これまで2回にわたり、「課題解決型」のスポンサー営業手法(第3回:確度の高い営業ターゲット選定、第4回:課題解決型スポンサーメニュー提案の考え方)について解説した。「応援したい」というエモーショナルな理由でスポンサーシップを行うパトロンモデル(応援型)と、コンテンツホルダーのアセットを活用したパートナー企業の課題解決が前提となるビジネスアライアンスモデル(課題解決型)を紹介したが、今回のコラムでは、「ビジネスアライアンスモデル」を目指す上で、スポーツコンテンツホルダーのスポンサーセールス部門が抱える問題点と抑えるべきポイントを紹介する。(文=アビームコンサルティング シニアコンサルタント 春田海人)
スポンサーセールス部門が抱えるジレンマ
当社が多くの国内コンテンツホルダーと意見交換をする中でビジネス人材や資金の不足が喫緊の課題として挙げられることが多い。スポンサーセールス部門においては、少人数組織が多く、他部門と兼務するなど非常に多忙である。加えて、スポンサー料は数万~数十億円と幅があり、数百社の既存顧客を抱えながら新規顧客の開拓も行うため、営業プロセスや権益の管理が複雑化しているのが現状だ。そして、売上拡大には新規顧客の獲得が欠かせないが、獲得コストは高いため、既に関係構築もできており、確実性の高い既存顧客の継続契約が最優先課題となっている。
そのような状況で、スポンサーセールス部門にとって、パトロンモデルとビジネスアライアンスモデルのどちらが魅力的なモデルだろうか。投資対効果でみれば、コンテンツホルダーに高い利益をもたらすのはパトロンモデルである。パトロンモデルでは、ビジネスアライアンスモデルのように、パートナー企業の経営課題への貢献は重視されないため、提案先の経営課題の特定、根拠を伴う有効な解決策の提示・実行・改善、実行後の効果測定などの業務に時間を割く必要はない。その点で、スポンサーセールス部門にとって、少ない業務量で高い利益をもたらすパトロンモデルは魅力的といえる。
しかし、昨今、経済環境の変化に伴い、企業(提案先)は、企業価値向上につながる経営課題に優先的に投資を行う傾向が強くなっており、企業成長につながる新たな問題発見・解決の切り口となるスポンサー提案を期待している。
つまり、さらなる売上拡大には新規顧客へのアプローチが必要となり、パトロンモデルで受注できれば魅力的な売上や利益は得られるが、顧客からはビジネスアライアンスモデルでの提案が求められている状況といえる。しかし、コンテンツホルダーにとっては、ビジネスアライアンスモデルには、高いオペレーションコストや学習コストが必要となるため、人的・資金的な余裕のない場合、どちらのモデルを重視すべきだろうか。
結論からいうと、二者択一の問題ではないと考えている。既存顧客も、パトロンモデルだけでコンテンツホルダーに投資し続けられる余裕がなくなれば、ビジネスアライアンスモデルを求めるようになり、新規顧客もアクティベーションにかかる自己負担を軽減しながらスポンサーをしたいという理由でパトロンモデルから始める場合もあるだろう。むしろ、スポンサーセールス部門は、自組織の売上拡大と顧客への価値提供を両立できるよう、両モデルを使いわけ、利益的にも持続可能なオペレーションの構築を目指すべきと考える。そのような組織になるためには、まずビジョン、そしてビジョン実現に向けた移行計画が必要となる。
ビジネスアライアンスモデルを推進する組織の原動力
ビジネスアライアンスモデルは、顧客の課題解決を実現する営業手法であるため、顧客にとって高い付加価値があり、場合によっては高価格の契約金を見込める。また、あらゆる保有アセットを課題解決につながるスポンサーメニューとして商品化できるため、コンテンツホルダーにとってこれまで「コスト」だったものが「売上」に変わる。そして、顧客がそのアセットを活用した体験から、保有アセットの価値を高めるフィードバックの機会を得ることもできる。
このように、パートナー企業に対する価値提供(提案先の企業価値向上)、売上拡大、保有アセットの収益化・価値向上の好循環を作り出すためには、組織として何を重視すべきだろうか。
当社は「利益マネジメント」と「知見の蓄積・活用」が特に重要と考えている。ビジネスアライアンスモデルではオペレーションコストが高まるため、利益を逼迫させないように業務量含めて可視化し、管理する利益マネジメントが必要となる。
また、一般的な課題解決型の大口法人営業では、個人スキルへの依存度が高く、「できる営業担当者(ハイパフォーマー)」と「できない営業担当者(ローパフォーマー)」の成果の差が大きい。少人数のスポンサーセールス部門がビジネスアライアンスモデルを採用する際には、ローパフォーマーに対する組織的なスキル学習プログラムを提供し、まさに少数精鋭を目指すべきと考えている。
その最良の教科書は、組織内にいるハイパフォーマーの知見である。ビジネスアライアンスモデルでは、顧客の数歩先に立ち、先手を打つような提案が求められてくることから、ハイパフォーマーが過去に検討した課題に対する知見、解決策に対する知見、成果の測定評価に対する知見などを組織内で蓄積・活用することで、短時間で高い品質の提案ができるようになり、組織の成長速度が高まっていく。
また、スポンサーセールス部門がパトロンモデルとビジネスアライアンスモデルを両立するビジョンを実現するには、経営層からの支援が欠かせない。保有アセットの価値を高めるためには、アセット管理部門とスポンサーセールス部門の両部門を管轄する経営層が、アセットの価値向上に向けた投資方針を決め、パートナー企業からどのようなフィードバックをもらいたいのかスポンサーセールス部門に伝え、アセット管理部門にはそのフィードバックを基に実行するよう行動を促すことが重要になる。また、スポンサーセールス部門の組織成長に向けた各種改革施策を実行に移すうえでは、経営層が中長期戦略の中で重要施策として予算面含めて落とし込むことが重要になる。
強い組織を目指す際の足かせ
ここまで、パトロンモデルとビジネスアライアンスモデルを採用し、自組織の売上拡大と顧客への価値提供を両立する強いスポンサーセールス部門となるための原動力と経営層から得るべき支援を説明した。ここからは強い組織を目指す際の足かせと抑えるべきポイントを伝えたい。
まず、当然だが、ビジョンを掲げるだけで、組織が変革されていくことはない。長い時をかけて醸成された風土・文化や、成功体験も積み重ねたオペレーション・習慣からの脱却は簡単ではない。
特に既存顧客の継続契約を最重要視しているコンテンツホルダーや、パートナー企業に対する営業担当者を長年変更していない場合は、強い改革意志が必要になる。営業担当者レベルでは業務や情報の属人化が進行しており、誰のスポンサーセールスの秘訣を基準に一貫性のある業務オペレーションを再構築していけばよいか、組織内でのコミュニケーション含めて難易度が高まる。また営業マネージャーも営業活動の現状把握や商談同席、行動の催促が中心となり、各営業担当者の案件進捗の支援や業務環境の整備に対する重要性認識やマネジメントスキルの至らなさが、組織成長に向けた取り組みの継続性を阻害する。また、スポンサーセールス部門全体は既存業務にかかる業務量が多く、新たな改革プロジェクトに時間を割く余裕もない。そして、営業担当者は、長年積み上げた成功体験のある営業手法から新たな営業手法の再学習をすることになるため、その変化を好まないことが多い。
このような足かせがあっても、顧客の期待に応える強い組織になるためには、現状の問題点や変革の必要性、目指すビジョンを組織全体に浸透させ、変革に向けた様々な施策を講じていく必要がある。
組織成長に向けた成功ポイント
そこで、変革に向けた様々な施策を講じる際には、大きく3つのポイントに考慮する必要がある。
1つ目が、既存の業務プロセスへの影響が小さく、利益創出につながる業務領域から改革を進めることである。これは、スポンサーセールス部門が少人数であり、個々人が多くの業務量を抱え、代わりもいるわけではないため、既存業務に支障が出ないことが、改革施策に取り組む際の要件になるからである。
2つ目は、改革施策は、効率化から始め、その次に高度化を行うことである。効率化とは、業務量・コストの削減や同じ業務量でも高い利益を上げる取り組みであり、これは自組織内で完結できることも多く、実現性は高い。高度化とは情報を活用しながら精度高く売上を上げていく取り組みであるが、コントロールができない相手(提案先)がいるため、失敗リスクも伴う。この順番で行うべき理由は、投資のための原資(利益)を確実に確保する必要があるからだ。その投資は人の採用や、効率化・高度化を促進する上では必要なものに使われる。また、効率化施策を通じて、変革の成功体験をスポンサーセールス部門全体で味わうことも、今後の変革を継続させるうえで重要になる。
3つ目は、高度化に取り組む際は、失敗リスクを受け入れる覚悟を持ち、継続的に改善し続けることである。これは、知見の蓄積・活用や保有アセットの価値向上を行う際には先行投資が必要になるが、短期的には売れるかどうかを確実に保証されるものではなく、日頃の試行錯誤によって精度を高めていく必要があるからである。特にビジネスアライアンスモデルでは、「その提案になぜ投資すべきなのか」という根拠を提案先に求められることは多い。顧客を納得させられなければ、提案先の担当役員に高額なスポンサー料の承認のために社内営業に奔走してもらうことや、アクティベーションの実務担当者に日々時間を割いてもらうことが難しくなる。
これらを踏まえ、効率化であれば、「現行業務を維持したまま利益向上」→「顧客接点には影響しない組織内部の仕組みを効率化」→「顧客接点含めて業務全体を効率化」といったアプローチ、高度化であれば、「日常的な業務進捗の高度化」→「スポンサーセールス部門における組織能力の高度化」→「コンテンツホルダーにおける組織能力の高度化」といったアプローチで変革を進めることが推奨される。それぞれにおいて複数の施策があるが、ここでは例示に留めて置き、詳しくは当社までお問い合わせいただきたい。
スポンサーセールス部門の成長を加速させるワンストップソリューション
パトロンモデルとビジネスアライアンスモデルを両立し、パートナー企業に対する価値提供、売上拡大、保有アセットの収益化・価値向上の好循環を作り出すためには、利益マネジメントと知見の蓄積・活用が重要になると前述したが、当社ではこれらを一元管理・可視化するソリューションを開発した。それが、スポンサーシップ特化型営業支援ツール(Sponsorship Sales Force Automation:SSFA)である。
このソリューションは、スポンサーセールス部門の「ビジョン」「組織」「業務」に合わせた「システム」であり、スポンサーセールス業務全体を一元管理できるため、スポンサーセールス部門は事業を俯瞰し、対応すべき課題を早期特定や効率的なPDCAサイクルの推進ができるようになる。
例えば、SSFAでは、一般的な営業支援ツール(SFA)でもできる複雑化した営業プロセスの管理だけでなく、アクティベーション実績・効果を蓄積・可視化することで、ニーズに沿った権益開発・廃止や、顧客ニーズのトレンドと自組織の強みを踏まえた潜在顧客の選定を支援できる。また、スケジュール情報から、業務の付加価値に見合った業務量となっているのか把握できる。そして、ハイパフォーマーのスキルを組織の標準スキルとしてシステムに落とし込むことで、ローパフォーマーはSSFAを使えば使うほどスキル学習につながり、またSSFAを通じてハイパフォーマーの知見を組織内部の誰もがアクセスできるようになる。
つまり、SSFAにより、スポンサーセールス部門の人材育成も兼ねながら、組織・業務の高度化・効率化を支援できると考えている。
最後に、スポンサーシップは、コンテンツホルダーの大きな収入源であるとともに、パートナー企業の意見を自組織にフィードバックすることで、事業全体をさらに成長させることができるものである。そのため、セールス業務のみだけでなく、価値提供の源泉となるメニュー開発やアクティベーションに対してもPDCAサイクルを適用し、スポンサーシップ及びコンテンツホルダー全体で価値を高めることが望ましい。PDCAサイクルを推進する際は、正しく現状を把握することが第一歩であることを認識し、現状の業務やその成果の定量化・言語化・ビジュアル化などで可視化に取り組む必要がある。
なお、スポンサーセールス部門の目指す姿に向けた改革は、特効薬はなく、状況変化に合わせた施策の組合せで考える必要がある。そのため、改革方針や改革施策を中長期戦略に落とし込み、組織全体で合意形成し、推進することが重要であるということを最後にお伝えしておきたい。
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