日本郵政がスポンサーシップで得た商品開発、マーケティング、企業カルチャーのイノベーション【後編】

東京2020大会の開催が決まったのが2013年。それ以降スポーツ協賛に目を向けはじめた企業も多いが、日本郵政もその一社だ。2007年の郵政民営化で日本郵政株式会社として生まれ変わると、「お客さまと社員の幸せを目指し、地域と社会の発展を目指す」「人々の生活に寄り添う」という信念は一層強固に。スポーツ支援は、オリンピック・パラリンピックへの協賛だけでなく女子陸上部や3×3バスケットボール、車いすテニスやゴールボール、パラ卓球まで広がってきた。真に「日本全国」に広がり、根づいていると言っても過言ではない創業150年企業は、スポーツで、どのような未来を描くのか?同社広報部とオリンピック・パラリンピック室に伺った。

スポーツで地方の課題解決に挑む

オリンピック・パラリンピックが日本にやってくる。自国でのビッグイベント開催に高揚する人々もいる中、地方ではその盛り上がりを体感できずにいるという課題もある。グループ会社の日本郵便では全国で約2万4000の郵便局を保有し、地域と共に歩んできた日本郵政は、この課題解決に取り組んでいる。

オリンピック・パラリンピック室の橋川博一主任は次のように話す。

「地方自治体は東京2020大会を盛り上げたいという思いは強いのですが、どう盛り上げて良いか分からないという課題があります。そういった中、私たちはまず『競技に触れたい』という声に応えてきました。例えば、市町村が主催するイベントにブースを出し、ボッチャやゴールボール、3x3といった競技を実際に体験してもらうなどしています。

全国には約2万4000の郵便局があります。協賛するからには、東京2020オリンピック・パラリンピックを東京だけの話ではなく、『日本オリンピック・パラリンピック』として、全国を盛り上げたいという気持ちでやってきました」

全国各地でゴールボールの体験会も催してきた。写真提供=日本郵政

東京2020大会では、競技によっては北海道や東北での開催が予定されており、大会に先駆けて聖火リレーなどのイベントも行われる。それでも西日本など競技会場にならない地域では、関心が高まりにくいという見方もある。そういった地方を取り残さないためにも、日本郵政のネットワークが果たす役割は大きい。40万人の従業員がスポーツに詳しくなれば、日本各地で会話が起こり、盛り上がりに寄与できる。

商品を通した計画もある。東京2020大会の各種競技をモチーフにした特殊切手が、日本全国の郵便局やネットショップで6月に販売される予定だ。オリンピック・パラリンピックやスポーツとの接点が乏しい地域にも、記念商品が手に入る機会を提供して、日本中にムーブメントをつくっていく。

日本郵政が持つ女子陸上部も例外ではない。愛知県、高知県、長崎県といった選手たちの出身地では郵便局の壁面にゆかりの選手を用いた広告を出しているが、スポーツを通した街おこしとして話題作りにもなっている。オリンピック・パラリンピックだけではなく、2021年以降も見据えた長期的な取り組みだ。

ハガキ離れの若年層へリーチ

郵便局のネットワークを活用してスポーツを支援する傍ら、スポーツを活用して顧客と商品を強く結び付けていくこともできる。

郵便局といえばハガキだが、とはいえ最後にハガキを書いたのはいつだろうか?20代、30代の人々はいつだったか…と考えるかもしれないし、もしかすると10代の人はほとんど接したこともないかもしれない。「ハガキ離れ」の若年層に、手書きでハガキを出す良さを伝えるのにもスポーツは効果的だ。

日本郵政がゴールボール(目隠しをしながら鈴の入ったボールで得点を競い合うパラスポーツ)と展開する取り組みがある。視覚障がいを持つゴールボールの選手たちへのメッセージを手書きのハガキで集め、その内容を声優に吹き込んでもらって選手に音としても届ける企画だ。「文字のメッセージを声にして届ける」というユニークな企画は、選手にも顧客にも好評だ。

日本代表選手にハガキでメッセージを送る「Post to the Future」の取り組み。写真提供=日本郵政

同様に協賛する3×3(スリー・エックス・スリー:3人制バスケットボール)は、ストリートから発展した若年層に人気を誇る競技。「Post to the Future」という世界に挑戦する代表選手にメッセージを送ろうという取り組みを行う。ゴールボールでも3×3でも、若い世代からのハガキが増えているという。そもそもハガキの書き方が分からない、書く相手がいないという人もいる中、アスリートを宛先にした新しい接点作りになっている。

「私たちがスポーツを通して活動していくことで、若い人がハガキを書いてみようという1つのきっかけになれば」と橋川氏は話す。

若い世代から学ぶことも多い。小学校ではパラスポーツが授業で教えられ、現在の若年層は多様性が当たり前。大人より理解度が深い場合も多い。次世代との取り組みにより、企業もその社員も貴重なリバースエデュケーション(大人が子供から得る「逆向きの学び」)の機会になっている側面もある。

スポンサーシップから生まれた新たな社内システム

平昌オリンピックでは競技が実施された直後にメダリストのフレーム切手を発売した。写真提供=日本郵政

「切手」もまた目玉商品の一つでもある。実はオリンピック・パラリンピックなどの国家的なイベントの記念切手は、法律に基づいて政府から発行を求められるため、協賛していなくても手掛けられる。ただし、過去数大会を通して、より主体的に協賛企業としてアクティベーションを実施してきたのが、メダリストの「フレーム切手」だ。

ニュースを切手にして、すぐに販売する。オリンピック・パラリンピックを契機に、今までにない商品開発に取り組んだ。スポーツ界ではマーチャンダイジングで優勝記念や記録達成時の「ホットマーケット」に対応するため、すぐさま商品を製造・販売する仕組みが広がりつつあるが、まさしくそれを切手という商品で実現したのだ。

広報部の池辺恭平マネージャーは、次のように話す。

「(2018年の)平昌大会では、羽生結弦選手、宇野昌磨選手、そしてカーリング女子チームなどの多くのファンを抱える国民的スターを題材に商品化できました。これは、(2016年の)リオ大会からの知見でもあります。今ニュースになっていることをすぐに商品にして販売する。この『新たな仕組み』が社内にできたことが、大きなメリットだったのではないかと思います」

やったことがないことへの取り組み。伝統的な主力商品でもある切手の革新。様々なしがらみの中でもこのイノベーションが実現できたのは、スポーツ・スポンサーシップが果たした役割ともいえる。

日本郵政が考える、スポーツの価値

改めて、スポーツはどのような意味を持つのか?「全ての国民が私たちのお客さま」(池辺氏)という日本郵政にとって、誰一人取り残さないというのは重要な考え方になる。それは多様性のある社会の実現に他ならず、そのメッセージを発信していく上で、パラ競技を含めたスポーツは欠かせない。

事実、日本郵政はゴールボールや車いすテニス、パラ卓球などを支援している。また、女子陸上部という企業チームの創設は、社内外の意識を合わせることにも奏功したと橋川氏はいう。

「チームや選手の活躍によって、社外のお客さまからの応援を頂くことも多くなってきました。また私たちの会社は社員数が多く、世間に与える影響もそれだけ大きい。そして、あまねく全国のみなさまがお客さまであり、我々はみなさまの人生のあらゆるステージで必要とされるサービス・商品をお届けしていきたいと思っています。そのような観点で、我々の生活に身近な“スポーツ”と“日本郵政”は、相性が良いのではないかと思っています」

日本郵政グループ女子陸上部は創部7年にしてクイーンズ駅伝で3度の優勝を誇る。写真は2019年クイーンズ駅伝優勝時。写真提供=日本郵政

スポーツは健康で前向きなイメージで、マイナス面が少ない。ポジティブなイメージに発信したいことを合わせると効果も大きい。先述のゴールボールと取り組む「文字を音声で届ける」メッセージ企画でも、SNSを中心に反響も大きく、若年層からも支持が高い結果が出ている。

「お客さまと共通の話題になり得るのは、スポーツが持つ大きな特徴だと思います。スポーツ題材の広告宣伝を展開することで、従来よりも効果的な広告宣伝活動ができたのではないか」(池辺氏)

スポーツを通してだからこそ伝えられるメッセージもある。日本郵政の発信する動画は、字幕付きがスタンダードとなるよう、オリンピック・パラリンピック関連の発信から社内で変化を起こしていきたいという。これは耳の聞こえない人たちへも、視覚情報によって届けるべき情報を補う意図で、すべてのお客さまに平等に情報をお届けする、誰一人として取り残さないという思いの現れでもある。パラスポーツを支援してきたからこそ、その重要性を理解し、社内外でも浸透されるべきだと感じているのだという。

日本郵政の企業理念には、「地域のお客さまの生活を支援し、お客さまと社員の幸せを目指すこと」が掲げられている。現在のスポーツは、社会の中に存在し、生活の一部でもある。生きがい、健康増進、リハビリなど、スポーツは社会において多くの役割を持つ。スポーツを支えることは、もはや人々の生活を支えることに直結しているとも言える。池辺氏はこう表現して締めくくった。

「人生100年時代。お客さまの生活をあらゆる面でお支えするという意味でも、日本郵政はスポーツへの投資を行っています」

 
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