企業にとってはマーケティング活動のひとつであり、スポーツチームにとっては重要な収益源にもなるスポンサーシップ。近年はパートナーシップとも呼ばれる通り、単純な広告露出だけでなく、チームの幅広いアセットを活用することで共に価値をつくる「共創型」へと変化している。先月開催された「HALF TIMEカンファレンス2022」では、スペインサッカーリーグのラ・リーガとスポーツマーケティング・エージェンシー Octagonの各キーパーソンが、両名の考えるスポンサーシップのあり方、そしてその価値を最大化するアクティベーションについて語った。
スポンサーシップからパートナーシップへ
5月末に開催された「HALF TIMEカンファレンス2022」では、グローバル・スポーツマーケティング・エージェンシー Octagonの元日本代表で、現ドイツ&フランスのマネージングディレクター デニス・トラウトウェイン氏と、ラ・リーガ日本駐在員のギエルモ・ペレス氏が、Blue United Corporation President & CEOの中村武彦氏のモデレートのもと、「スポンサーシップ&アクティベーション最前線」をテーマに議論を交わした。
トラウトウェイン氏はサッカーやラグビーのワールドカップに際しクライアント企業へ向けたプロジェクトの立案から実行までを行っており、現在は11月に開幕するFIFAワールドカップ カタール大会に向けて準備の真っ只中にいる。ギエルモ・ペレス氏はラ・リーガでナイジェリア市場を2年間担当した後、現在は日本へ引っ越して日本駐在員として活動している。
「スポンサーとパートナーに大きな違いはないように見えるが、パートナーシップではコンテンツホルダーとパートナーが共に価値をつくる」
トラウトウェイン氏が最初に語った定義はこうだ。スポーツ団体はこれまでのようにお金を払ってもらい広告露出のみを提供するスポンサーシップではなく、双方が多面的に価値を共創していくことが必要だと続けた。
そのため、見込み企業とコンタクトを取る前に、その企業の業界や特徴、ビジョンやミッションなどの情報収集を欠かさず、スポーツ団体がどのようなアセットを提供することでパートナーに価値をもたらすことできるかを考えることが必要とも説く。
もちろん、パートナー契約が結ばれた後も企業と対話を重ね、パートナーとして求めているものとスポーツ団体が提供できるものに相違が無いようにしなければ、パートナーとしての役割は果たすことができない。
チームのアセットを深く理解することが必要
パートナー企業を理解することと同時に、スポーツ団体は自分たちの持つアセットについても深く理解する必要がある。ラ・リーガのペレス氏は「私たちスポーツ団体が持つアセットは、私たち自身が最も深く理解している。したがって、日々新たな開発をしており、常に進化している」話した。
つまり、パートナーシップの考え方のもとでは、企業に提供できるものは変化し続けている。チームのアセットを整理し効果的に提示できれば、パートナー企業もその理解が進む。そうすると、前例の無いことでもアイデアを出し合って実現させるなど、過去の取り組みに縛られない柔軟な発想が可能になる。
そこで重要なのが、アクティベーションという概念だ。
アクティベーションとは、企業がマーケティングや広報活動、また近年ではSDGsへの取り組みなどに向けてスポンサーとしての権利を活用することで、「権利活用」とも呼ばれる。スポーツ団体の持つアセットで、企業の抱える様々な課題に取り組むことが特徴だ。
ストーリーとゴールを共有する
アクティベーションは契約する際に織り込むこともできるし、契約後に考え始めるケースもあるだろう。ただしその過程では、スポーツ団体と企業が一緒にストーリーを設定することが重要だと両者は語る。
何のためにパートナーシップを結ぶのか? お互いが目指すゴールは何なのか? これらを明確にすることで活動の方向性が示され、企画に推進力が生まれる。トラウトウェイン氏は、2019年に日本で開催されたラグビーワールドカップでの事例をひとつ紹介した。
各試合のMVP賞である「プレイヤー・オブ・ザ・マッチ」の権利を持つマスターカードでは、試合中にトロフィーへの刻印をライブで行い、試合終了後のセレモニーに届けるというアクティベーションを実施した。購入するモノでなく、買うことで得られる“替えがたい体験”を訴求する「プライスレスを選ぼう」というブランドキャンペーンのもと、当該選手が最も“プライスレス”に輝いたプレーの際の実況コメントを文字として刻むという粋な演出を行った。
マスターカードのキーメッセージである「プライスレス」を広告露出で伝えるだけでなく、トロフィーや試合、その場で起こる体験というライブコンテンツを十分に活用した取り組みについて、同氏は「最終的に自分が手掛けた中で最も創造的でユニークな、最高のパートナーアクティベーションの形ができた」とも述べた。
スポンサーからパートナーへ。スポーツ団体と企業がどちらも共創を志向する中、パートナーシップからアクティベーションまで、一貫したストーリーの構築が今後さらに求められる。
■カンファレンスの様子は動画でもチェック