グローバルネットワークは5倍、視聴者数は世界で3割増。ラ・リーガの「国際化」はいかに成功したのか?

世界最高峰サッカーリーグのスペイン「ラ・リーガ(LaLiga)」。2017年に「国際化」へと舵を切ってから、昨年でプロジェクトは5年の節目を迎えた。その道のりと現在位置について、エグゼクティブディレクターのオスカル・マジョ(Oscar Mayo)氏が語った。

ラ・リーガが進めるグローバル戦略とは

ラ・リーガが国際化への歩みを始めたのは2017年。それ以前から欧州サッカー界では、英プレミアリーグが外国資本の流入や放映権ビジネスを軸にグローバル市場に打って出るなど、国際化は必然の流れだった。

マジョ氏は、F1やチャンピオンズリーグなどの大会も口にしながら、「他のスポーツのようにラ・リーガも世界中にファンを抱えており、グローバルで成長を目指している」と、その重要性を強調。

そのために取り組んだのは「世界中のファンにより近づいていく」ことだった。国際的なプレゼンスの向上をリーグ・クラブの成長につなげていく。その土台にはグローバルネットワークとアクティベーションがあった。

「ラ・リーガにはグローバル戦略がありますが、私たちが向かうのはそれぞれの“国”です。各国でものごとは異なりますから、ローカルに合わせていく。これがグローカルです」(マジョ氏)

グローバルでネットワークを拡大

出発点は、各地の現地オフィス設立と駐在員の派遣だった。2016年時点のオフィスはマドリードの本社を含め8つだったが、2017年にシンガポール、2018年にメキシコ、2020年にはイギリスにオフィスを構え、現在は11オフィスとなっている。

また、国レベルで市場を担当する「駐在員」の制度を2017年にスタートさせ、現在41ヶ国・44名まで拡大。日本では2017年にオクタビ・アノロ氏(現ラ・リーガ国際ディレクター)が赴任して以来、現在のギエルモ・ペレス氏まで3名が歴任してきた。この間、全世界で従業員数は150名から600名になった。

こうした各国のオフィス、駐在員の存在によって、ラ・リーガが直接リーチできる国は90ヶ国に。これが、各国でのファン向けイベントなどのアクティベーションや、スポンサーシップ・放映権のセールスの礎になってきた。

リーグのスポンサーとライセンシーは、2013/14シーズンは9社のみだったが、2021/22シーズンには51社にまで増加。中でも、地域限定となるスポンサーとライセンシーが28社を占めるなど、ローカルでのセールスが好調だ。日本の旅行代理店HISも地域スポンサーのひとつで、リーグ公式ツアーや教育プログラムなどを実施してきている。

「グローカル」なアクティベーション

こうした海外オフィス、駐在員らによるネットワークは、グローバル規模でありながら現地の事情に即した活動を可能にしてきた。2020/21シーズンには世界90ヶ国で1,200以上のアクティベーションが行われたという。その2年前は65ヶ国で約600回の活動だったことから、大幅増は一目瞭然だ。

代表例はレアル・マドリードとバルセロナによる一戦「エル・クラシコ」。このダービーに合わせたパブリックビューイングは各国で実施され、日本でも2017年に「クラシコ祭」として六本木で開催された。かといえば、現地のファンを対象にしたサッカー大会や子どもを対象にしたサッカー教室も開催するなど、活動は多岐にわたる。

リーグによる各クラブへのサポートをもとに、クラブ単位のアクティベーションも促進されている。2018年に乾貴士がベティスに加入した際、入団会見の会場になったのは日本。ラ・リーガ史上初の出来事でもあった。

先出の日本市場担当・ペレス氏は、次のようにも言う。

「イニエスタがリーグのアイコンに就任した際もイベントを行うなど、日本はラ・リーガにとって日本は常に重要市場です。(コロナ禍の)過去2年間は非常に厳しかったですが、まずはこれまでのような活動を再開していきたい。そして今後は、草の根の普及活動や女子サッカーなど、新たな分野も開拓していきたいと思います」

視聴者数が世界で30%増

全世界の人的なネットワーク拡充と、それに伴うローカルな活動の増加。加えてコミュニケーションにも注力してきた。

特に多言語化は目覚しく、現在、TwitterやInstagram、TikTokなど17のSNSを運用し、20の言語で情報を発信している。フォロワー数は、2021/22シーズン時点で1億4600万人にまで増加した。

もちろん、試合放映自体への工夫も多い。ドローンやシネマティックカメラ、360度リプレイを導入するなど、放映技術についてはマジョ氏も「世界一のクオリティ」と胸を張る。また、グローバルオーディエンスを意識したキックオフ時間の設定も多い。

「(スペインで)午後2時、4時というのはアジアでプライムタイム、午後6時から9時というのはアメリカから欧州にとって都合がいいですよね。ラ・リーガは伝統的に夜遅くの試合が多く、5年前まではあり得なかったことです」(マジョ氏)

こうした取り組みが、グローバルでの視聴者数の増加という結果につながった。2020/21シーズン時点では、5年前と比べてアフリカでは11倍以上となる1168%増、アメリカ大陸では39%増、アジアでは25%増を記録。全世界では30%増加することとなった。

対照的に、欧州では1%増のみ。スペイン国内、あるいは欧州内だけにとどまっていたら、これほどの成長はなかったともいえる。

ラ・リーガが歩む未来

ハビエル・テバス会長。昨年8月の総会にて。画像提供=ラ・リーガ

国際化が一定の成果を見せながらも、ラ・リーガの勢いは全く収まることがない。「CVCという投資パートナーを得て、向こう3年間、集中的な国際化を進めていく」と、マジョ氏は説明する。

投資ファンドCVCとは、19億9400万ユーロ(約2500億円)の資本注入をもとに、ラ・リーガのさらなる国際化を進めるプロジェクト「Boost LaLiga」を開始する。出資額の90%は直接各クラブに渡るとされ、各クラブは最大でその70%をテクノロジー、イノベーション、国際化への投資に、15%を選手の契約に、残りの15%を負債の返済に使うことができる。

ラ・リーガのハビエル・テバス会長も、「ラ・リーガだけでなく他のリーグやスポーツにとっても歴史的なマイルストーンだ」と、尽きぬ野心を隠さない。

今後、スペイン国外でのレギュラーシーズンの試合開催の可能性にも「イエス」と答えたマジョ氏。以前米マイアミでの計画はFIFAの承認が下りなかったが、引き続き模索していく考えだ。

「サッカーの国際発展は、すべての人にとって良いことだと信じています。米国で試合をするからといってローカルリーグ(MLS)に悪影響はないですし、NBAやNFLもヨーロッパに来ていますから」

この5年間で、「国際化」への道筋をつけたラ・リーガ。CVCの大型出資も決まり、今後いかにしてさらなるグローバル成長を遂げていくのか、目が離せそうにない。