【大河正明×橋本大輔×利重孝夫】withコロナのスポーツは「エンタメとテクノロジーで、ピンチをチャンスに」

『HALF TIMEカンファレンス2020 Vol.3』が、2020年8月27日にオンラインで開催された。セッション2では「スポーツ×テクノロジー」をテーマに日本人識者が集結。国内リーグ、クラブ、そして海外での経験や視点と異なる立ち位置から、コロナ対応からテクノロジー活用まで、新しい武器でいかに困難に立ち向かっていくのかが熱く議論された。

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スポーツビジネスの収益構造は変わるか

モデレーターを務めたBlue United Corporation CEO 中村武彦氏

2020年3回目となる『HALF TIMEカンファレンス』、その後半となるセッション「テクノロジーと日本・スポーツビジネス」にて、モデレーターの中村武彦氏(Blue United Corporation CEO)から提案された議論のトピックは3つ。

コロナの影響を受けたスポーツビジネスは、①まったく新しい収益のモデルを模索すべきか、元に戻ることを前提にすべきか、②新テクノロジーの導入は必須だがどのようなテクノロジーを重視し、導入していくのか、③改めて考えるスポーツの普遍的な魅力とは、という誰もが今まさに答えを求めている題材だった。

1つ目の質問に最初に答えたのは、利重孝夫氏(株式会社ソル・メディア代表取締役社長)。サッカーメディアFootballistaでも欧州を中心にコロナ禍の影響をつぶさに情報発信しているが、「スポーツ業界全体が甚大な影響を受けていることは間違いない。ただ、スポーツビジネスのモデルが変わってしまったと捉えるのは少し早計かなと思っています。今後もマッチデー、コマーシャル、ブロードキャスティング、この3つが収入の柱であることは変わらない」と述べた。

その上で同氏は、「これまでと同様のビジネスモデルをベースとした上で、どのように売上の維持・向上と費用削減を図っていくのか?基本形で収益改善に注力していくことが肝要」と強調した。

クラブを代表する立場から橋本大輔氏(栃木SC代表取締役社長)も、利重氏の意見に大筋では同意する。ただし、「感染拡大が止まって以前の生活に戻っても、この時期に起こったことは人々の生活や価値観に大きく影響する。つまり、スタジアムにすぐに人々が帰ってくることは考えにくい。20年以上前にMLBがストライキを起こした時、翌年お客さんが戻ってくるのにはだいぶ時間がかかりましたから」と実例を挙げて、特にマッチデー(チケット収入)に関しては厳しい見通しを語った。

リーグの視点で、これに反応したのが大河正明氏 (前Bリーグチェアマン/びわこ成蹊スポーツ大学教授・副学長兼大阪成蹊大学スポーツイノベーション研究所所長)。「JリーグとBリーグ合わせて12年くらい、リーグのど真ん中にいた」経験から、「プロスポーツは、集まって声を出して感動する文化だと思っています」と、大前提となる認識を示す。

それを加味して、同氏は、「今までのような、入場者をきっちり入れて満員の中でやるという文化がなくなることはない。チケット収入をカバーしていくためにも、アウエーのチケット収入を強化していくなど、withコロナの時代に新しい仕組みを考えて、afterコロナの時に新しいビジネスモデルとなることが理想」と、橋本氏の考えに1つの具体的な回答を加えて、今後進むべき道を示した。

withコロナ期間、新たな取り組みも

栃木SC 代表取締役社長 橋本大輔氏

モデレーターの中村氏からは、この(withコロナ)期間中に何か試していることはという質問も投げかけられた。栃木SCを率いる橋本氏は「リーグ戦が中断して先が見えない中、ファンサポーター、スポンサーをつなぎ留めておくという意味で、やれることはやりました」と口火を切る。

橋本氏からは、サッカースクールとチアスクールのオンライン授業、オンライン居酒屋での交流会、オンライン1日店長などデジタルを駆使した試みが次々と列挙される。さらに選手たちがSNSでスポンサーの商品を紹介したり、ランニングがてらスポンサーの本社を回り写真を撮ってSNSで発信するなど、自発的に動いていた事例も紹介された。

デジタルでファンやパートナー企業とのエンゲージメントを向上させる施策について、先進的な事例を持つマンチェスター・シティ。シティ・フットボール・グループの日本法人代表を兼務する視点から利重氏は「マンチェスター・シティのクラブの歴史は長いが、世界的に人気を拡げた点では新興。ファンベース拡大の目的で、主にミレニアム世代をターゲットに、他クラブに先駆けてデジタルの活用に力を入れてきたのが、コロナ禍のさなかでも活きている」と話す。 

プレミアリーグの中断期間中でも、セルヒオ・アグエロの幼少期からのドキュメンタリーやダビド・シルバ退団の特別映像など、主力選手の「ピッチ外」のコンテンツが制作され、大きな反響を呼んだ。そこにはスポンサー企業のアクティベーションとしての意味合いも多分にあったという。

「欧州ではスポンサーのマーケティング投資への意識が高く、クラブに対するプレッシャーは日本の比ではありません。これら成功した企画が生まれた背景として、クラブ側がスポンサーからの厳しい要望に応えるために何とかアイデアを絞り出した、というのも事実。この非常時においてはテクノロジーの活用だけでなく、クリエイティビティを発揮することも大いに求められる」と、利重氏がその内実を明かすと、話題はコロナ禍でのテクノロジーの使いどころ、そしてスポンサーのアクティベーションという方向へ移っていく。

何のためのテクノロジーか?

株式会社ソル・メディア 代表取締役社長 利重孝夫氏

日欧で活躍する利重氏は、ここで、「日本の場合はコロナ禍のテクノロジーの活用例として、投げ銭やクラウドファンディングなど個人への課金が注目されがち。ただJリーグを例に挙げると、2019年はJ1で45パーセント、J2で56%がスポンサー収入。現実として約半分の収入をスポンサーから得ているのであれば、そこに対してアイデアや施策を出して実行していかないと、売上に対するインパクトは大きくはなりません。スポンサーに対してどのようにデジタルを活用してアクティベーションしていくか。いずれにせよ、よりスポンサーを意識した施策を打っていくべきです」と、問題提起。

続けて、「ヨーロッパのクラブに投げ銭やクラウドファンディングの話をすると、それって意味あるの?という反応が返ってきます。彼らからは、例えば、リモートでどうやって試合映像の制作を成立させていくか、そのためのテクノロジー発想というのが1番先にきます。何故か?多くのクラブにとってテレビ放映権収入が総売上のなかで最も大きな割合を占めているからです。日本でも、プライオリティを正しく認識し、1番インパクトのあるものに対するテクノロジーの活用を考えるべきだと思います」と現状を分析し、より効果的な施策を行う必要性を語った。

さらに利重氏は「試合がない、選手とのミート&グリートができない、だから『仕方がない、また次回』で終わらせず、テクノロジーとクリエイティビティを駆使した他のアクティベーションでスポンサーにお返しをする。そして、これを繰り返し行うことでスポンサーとの関係を継続、発展させていく」、といったスポーツビジネスのベーシックの一つを今こそ習慣化すべきと強調した。

この意見に追随したのが、Jクラブの代表として現場にも立つ橋本氏。「栃木のスポンサーさんは、こちらが何かをやるというより、『まず看板を出して、しっかり露出をはかってくれればいいよ。支えるから』という(のが多い)段階。ただ、それに甘えているといつか終わってしまう。しっかりビジネスとして取り組んでいかないといけない」と述べた。

同氏は「数年前から、フロントの人間がITリテラシーを高めるとともに、業務の効率化をはかるため、スタートアップ企業のベンダーさんからツールをサプライしてもらっています。そういった企業は、オンライン上でいかに自分たちの商品へ誘導できるか、それを使ってもらえるかを求めています。業種や業態によって要望は様々ですが、より一層1社1社に対して向き合っていかなければならないと、今回特に試合が行われなかった期間に、考えさせられました」とも語った。

大河氏はJリーグとBリーグの両方に携わってきた経験から橋本氏に同調し、大口スポンサーへコミットする重要性を説く。

「橋本さんのお話はよく分かります。JとBの両方で100クラブくらいあって、ちょっとしたクラブはスポンサーが300社とか400社とかある。そのうちの8割は『地域だから支えるよ』と10万~100万を出してくれている。一方で、上位2割のスポンサーに対して、そもそも何を期待してスポンサードをしてくれたのか、(クラブが)はっきりさせていないこともある。それができれば、どんなアクティベーションが求められているのか、共通理解できると思っている」

パネリストが注目するテクノロジー

びわこ成蹊スポーツ大学教授・副学長兼大阪成蹊大学スポーツイノベーション研究所所長 大河正明氏。前Bリーグチェアマンでもある。

そして話は、2つ目のテーマに突入。これからはテクノロジーが必要なのは明白だが、テクノロジーは星の数ほどある。その中で特に注目しているものを挙げていただきたいとの問いがモデレーターの中村氏から投げかけられた。

橋本氏は、大きな流れとして5Gをあげつつ、自クラブに直結する点では「スポンサー企業の中にはコロナ禍で業績が悪化している企業もある」と前置きし、収入を上げるだけでなく支出を抑える見方を、次のように示した。

「チーム人件費については、J2、J3のクラブでも、1番大きな割合を占めています。ですので、一層客観的なデータに基づいて、選手の獲得やチーム作りをしなければいけない。もう少し安価で使いやすいテクノロジーが出てくれば、効率的に、いいチーム作りができるのではないかなと考えています」

次に利重氏が挙げたのは、驚くことに投げ銭だった。投げ銭は動く金額が小さく、ビジネスインパクトは限られると先ほど語っていた通りだ。だがこのサービスの本領は、金銭面ではないと話す。

「投げ銭の魅力は、試合以外の時間や場所におけるファンコミュニティのプラットフォームを形成できるポテンシャルがあること。それが、スポンサーのアクティベーションまで実現可能になるような規模・機能を有した24/7(年中無休・休みなし)のファンコミュニティー・プラットフォームになれば、非常に面白い存在になる」と、まだクローズアップされていなかった部分に大きな価値を見出した。

これにはモデレーターの中村氏も賛同。「ファンエンゲージメントは、選手とファンの関係性だけだと不祥事や成績が悪くなると切れてしまうことがある。でもファンの横にまたファンがいてチームがいるという三角形の関係性になると、もしあるファンとチームの関係が悪くなってもファン同士はつながっているので、一度離れたファンも何かのきっかけで復活するという話があります」と、投げ銭のコミュニティーとしての効果に期待を寄せた。

スポーツの普遍の価値とは

議論は盛り上がりを見せながらも最後のテーマに突入する。これからも変わらないスポーツの真の魅力とは何かだ。この本質さえ分かっていれば、今回の新型コロナなど外的要因にさらされても、対応が後手を踏むことは少なくなるかもしれない。

利重氏は「スポーツの根源的価値は、コロナ禍でも変わらない」と述べつつ、「日本では、短期・中期的には親会社やリーグ、スポンサーからのライフラインを期待できることを良しとした上で、長期的には益々スポーツの強み、価値を前面に押し出すことで、社会的な公器となるよう進んでいくべき」と提言した。

例に挙げたのが、コロナ禍の欧州サッカーだ。「各国リーグが中断した後、ブンデスリーガがいち早く再開を果たしたが、その理由として、如何にサッカーがドイツの国民、地域の人々にとって大事な存在であるか、再認識されたことが大きかったと言われています。スペインでは、更にGDPに占める割合が大きいという要素も加わり再開が支持されました。日本でスポーツビジネスに携わる我々も、もっと社会での必要性を高めていく意識・自覚を持って活動していきたい」と、同氏は目指すべき未来を示した。

橋本氏は「スポーツは筋書きのないドラマだと言われる。勝敗・結果も面白いし、どのドラマにも競技者やそれを応援する人たち、そしてサポートする人たちの色々なストーリーがある。これは変わらないし、魅力的なところではないか」とスポーツの普遍的な価値に触れ、栃木SCでの取り組みを次のように紹介した。

「栃木SCにはKEEP MOVING FORWARD(常に前に進み続ける)というフィロソフィーがあります。これをいかに試合で表現できるか。勝っても負けても前に進み続ける姿を表現して、楽しんでもらったり勇気や夢を与えるドラマを作っていきたい。テクノロジーを用いてそういうチームを作って、声を出して喜んでもらえればと思います」

大河氏はプロスポーツの流れを紐解きながら、進むべき道を示す。「プロスポーツという観点で言うと、企業の広告宣伝の価値としてプロ野球が始まったのが昭和。Jリーグができて地域密着で地域と向き合っていこうと、企業名でなく地域名+愛称となったのが平成。そしてBリーグは、エンターテインメントとテクノロジーの令和のスポーツにしたいと言ってきました」と述べ、最後に、未来に向けたエールを送った。

「感動を呼べる、日本を元気にできるというスポーツの一番いいところを、軸をぶらさないで、コロナのピンチをチャンスにするため、エンターテインメントとテクノロジーに重きをやっていけばいい。(スポーツ業界の)ど真ん中のクラブやリーグでもよし、周りのメディアやスポーツ関連産業でもよし。ぜひ『我こそは』という人に来てもらって、一つひとつ、若い人を中心にやっていってほしいと思います」


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