手もいるので、そういう選手にも注目していただければと思います。

ただし日本人選手に関して言えば、ロンドン・ロアーには中村克選手や森本哲平選手、イタリアのアクア・センチュリオンズには大本里佳選手というように、海外のチームで戦う選手も登場してきました。これは今年から導入された「ISLドラフト」、各チームが欲しい選手を指名する制度を受けた結果なんです。

ドラフトでは引き抜きができない選手を決めるプロテクト枠がありますし、僕も日本人選手を多く入れていたんですが、優秀な選手には自然に声がかかってしまう。GMとしては痛し痒しですが、チーム作りの過程まで含めて楽しんでいただけたらと思います。

――ISLに参戦する各チームは、昨年の時点でも一種の多国籍軍でしたが、今年からはさらにその傾向が強まりますね。

ええ。一般のファンの中には、東京フロッグキングスは、どうして日本の選手が少ないんだろうという印象を持たれる方も多いと思います。実際、今年は7割ぐらいが外国人選手になっていますから。これはオリンピックの後でしばらく休養したい、あるいは現役を引退する選手がいたことも関係していますが、リレー種目やスキンズレースも見据えながら勝負できる選手を獲得するという意味では、昨年以上に強いチームが出来上がったという自負は持っています。

もちろんどのチームにも強みと弱みがあるし、リーグ戦を戦っていく過程では大会ごとの成績の変化も出てくる。だからこそチームワークや、チームとしての戦い方が大切になるんです。東京フロッグキングスでは、昨年と同様にヘッドコーチはアメリカ人のデイブ・サロが務めてくれていますし、チームにはアメリカの選手もいればロシアの選手、イタリアの選手もいる。

おそらく初めて名前を聞くような海外の選手も多いと思うんですが、そういう選手たちに注目してもらえると、より世界観も広がるでしょうし、多国籍軍の中から新しいチームが出来上がってくるプロセスも楽しんでもらえると思います。

「ファイナルまで導いていきたい」

――チームだけに着目しても、様々な視点で大会を捉えることができる。

細かなところで言えば、チーム同士の駆け引きもおもしろい要素ですね。もともとISLの魅力は、1日2時間の枠内で、様々なレースを一気に堪能できる、しかもスキンズレースのようなユニークな戦いが数多く繰り広げられる点にあります。

各チームのGMやコーチは1日目の成績を踏まえて、2日目にどう臨むかという戦略を細かく練ってくる。さらに大会を経るにつれて、特定のチーム間でのライバル関係のようなものも生まれてくるんですね。こういう駆け引きや対抗意識もISLならではだと思います。

――今年のISLは、昨年以上に見所満載の大会になりそうですね。東京フロッグキングスにも大いに期待して欲しいと?

それは断言できます。僕はやはりGMとして、東京フロッグキングスをファイナルまで導いていきたい。そのためにも選手やコーチたちと力を合わせて、是非、皆さんに応援してもらえるようなチームに育て上げていければと思っています。

 
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