女子陸上部からオリパラ競技まで。「選手、競技と一緒にスポーツを育んでいく」日本郵政のスポンサーシップ【前編】

東京2020大会の開催が決まったのが2013年。それ以降スポーツ協賛に目を向けはじめた企業も多いが、日本郵政もその一社だ。2007年の郵政民営化で日本郵政グループとして生まれ変わると、「お客さまと社員の幸せを目指し、地域と社会の発展を目指す」「人々の生活に寄り添う」という信念は一層強固に。スポーツ支援は、オリンピック・パラリンピックだけでなく女子陸上部や3×3バスケットボール、車いすテニスやゴールボール、パラ卓球まで広がってきた。真に「日本全国」に広がり、根づいていると言っても過言ではない創業150年企業は、スポーツで、どのような未来を描くのか?同社広報部とオリンピック・パラリンピック室に伺った。

日本郵政はなぜスポーツに取り組み始めたのか

日本郵政は今年2021年で、創業150年という節目の年を迎える。公営から民営化の時代を経て、郵便局を中心として、永きにわたって全国各地域の人々の暮らしに寄り添ってきた。その中で、地域単位では各支店・局が地方創生の担い手として、地域のスポーツの支援や応援を行ってきた。

東京2020の協賛や2014年に女子陸上部を立ち上げたことを契機に、企業としてスポーツへの取り組みが本格化。2018年に現在のオリンピック・パラリンピック室が3名のスタッフでスタートし、3×3(スリー・エックス・スリー:3人制バスケットボール)やゴールボール(目隠しをしながら鈴の入ったボールで得点を競い合うパラスポーツ)という発展途上の競技もサポートする。

以前には、過去に明石西郵便局(兵庫県)で勤務経験のあるパラ卓球の別所キミヱ選手のサポートを2015年から開始している。個人アスリートをスポンサードするという文化が社内に根付いていくきっかけにもなった。

日本郵政が協賛している競技の1つ、3×3バスケットボール。写真提供=日本郵政

企業としてチームを立ち上げたり、選手個人へのスポンサードをしたりするなど、日本郵政のスポーツ支援は広がりを見せる。それぞれに一体どんなメリットがあるのだろうか。オリンピック・パラリンピック室の橋川博一主任は次のように話す。

「日本郵政の名前を冠したチームが活躍することで、社内はもちろん、お客さまをはじめとした社外の皆さまからも応援をいただくことが増えました。所属のアスリートがいることでお客さまとの会話にもつながっています。会社としてみんなでチームや選手を応援しようという雰囲気が生まれました」

一方で、特定の競技や個人を支援するメリットはどうか。

「チームを作るハードルが高いマイナースポーツでは、協会の方やチームの方と一緒になってどう盛り上げていくのがベストか相談し、協力しながら進めていけるのが魅力です。例えばゴールボールというパラ競技の日本代表チームを協賛させていただいていますが、我々が縁の下の力持ちの存在となって一緒にスポーツが社会的に育っていければと思い、大会の運営の支援や競技認知向上のための広告宣伝をしています」

日本郵政がスポーツへの取り組みを本格化したのはごく最近の話。チームや協会と共に一緒に成長することを目指し、約40万人の社員がそのスポーツのサポーターとなる。スポーツ団体にとっては、これ以上ない強い支援であることは間違いない。

「およそ40万人のグループ社員が競技に詳しくなれば、日本全国に広がる郵便局のネットワークを活かして、スポーツの情報を全国の皆さまにお届けすることもできると思います。スポーツと一緒に成長すること、地域に根差したスポーツやチームを応援することが、私たちの企業には合っているのではないかと思います」

車いすテニス・大谷桃子選手と歩む道のり

車いすテニスの大谷桃子選手はかんぽ生命に所属している。写真提供=日本郵政

日本郵政グループが雇用する形で支援する初のパラアスリート社員は、現在世界ランク6位の車いすテニスプレーヤー大谷桃子選手だ。2019年4月から日本郵政グループのかんぽ生命が支援しており、2020年4月に社員としてかんぽ生命に入社した。

大谷選手はそれまでは、拠点とする佐賀県の地元企業1社、そして県からの支援が活動費のすべてだった。十分ではない金銭でのやりくりが必要になり、時には遠征にコーチを帯同させることを諦めたり、施設利用費を減らすために練習時間を短縮したりせざるを得なかった。

アスリートにとっては、企業から支援を受けることで金銭面が工面できるようになるのは言うまでもない。ただしそれ以上に、多くの人々から得る応援が計り知れないと、大谷選手は語る。

「『1人でスポーツをしているんじゃないんだ』と改めて感じました。試合になると自分で戦って、自分で判断することが求められますが、応援やサポート、時には心配さえしてくださっている社員の方が多くいるというのは、すごく安心感があります」

大谷選手も日本郵政グループに抱く印象は「より身近」になったという。通っていた大学の近くに郵便局があり、社員になる前から行く機会はあったが、今では訪れる度に応援の言葉をかけられる場所になった。

「郵便局は、用事があって訪れる場所ではありますが、私にとっては元気をもらえる場所なんです」

今後は日本郵政グループが持つネットワークを活用して、会社と共に取り組んでいきたいこともあるという。それは現在の活動拠点である佐賀での、車いすテニスの普及だ。

「日本郵政グループは地方を含め、日本全国どこにでも拠点が存在します。もちろん私がいま佐賀にいるので佐賀からという想いが強いですが、1つ、また1つと車いすテニスが学べる環境が全国に広がっていけば良いなと思います」

全国約2万4000、僻地や離島にも存在する郵便局。そしてグループ全体で40万人以上の社員を誇る日本郵政グループの支援は、大谷選手の挑戦やメッセージをより多くの人に届けることにもつながる。

「障がい者になってから、両親や友人に多くの心配や迷惑を掛けてきたと思います。(車いすテニスは)『元気でやっているよ』と伝える場になっています。障がいを乗り越えて、頑張っているというのを伝える、良い機会だと思っています」

目先の東京2020パラリンピックだけでなく2024年のパリ大会、そして何より4大大会(グランドスラム)制覇という目標を掲げる大谷選手。かんぽ生命、そして日本郵政グループと歩む挑戦は、まだまだ続く。

ラグビー日本代表への協賛から見えた方向性

もちろん、日本郵政のスポーツへの取り組みはマイナースポーツだけではない。2018年にはラグビー日本代表のオフィシャルサポーター契約を締結。日本を舞台に大きく盛り上がりを見せたラグビーワールドカップ2019にも、代表チームを支える立場として一役買った。ビッグイベントに関わることは社内外での反響も大きかったと、同社広報部の池辺恭平マネージャーも話す。

だが大きなイベントや認知度がすでに高い競技への協賛は、その高額なスポンサー料に見合う見返りが課題となる。大会には大企業のトップパートナーも複数存在するため、1つの企業の取り組みは埋もれてしまい、効果が薄れる懸念点も存在する。池辺氏は一つの見解を示す。

「我々の人的資源、郵便局ネットワークを活用すれば、競技自体の普及を支援させていただくことができる。そのためには認知が低い競技であっても、トップスポンサーのランクでやっていく方が、ネットワークを活かせて、我々だけでなく競技団体にとってもメリットがあると思います」

スポンサードの知見をためていく意味でも、発展途上のスポーツや地域に根付いたスポーツチームと共に成長することを目指す。これがラグビー日本代表への協賛を経て見えた、日本郵政のスポーツ協賛の方向性となった。

ラグビーワールドカップ2019日本大会にあわせて、オリジナルフレーム切手セットを発売。付属のはがきは浮世絵の世界観でラグビー選手を描いた斬新なデザインで、好評を博した。写真提供=日本郵政

とはいえ、ラグビー日本代表への協賛は教訓を得られただけでなく、大きな実体験を得ることとなった。それはアクティベーション(権利活用)だ。

オリンピック・パラリンピック室は、オリパラだけでなく様々なスポーツを扱う。ラグビー日本代表を通しては、選手へ応援ハガキを送るキャンペーンや、ラグビーを題材とした切手の販売などで協賛権利を活用し、社内でスポンサーシップの在り方を考える契機になった。池辺氏は続ける。

「ラグビーは転換点になりました。広告宣伝をマスに打つのではなく、スポーツのコアファンとつながっていく。私たちは全国に事業所があり、国民全てがお客さまです。広告宣伝だけでなく、地域に根付いているスポーツをきちんと支援することで、スポーツが大好きだという方々を私たちのお客さまとしてきちんと取り込んでいく。このようにスポーツを広告や商品に活用し、体系立てて戦略を立てられるようになったのは、オリンピック・バラリンピック室ができてからになります」

スポーツが社内にもたらした効果

日本郵便、ゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の子会社を持つ日本郵政株式会社。40万人以上の従業員を抱えるグループを1つにまとめるのは容易ではないが、スポーツには結束を高める力があると、橋川氏はいう。

「社員全員が応援するものができて、一体感が生まれました。グループ横断的に、みんなで日本郵政グループ女子陸上部を応援しようというムーブメントができてきたのかなと思います」

日本郵政グループ女子陸上部は2014年4月に創部。東京2020オリンピック女子マラソン日本代表に内定している鈴木亜由子選手らが創部当初から好成績を収め、2016年には全日本実業団対抗女子駅伝競走大会(クイーンズ駅伝)で初優勝。2019年、2020年には連覇を果たし、創部からわずか7年で3度の日本一に輝いている。

昨年の大会においては、コロナ禍によって会場で応援できない中、全国の社員からメッセージを集めて応援動画を作るなどして、オンラインでの取組による社員同士のつながりを生み出している。

同様に、パラスポーツへの支援も社員に及ぼす影響力は大きいと、池辺氏は話す。

「パラスポーツを支援することは、単純に競技を通して社内が盛り上げるだけでなく、共生社会や障がいへの理解を深めることにもつながります。そのため協賛も自発的にアプローチしました」

各競技や選手個人と共にスポーツの発展を支えてきた日本郵政。後編では、実際のスポンサードの取り組みをより深く伺っていく。

 
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