マーチャンダイジングは「グッズ販売だけではない」 栃木SCの商品化戦略

栃木SC取締役 マーケティング戦略部長 江藤美帆さんと、同マーケティング部課長金子真規さんを招いて先日開催されたオンライン座談会。「マーチャンダイジング(MD=商品化)」をテーマに、スポーツ業界での実際の仕事内容について聞きました。

「MDはクラブで一番おもしろい職種」

座談会前半ではまず、金子さんがMDの仕事内容について紹介。一般的には「グッズを企画して販売する」のみだと思われがちだが、栃木SCは少数精鋭ということもあって、スタジアムの売場計画からスタッフ管理、搬入・撤収作業、そしてオンラインショップの運営から受注・発注管理までも担う。商品が作られてから売られるまでの全ての過程を一括して手がけている。

「MDはサッカークラブで一番おもしろい職種だと思います。なぜなら、自分の仕事がグッズなどの目に見える形に必ず残るから。そして売上の数字としてもはっきりと成果が見えるんです」(金子さん)

一方で、MDは商品を購入するファンがあってこそ。もともとサッカーファンでもあったという江藤さんは、実際にチームに入ってからMDならではの難しさや課題に直面したとも明かした。

「入社前は外から見ていて正直欲しいグッズがあまりなかったんですよ。男性向けのデザインだったり、女性向けといっても派手すぎたり。で、現在は実際にそういうお声もいただくんですが、でも欲しいと言われるものを作れば売れるかというと、それはまた別なんです。ファンの数は男性が圧倒的に多いので、女性向けのデザインを考えても最低ロットの生産ができないということもあります」(江藤さん)

金子さんも深く同意して、既存の購買層と新たなファンづくりのバランスを取るのは極めて難しいと話す。

「ファンの方が普段使いしやすい、おしゃれなものを作りたいと思っていたんですけれど、実は意外と響かない。何だかんだファンの方は黄色(栃木SCのカラー)が好きだし、栃木SCのものとわかる商品を持つことでアピールしたい。おしゃれとのバランスは難しいですね(苦笑)」(金子さん)

MDは「ものすごく重要なポジション」

座談会の途中では、スポーツクラブの間でMDの仕事がなかなか重要視されず、なんとなく「新卒や女性がやるもの」と捉えられている風潮に両名が警鐘を鳴らした。

MDは原価がかかりクラブの他部門と比べるとどうしても収益性が低い。そのためクラブは法人営業やチケット販売にリソースを偏らせがちだという。金子さんが百貨店でのバイヤー経験があることも引き合いに出しながら、江藤さんはこの状況は変わるべきと指摘する。

「MDは、本当はものすごく重要なポジションなんです。MDは必ずしもグッズ販売だけではなくて、クラブや選手というコンテンツ、無形の商材を使ってマネタイズをするという、『マーケティングの本流』なんです。

MDはスポーツ界全体でまだまだ伸びしろがあります。外注をするという選択肢も増えてきていますが、MDのノウハウをクラブ内で蓄積できるように、コア人材を育成すべきです」(江藤さん)

周囲とは異なる「強み」が重宝される

座談会の後半のトピックは、スポーツ業界で必要なスキルや、他業界との違い、そして活きた前職での経験などについて。江藤さんはIT業界、金子さんはアパレル業界と、それぞれ異なる業界からの転職経験をもとにエピソードが紹介された。

まず、二人ともがスポーツ界の大きな特徴として述べたのが「スピード感」。スポーツでは日々の勝敗だけでなく、選手の記録達成や入団・引退など、タイミングは決められないが売上が大きく影響される「ホットマーケット」が存在する。そのためクラブでは日頃から準備をしておいて、ここぞという場面でプロモーションを仕掛かける「待ちのマーケティング」となることが、他業界との大きな違いだと述べた。

また、現在活きている前職の経験について、江藤さんが意外にも「スポーツに関係がないところ」と発言する一幕も。

「言い方は悪いかもしれませんが、スポーツ業界に入ってくる人ってみんなキャラが似てるんですよね(笑)。スポーツをやってきたからスポーツに関わりたいと。私の場合はITの人間なので、周囲とは『強み』が全く被らなかったんです。それでいろいろ重宝してもらえました。自分の専門を持っていれば、スポーツ歴が無くても通用するんです」(江藤さん)

終盤は座談会の聴講者からの質問に答える形で、栃木SCによるコロナ禍での新たなMDの取り組みなどについても言及した後、栃木SCで募集しているポジション(現在は募集終了)も紹介。イベントは盛況のうちに幕を閉じた。