パンデミックは「リアリティチェック」 FIBA、ブンデスリーガ、バイエルンが語った、コロナ禍のグローバルビジネス

コロナ禍で様変わりするスポーツビジネス。それをグローバルで展開するスポーツ団体は、困難を突きつけられながらも、デジタルを核に新たな挑戦を進めている。FIBA(国際バスケットボール連盟)メディア&マーケティングサービス、ブンデスリーガ、FCバイエルン・ミュンヘンが、先月に開催されたスポーツビジネス・カンファレンス『HALF TIMEカンファレンス2021』で語り合った。

サッカー、バスケ界から世界的なライツホルダーが登場

スポーツ業界最高峰のカンファレンスシリーズ『HALF TIMEカンファレンス2021』が5月12日と13日に開催された。新型コロナの影響で様変わりするスポーツビジネスの「デジタル・トランスフォーメーション(DX)」をテーマに、オンラインで6セッションが実施された。

1日目のセッションでは、FIBAメディア&マーケティングサービスでDirector Generalを務めるフランク・レーンデルス(Frank Leenders)氏、ブンデスリーガ中国代表のパトリック・ステューバー(Patrick Stüber)氏、FCバイエルン・ミュンヘンのアジア代表ルーベン・カスパー(Rouven Kasper)氏といったサッカー、バスケットボール界のエグゼクティブが登場。

TEAMマーケティングの岡部恭英氏がモデレーターとなり、「世界的ライツホルダーのコロナ禍での最新の取り組み」と題して議論が展開された。国際競技連盟(International Federation:IF)、リーグ、クラブといった異なる立場から知見が共有された。

状況に適応し、クリエイティブな解決策を

FIBA メディア & マーケティングサービス Director General フランク・レーンデルス氏

最初のトピックは「コロナ禍における変化」。2019年に発生した新型コロナウイルスは、2020年にヨーロッパを直撃。以降、欧州サッカーはリーグの中断や再開、無観客試合などイレギュラーなシーズンとなっており、他スポーツも状況は変わらない。

岡部氏から質問が投げ掛けられると、まず口火を切ったのはFIBAメディア&マーケティングサービスのレーンデルス氏。「国際試合の開催が厳しくなるなど、大きな変化があった。状況に合わせた対応が必要になります」と答えた。

FIBAには世界で213の国内競技連盟(National Federations:NF)が加入しており、パンデミックがグローバルになればなるほど影響を受ける側面がある。

「何もかもが変わってしまった」と率直な意見を述べるFCバイエルン・ミュンヘンのカスパー氏は、「リーグや政府と議論を進めて活動を再開しました。状況に応じて、コミュニケーションやマーケティングで新しい手法を模索しています」と続けた。

同クラブも所属するブンデスリーガのステューバー氏は、同調してこう付け加える。

「新しいコンテンツの提供など、クリエイティブな解決策を見出すことが課題。リーグとして何を提供できるのか、常に考えています」

コロナ禍でファンがスタジアムに足を運べず、インターネット、デジタルでつながる重要性はこれまでになく増している。デジタルを用いて選手がリモートでトレーニングしていたことにも触れながら、カスパー氏は試合以外のコンテンツでいかにファンとのエンゲージメントを継続するかが大事だと力説した。

DXの可能性と、リアルの重要性

FCバイエルン・ミュンヘン(上海) President Asia ルーベン・カスパー氏

岡部氏から提示された次のトピックは、「DXのトレンド」。デジタル・トランスフォーメーションとはあくまで手段であり、何を目的にするのか、そしてその理由がむしろ重要になる。

バイエルン・ミュンヘンでアジア戦略を進めるカスパー氏はこう説明する。

「DXはこれまでも進めてきましたが、現在は『クラブとして何が必要か?』がより問われている。私たちは、グローバルなファンとのコミュニケーションを目指しています」

クラブでは、パートナーであるアウディ社とともに、プレシーズンに本来展開する予定だったアジアツアーの代わりに「デジタルツアー」を実施した。また、シーズン中は毎週ライブコンテンツも配信してきた。コロナ禍の状況に合わせて、パートナーやファンのエンゲージメントを、デジタルを行ってきた。

同じく中国に駐在しアジア市場に取り組むブンデスリーガのステューバー氏は、「コンテンツの強みを生かすことが必要」であり、「ローカルなコンテンツの提供が重要」と話す。グローバルビジネスといえども、市場は各国で細分化している。ローカルなファンに親和性のあるコミュニケーションを行わなければならない。

レーンデルス氏は、FIBAのみならずスポーツビジネス全体を俯瞰して、こう指摘した。

「我々は収益源としてライブイベントに頼りすぎている。新型コロナは持続性、危機への準備ができているかの“リアリティチェック”だった」

パンデミックは現在のビジネスモデルが持続可能(サステナブル)かという問いを突きつけているというのが同氏の意見だ。各スポーツ団体は、有事の今、歪な構造を是正してレジリエントになっていくことが求められる。

「ファンこそがスポーツの象徴」

ブンデスリーガ Chief Representative China パトリック・ステューバー氏

「変化」を議論してきたセッションの最後のトピックは、「変わるべきでないもの」。コロナ禍でビジネス上の手法、アプローチは大きく変わっただろうが、岡部氏はその核になるスポーツが持つ価値、そしてその活かし方の戦略とは何かを聞いた。

ブンデスリーガのステューバー氏は、次にように答える。

「大切なのは、組織の強みにフォーカスし、その強みを強化すること。ブンデスリーガでいえば、より良いコンテンツの提供やユース育成のノウハウ活用を続けていきたい」

FIBAのレーンデルス氏は、スポーツ全体を括ってその特徴に言及した。「スポーツはファンを全ての中心に置き、ファン・エクスペリエンスを重視することが何よりも重要。それと同時にグローバルであることの価値も変わらず大切にしていきたい」

ファンの重要性を指摘したのは、バイエルン・ミュンヘンのカスパー氏も同様だ。DXの可能性とリアルの重要性を改めて強調し、次のように締め括った。

「変わるべきでないのはDX。一方でデジタルのプロダクトも、リアルのコンテンツがないと完全なものにはならない。両者のバランスを取ることが今後は重要になる」

「ファンこそがクラブ、そしてスポーツの象徴。ファンやパートナーと一丸となって、ひとつのエコシステムを作り上げていきたい」


カンファレンスは各セッション、アーカイブ動画で全編を収録。公式Webサイトから無料登録して視聴できる。

▶︎『HALF TIMEカンファレンス2021』公式Webサイト