日本の平均寿命が延びているなか、現在注目されているのが「未病」という考え方。日本の医療費の問題の解決策のひとつとしても期待されている予防医学ですが、まだ多くの人に浸透していないというのが現状です。
今回は、未病の原因やその治療法を解説し、未病を防いで健康寿命を伸ばすために大切なことを紹介します。
「未病」とは
はじめに、未病の定義と、未病を防ぐ社会的必要性について解説します。
●未病の定義
「未病」とは、東洋医学の言葉で、健康な状態から徐々に離れていき、病気に向かって進んでいる過程を表す概念のこと。日本未病学会の定義によると、下記の2つの状態を示します。
1、自覚症状はないが検査では異常がある状態
2、自覚症状はあるが検査では異常がない状態
健康診断や人間ドックでは、異常値が「ある」か「ない」かという白黒の診断しかわからず、その間にあるグレーゾーンについては浮き彫りにならないことが多いのが現状です。
しかし、病気とは、前の日まで全くの健康だった状態から突如変わるのではなく、健康な状態から徐々に変化していくもの。もし未病のうちにその変化に気づくことができれば、早めに対処することが可能です。
<東洋医学における未病の考え方>
●西洋医学
健康 | 病気 |
●東洋医学
健康 → 未病 → 病気 |
また、検査で異常がみられたときには、すでに病気が進行している場合もあります。病気になってからそれに対する治療を行うのではなく、病気になりにくい心身の健康状態を維持することが大切です。
●未病を防ぐ社会的必要性
超高齢化社会である日本にとって、医療費の圧迫や介護の問題は避けられないもの。未病を防ぎ、健康な状態でいる期間をできるだけ長くすることは、医療費を減らしたり、介護や支援を受ける期間を短くしたりすることに繋がります。
日本の平均寿命と、健康な生活を送れる「健康寿命」との間には、約10年の差があるといわれています。この差を縮めるためにも、未病という概念を正しく認識し、予防医学に注力していくことが重要です。
未病になる原因は?治療法についても解説
つぎに、未病になる原因や、未病の治療法について紹介します。
●未病になる原因
未病になる原因のひとつとして、日常生活における様々な行動や習慣、外的要因があげられます。
<自分の未病の原因だと思う要因>
調査対象者:自分は「未病」だと思っている30〜59歳女性
加齢 | 64.0 |
運動不足 | 57.5 |
人間関係に関するストレス | 34.4 |
仕事の忙しさやストレス | 30.7 |
不規則な生活リズム | 28.6 |
睡眠不足 | 28.2 |
肥満 | 28.1 |
不規則な食生活 | 18.7 |
仕事と家庭の両立のためのストレス | 17.0 |
出産 | 5.8 |
上記のような要因が、ときには複雑にからみ合い、健康な状態から徐々に未病へと進んでいきます。
未病の状態では、通院しても病名が診断されにくいのですが、体からは下記のような何かしらのSOSが発信されています。
<未病をうったえる体のサイン>
・疲れやすい
・体が冷える
・体がだるい
・よく眠れない
・疲れが取れない
・食欲がない
・肩こりがひどい
・よくめまいをおこす
・胃腸の調子がよくない
誰でも経験があるようなちょっとした体の変化ですが、だからこそ見逃してしまいがちな症状ばかり。これらのSOSの原因を自分で分析し、どうすれば原因が取り除けるかを考える必要があります。
●未病の治療法
未病の治療法として大切なのは、体のSOSに早く気づき、心身をより健康的な状態に近づけるように日々の生活や周りの環境を整えることです。
たとえば、疲れやすいという症状に対しては、十分な睡眠を取るよう心がけたり、夕食を軽くすることで体の負担を軽減したりすることが必要です。
ほかにも、肩こりに関しては、肩まわりの血行が悪くなるために起こる症状なので、血流を良くするよう肩まわりのツボを刺激したり、エネルギー不足の解消をはかるために、栄養価の高い食事を取り入れたりすることで改善に繋がります。
どの未病に関しても、毎日少しずつ生活や食事に気をつけることで、徐々に健康な状態に戻っていきます。未病を自覚した場合は、焦らずに時間をかけて治していくよう心がけましょう。
未病を防ぐには…
最後に、未病を防ぐためのポイントをいくつか紹介します。
●定期的に健康診断や人間ドックを受診する
定期的に健康診断や人間ドックを受けることは、自覚症状がない未病を発見できる良い機会です。異常値だけに目がいきがちですが、正常値の範囲内であっても、前回の結果と比較したり、異常値に近づいているものはないかをよく分析したりすることが大切。
また、未病に気づいた場合は、体調や生活習慣に目を向けると良いでしょう。市販薬のように、すぐに効果が出るものではありませんが、長い時間をかけて体調を整え、体質改善を行うことで、健康な状態に戻していけると考えられています。
●日常生活で気をつける
未病を防ぐには、普段から免疫力を落とさないことがポイント。バランスのよい食事や十分な睡眠を心がけたり、また適度な運動や、ストレスを軽減するよう気をつけたりするなど、高い免疫力を維持して自分の力で健康を保てるように整えることがポイントです。
●遺伝的要素を事前に把握
自覚症状がなくても、遺伝子から推測して、起こる可能性が高い病気を事前に把握し、日常生活で気をつけておくこともポイントです。
たとえば、現在は遺伝子検査により、病気のなりやすさや体質などについて、唾液を採取することで解析することができるキットが販売されています。自宅で専用ケースに唾液を入れて郵送すると、自分と同じ遺伝型を持つ集団のリスクの傾向や、専用HPページでストレスチェックやアンケートに応えることで、生活習慣病のリスクなどを知ることができます。
病気の発症は、遺伝要因が約30%、生活習慣などの環境要因が約70%影響しているといわれています。持って生まれた遺伝子を変えることはできませんが、自分の遺伝子の傾向を知ることは、未病を防ぐ方法のひとつといえます。
特に、がんなど、検診で発見されるまで5年から20年かかる病気は、未病の期間が長い症状のひとつです。遺伝子検査により、自分のリスクを把握し、未病期間のあいだにその芽を摘むという考え方は、予防医学の原点といえます。
また、遺伝子検査を行わない場合でも、自分の親や祖父母など、血縁者がどのような生活習慣病や病気にかかりやすいかを知るだけでも予防策を取ることは可能です。肥満になりやすい家系、血圧が高い家系など、家族でなりやすい病気を一度確認してみるのも良いでしょう。
まとめ
健康診断の結果に異常値がなければとりあえず安心、と思う人や、病気と診断されてから治療すれば良い、と思う人が多いのが現状です。ただし病気になる前の段階で、ほとんどの場合は体がSOSを発しており、私たちがそれに気づかないだけ。
未病を防ぐには、そのサインに耳を傾け、日常生活や習慣の見直しを行っていくことが大切です。健康でいられる期間をのばすために、普段から気をつけた生活を心がけましょう。
(TOP写真提供 = Mockup Graphics / Unsplash.com)
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