コロナ禍「ピンチをチャンスに。もっと強くなる」V・ファーレン長崎 髙田春奈社長が振り返る、激動のクラブ経営一年目。

V・ファーレン長崎の髙田春奈代表取締役社長に手記をいただく本連載。2020年1月に就任し2月の開幕を迎えたのも束の間、新型コロナという未曾有の出来事が発生し、その後は様々な対処が求められる激動のクラブ経営一年目となりました。シーズンが佳境の中、髙田社長にこれまでを振り返っていただきました。

前回:Jクラブ社長と大学院博士課程を並行。なぜ私は、学び続けるのか

シーズン終盤を迎えて

2020年シーズンが終わろうとしています。今これを書いている段階では、第39節までが終了。V・ファーレン長崎は昇格まであと一歩という位置につけています。残り3試合しかないということは、戦略や計算というよりも、いかに想いを一つにできるか、最後の力を振り絞れるかという精神論にも近い世界になってきていると思います。

幸いなことに、先日のホームゲームではコロナによるシーズン中断明け以降最高の7000人近いお客様の前で劇的な勝利を手にすることができ、最高の心持ちで残りの試合に臨むことができています。私達フロントスタッフも最高の舞台を用意したいと頑張っていますが、それ以上にスポンサー様や自治体の皆様からのご支援、何よりファン・サポーターの皆さんのいつも以上の応援が、選手たちを奮い立たせています。

この胸の高ぶりは普通の企業にはない体験であり、この空気を作るべく日々があるのだなと思わせてくれます。どんな結果になっても、多くの皆さんと結束して前を見ていられるこの経験は、これからの財産になっていくものと思います。

コロナ禍を経て強くなる

2020年は本当にあっという間の1年でした。昇格を目指して万全のチーム体制で始まった1月。キャンプ中のトレーニングマッチからチームの雰囲気はとてもよく、明るいシーズンを想像させてくれる出だしとなりました。2月27日のホームゲームでは、目標だった1万人にはわずかに手が届かなかったものの、地元諫早市のサンクスマッチということもあり、長崎の温かい空気の中で勝利することができました。

開幕戦翌日にリーグの中断が決まり、もう少しだけいい試合運営をするための準備期間を得られたと思ったのも束の間、その期間は想像以上に長く、試合のない日々の中でいかにファン・サポーターの皆さん、スポンサーの皆さんにV・ファーレンを身近に感じていただけるかを考えていく方向へシフトしていきました。

その間、ファンイベントやアカデミー生と選手との交流会をZOOMで実施したり、アプリの動画コンテンツを毎日配信したり、お困りのスポンサー様への支援を考えたり、その時だからこそできることをコツコツ積み上げていきました。同時に倉庫の整理、フォルダの整理、データベースの構築など、仕事をしやすい環境も整えることに注力しました。

私自身が常日頃大事にしていることの一つに「ピンチをチャンスにする」「転んだら起き上がってもっと強くなる」があります。コロナウイルス感染拡大に伴う自粛期間は、誰にとっても初めてのことです。私は社長として「通常のシーズン」を体験したことがなかったので、ある意味目の前の課せられた課題の新鮮さは、コロナがなくても同じだったのかもしれないとも思います。

いつもと違うサッカーのない日々の中で、改めてプロサッカークラブが社会に対してできることや、マネタイズできることを考えて、実行していった日々は、不謹慎かもしれませんが楽しかったし、クラブとしての結束や底力が生まれた期間にもなったような気がしています。

リーグ再開とタウン活動

6月末、Jリーグの皆様のご尽力もあり、試合を再開することができました。最初は無観客。リモートマッチ(リモマ)という新しい言葉も生まれ、会場にいけなくてもみんながポジティブに試合を楽しめる新しいスタイルを模索するきっかけにもなったと思います。

その中でジャパネットグループの力を駆使し行った「おうちでV・ファーレン」企画は、多くの方にご視聴いただき、離れていてもV・ファーレンを応援する人たちが一つになれた場所になったのではないかと思っています。私自身、雨のトランス・コスモススタジアムでその映像を見ながら、多くの声援の中で試合が行われているような錯覚もありました。そして勝利を画面越しに届けられた喜びはひとしおでした。

観客動員ができるようになって以降は、お客様の心理を想像しながらの試合運営が続きました。安心安全のスタジアム環境の構築は当然のことながら、いかにその中で楽しみを作っていけるかが課題でした。少しずつできることが増え、日常のスタジアム空間が戻りつつありますが、それが実現できたのも、ファンの皆さんの協力があってこそのことと思います。不便を強いられながらも、実行したイベントを最高に楽しんでくださいましたし、頑張るスタッフたちにもエールを送り続けてくれました。

また、なくてはならないのがスポンサーさんの存在です。8月19日の試合以降、ほぼ全てに冠スポンサー様をつけての試合を実施していく中、多くの企業様が集客やイベント企画、運営に携わってくださり、盛り上げてくださいました。どこも大変な状況の中で、サッカーを通して明るいニュースを届けたいという気持ちで一つになれたことは、コロナという惨事がもたらした正の作用ともいえるかもしれません。

並行して行ってきたのがタウン活動でした。特に毎年夏に行っている平和活動はちょうど試合再開のタイミングにあたりましたが、安全の観点から多くの地域イベントが自粛される一方で、通常通り行われたサッカーを通して平和の発信ができたことは、とてもラッキーだったと思います。

今年は長崎市や原爆資料館、高校生平和大使の皆さんなど、外部団体との協働が多くありましたが、皆さんのお力をお借りしつつ、唯一実施できている大規模イベントとしてのJリーグを活用していただけたことは、今年ほどその良さを実感できた時はないのではないかと思います。

また今年は長崎県内の21の市と町を訪問することもできました。自粛期間もうまく活用しながら、各地を巡り、首長や職員さんと各地の良さや課題を共有していけたことは、今後のV・ファーレン長崎の多面性を促進させ、より長崎が一つになって成長していけるきっかけにもなったと思っています。

2021年に向けて

波乱万丈だった2020年ももう終わろうとしています。現状では戦うカテゴリーも決定しておらず、コロナウイルス感染拡大の影響も見えていません。来年もまた今年のように、その時々の状況に合わせた判断が必要になってくる一年になってくると思います。

しかし実際に経営とはそういうものなのではないかなと思っています。どこでどのようなことが起こるのかわからない、天災や流行、技術の発展などにより、思いもしない変化が強いられて、都度の判断が必要になるからです。

その都度の判断をよりよくするために何が必要かというと、私は二つあると思っています。一つは会社としての基盤を整えておくこと。当たり前のことを当たり前に回すことができる基本ができてこそ、突発のことに対応できます。それはスポーツでも同じことかもしれません。組織としても、個人としても、しっかり基本を回せる環境やスキルを整え、突発的なことにも対応できるようにしておくことが大切だと思います。

そしてもう一つ重要なのが、確固たる信念、軸となる理念です。私たちは何のために戦うのか、誰に何をもたらしたいのか、何を発信していきたいのか。長崎が大事にしているのは、「正々道々」フェアプレーを通して、人々に夢や希望を与えることであり、その姿を通して世界に平和の尊さを発信していくことです。

被爆地が受けた痛み、人と人が憎みあい殺しあうことの愚かさ、それを身をもって知り、語り継ぐ使命を持った私たちは、ただ勝って世界レベルで注目されるだけでなく、その姿そのもので、平和や愛を伝えていく存在にならなければなりません。どんなことが起きようとも長崎らしさを忘れずに、多くの方々と手を携えて、未来を創っていきたいと思います。

これまで1年間連載させていただいたHALF TIMEでの手記も、今回が最後となりました。社長になってすぐからこのような機会をいただけたことで、自分の考えや思いを整理し、多くの方に知っていただくことができました。本当にありがとうございました。

編集部より=昨年末、「一年を通して手記を寄稿されませんか」という、多忙を極める新社長には無理難題と思われる依頼を、一言返事で快諾いただいたことを思い返します。新型コロナに見舞われたかつてないシーズンになりましたが、V・ファーレン長崎と髙田社長の姿を通して、クラブ経営、フロントスタッフ、そして仕事やキャリアについて、少しでも理解が深まり、参考になったのであれば幸いです。髙田社長にはこの場をお借りして、厚く御礼申し上げます。


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