医療業界の市場規模を説明する前に、医療業界の定義について確認しておきましょう。
・医療業界とは?
医療業界の構成員には、医師、看護師、薬剤師、検査技師、工学技師、放射線技師などが働く病院などの医療機関、医療機器業界、製薬業界、介護福祉関連サービス業界などがあります。また、最近では製薬サービス業といい、薬の臨床開発や販売を外部で受注する業態(CRO、CSO)が伸びています。
・日本の医療保険制度について
日本の国民保険制度は1961年に成立、国民が安心して医療を受けられるように、国民全員が公的医療保険制度に加入する「国民皆保険」制度を採用しています。国民皆保険は、国民同士の支え合いで成り立つ制度で、少ない費用負担でいつでも誰でも必要な医療サービスを受けられる制度です。医療機器の購入費用や、処方される薬などの医療費の大半は国の保険で賄われています。
医療業界の市場規模はどのくらい?
まずは日本の医療業界の市場規模を、医療費支出や売上高を基に見てみましょう。
・日本の医療費支出からみる市場規模
厚労省のデータでは、日本の医療費支出は2019年に43.6兆円、2020年に42.2兆円、2030年には約62兆円と予想されており、2021年の予算案では医療費の国負担は約12兆円と大きな負担となっています。
・日本のヘルスケア産業の市場規模
ヘルスケア産業とは、医療関連産業、その他診断・治療以外の保健医療サービス産業と定義されますが、みずほ銀行産業調査部のレポートでは、ヘルスケア産業の2018年の市場規模は約55兆円とされています。内訳は、医療サービスが43兆円、医薬品9兆円、医療機器3兆円です。
・日本の医薬品業界の市場規模
2019年は世界の7%に当たる約9.6兆円で、その9割超が医療用医薬品です。
・日本の医療機器業界の市場規模
2019年度では売上高3.2兆円でしたが、2025年には3.4兆円、2040年には4.7兆円になると予測されています。ペースメーカーや人口関節などの治療系医療機器が約5割、CT、MRI、超音波画像診断装置、内視鏡などの診断系医療機器は約3割の構成です。国内と輸入の製品割合はほぼ同じです。
・日本での医療業界の成長要因は?
日本での成長の要因は、高齢化と世界一の平均寿命が2大要因です。日本の65歳以上の人口割合は、2015年には約26%でしたが、2060年には約38%になると予測されており、2025年にはいわゆる「団塊の世代」が全員75歳以上の後期高齢者になります(「医療業界の2025年問題」)。高齢化は医療ニーズの高まりをもたらします。また、日本は平均寿命が2017年には女性87.25歳、男性81.09歳の世界一で、平均寿命と健康寿命の差である約10年間を、より健康に過ごすための「ヘルスケア」需要が今後ますます高まると考えられます。
次に、世界の医療業界の市場規模を、医薬品・医療機器の売上から見てみましょう。
・世界の医薬品業界の市場規模
2019年で1兆2,504億ドル(約138兆円)と言われ、国別で言うと日本はアメリカ、欧州5カ国、中国に次ぐ4位の市場規模を持っています。
・世界の医療機器業界の市場規模
KPMGジャパンの予想では、2015年には売上高約40兆円でしたが、2020年には約53兆円に拡大、2025年には約68兆円、2030年には約87兆円になると予想されています。
・世界での医療業界の成長要因は?
世界全体の高齢化と、世界経済の成長が2大要因と言われています。医療は高齢化になる程ニーズが高くなるため、世界では多くの先進国で高齢化率が高まっており、高齢化に伴い医療ニーズが高まると予測されます。また、世界経済の成長に伴い、新興国を中心に、生活が豊かになればできるだけ長く生きたいという、健康に対する意識が高まるため、医療ニーズが高まっています。
注目の医療業界の取り組みとは
医療業界は、がんや認知症などの治療研究や創薬分野での開発・研究で大きな進展が見られることに加え、コロナ禍を経験して遠隔診断や治療などのヘルステックの動きが急速に進んでいます。
・ヘルステック
ヘルステックは、健康(ヘルス)とテクノロジーを組み合わせた造語で、最新のITテクノロジーを医療分野に応用し、アプリを使った情報収集と分析、そのフィードバックに医療知識を活用し、ヘルスケアを行う例が見られます。また、医療のオンライン化や、遠隔診断・治療、AI・ロボット活用による実用化が進んでいます。
・ヘルステックの実例
(株)ヴェルトは、同社が開発したコンディショニングAIアプリ「you’d」と医学事典MSDマニュアルを連携させ、端末からの日常データを蓄積・分析して、体調管理のフィードバックを行うサービスを開始しています。
・介護テック(ケアテック)
介護テック(ケアテック)と呼ばれ、介護とテクノロジーを結びつけたビジネスに参入する企業が増えています。ビジネスの対象者は高齢者と介護者で、高齢者の日常生活の支援やリスク軽減はもちろん、介護者の負担軽減を目的としたビジネスが行われています。例えば、高齢者の誤嚥予防や排尿の予測、フレイル(か弱さ・虚弱、健康でなくなること)の予兆を検知する技術や、介護者の作業軽減のためのアシストスーツやロボットの開発、高齢者の異常を検知して介護者に伝えるシステム、さらにはデータ分析により介護人員配置の適正化までアドバイスするシステムなどの開発が行われています。
・介護テック(ケアテック)の実例
ロボット開発のZMPは、自動運転ロボットを活用し、介護施設の高齢者を医療機関まで送迎するサービスを始めています。今後は通院だけでなく、散歩や買い物までサービス拡大を検討しています。
これからの医療業界の市場はどのように発展していくか
世界の医療業界は、急速なITテクノロジーの進展と、GAFA始め多くの医療業界以外の異業種企業の参入によって、より市場は拡大していくでしょう。高齢化の進展とヘルスケアやウェルネスの考え方の広がりは後戻りすることはないでしょう。
医薬品業界は、日本では国の規制に縛られているので薬価の改定などで市場が上下する傾向があります。開発に多くの費用がかかる新薬より、低コストでの後発薬の製造を求めてグローバルな展開が加速します。ただし、低コストが品質の低下にならないかは気になるところです。
医療機器業界は、グローバルな視野での企業買収や合弁企業の設立、企業間の共同開発などの動きが今後も活発になると予想されます。
介護福祉関連サービス業界は、新型コロナで影響を受けましたが、高齢化に伴い需要が落ちることはないでしょう。国の支援も見込まれ、ITの導入やAI・ロボットの導入でさらに省力化や効率化を進めていくでしょう。
まとめ
現在の医療業界の置かれている状況を説明しつつ、医療業界の市場規模について解説し、今後の市場発展についての展望を考えてみました。
高齢化の流れは世界の先進国では共通のものであり、国によって医療制度は違うものの、今後は治療よりも予防をキーワードに、長く健康に過ごしたい人々の思いがある限り医療業界の拡大は続きます。
ただし、公的な医療負担は国の財政に重くのしかかるため、医療費負担と医療行為負担の軽減の両面から、ますますテクノロジーを利用した省力化や効率化の動きは活発になっていくでしょう。
引き続き医療業界の発展に期待しつつ、注視していきましょう。
(TOP写真提供 = Mockup Graphics / Unsplash.com)
《参考記事一覧》
ヘルスケア業界(医薬品、医療機器、医療IT、他)の現状と展望 (CAREER INCUBATION INC.)
「令和2年度 医療費の動向」を公表します (厚労省ホームページ)
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