#HALFTIMEカンファレンス (4) なぜスポーツにビジネスパーソンが求められるのか?フェンシングとバスケの人材課題、見据える「成功事例の横展開」

日本、アジア、そしてグローバルのスポーツビジネスに焦点を当てる『Global Sports Business Conference 2019 presented by HALF TIME』が7月9日に開催。12名のシニアリーダーと170名を超えるスポーツビジネス従事者・関心層が参加し、業界最大級のカンファレンスとなった。その豪華セッションの内容を4回にわたりレポートする。

連盟、リーグ、チーム 各者が見つめる人材課題

カンファレンスの模様をお届けする連載の最終回となる第4回は、日本スポーツ界喫緊の課題ともいえる「日本にプロのスポーツビジネスパーソンが必要な理由」がテーマに。

サッカーJリーグの浦和レッドダイヤモンズ、そして日本代表としても活躍し、現在はAuB株式会社で代表取締役を務める鈴木啓太氏をモデレーターに、いずれも日本のスポーツ界にビジネス人材を積極登用し話題を呼ぶ日本フェンシング協会会長の太田雄貴氏、B. LEAGUE事務局長の葦原一正氏、株式会社DeNA川崎ブレイブサンダース 代表取締役社長の元沢伸夫氏をパネラーに迎えセッションが行われた。(所属・肩書きは全て当時)

モデレーターを務める鈴木啓太氏も腸内細菌の研究とアスリートのコンディショニングを事業とする会社の経営者というこのセッションは、ビジネス人材の不足による舵取りのまずさに代表される組織ガバナンス、人材流動性がないが故のタコツボ化など、近年顕在化してきたスポーツ界の問題点の解決策の一つとして、“人材”に光を当てる内容となった。

「日本のスポーツ界にプロのビジネスパーソンが必要な理由」という自明の問いかけには、閉鎖的だったスポーツの世界に、ビジネス人材を積極登用している三者の取り組みがそのまま答えになった。

勝利が収支を危うくさせる? アマチュアスポーツのジレンマ

左から:日本フェンシング協会会長 太田雄貴氏、B.LEAGUE事務局長 葦原一正氏、DeNA川崎ブレイブサンダース代表取締役社長 元沢伸夫氏

「そもそもプロスポーツじゃないし、経営者でもないし、ここまで聞きながら帰りたかったです(笑)」と会場の笑いを誘ったのは、2017年8月に公益社団法人日本フェンシング協会の会長に就任し、「マイナースポーツのビジネス化」を掲げて、東京グローブ座での日本選手権実施などのフェンシングのエンタメ化をはじめ、次々と画期的なアイディアを実現させてきた太田雄貴氏だ。

「今までは日本代表選手の派遣が協会、連盟、競技団体の仕事だったんですね。その範囲がだんだん広がってきて、普及、育成、強化もやりましょうとなった。一昔前までは競技結果と協会の収支が合っていたんですよ。でも、勝つことで強化費が上がって、勝てば勝つほど年間の強化費がどんどん増えていくようになったんです」

オリンピックスポーツの場合、強化費は主に補助金、つまり税金で賄われる。太田氏は、使い勝手が悪く、いつ失うかわからない補助金に依存するのではなく、協会が自立できる道を探った。

「結果と収入がイコールでなくなってきている中で、興行が上手くいっている一部のスポーツ連盟や協会は、スポンサー収入も増えてお金を使えるようになって、強化費も降りてくる現状があります。フェンシング協会は何をしてきたかというと、選手の結果に左右されない運営作りをしてきました。選手たちの勝ち負けで収入が動くのは一番危険だと思ってるんです」

勝利が先か収入が先か。プロスポーツの興行ではしばしば問題になるジレンマだが、アマチュアスポーツであるフェンシングは、協会を挙げて「競技結果だけに左右されない組織基盤」の確立を目指している。

「協会のメンバーは理事も含め、基本的にはみんな本業があって副業、兼業みたいなものなんですね。アマチュアスポーツでは実務を行う事務局は大体10人くらいの体制でやっているので、そもそも人手不足というのが実態です。他の競技団体さんも同じ課題を抱えている中で、フェンシング協会が上手くいったらこれを横展開できないかと思っているんです」

太田氏曰く、アマチュア競技の中には「オリンピックがないと生きていけない協会」も少なくない。フェンシング協会はこうした競技団体が抱える悩みを解決する最初の例になるという意気込みで課題解決に取り組む。

31歳で会長になった太田氏は、閉塞感さえ漂う旧態依然としたアマチュアスポーツ界の改革の旗手とされているが、最年少が話題になるどころか、年齢を二倍しても「まだ早い」と言われるほど、各協会の会長の年齢層は高く、“名誉職”の意味合いが強いという。

「国内の競技団体では、会長と代表理事を分けて 実務を行ってはいますけど、会長はいわゆる名誉職なんですよね。こういう人事体系なので、アマチュアスポーツでは構造上、人の交代が起こりにくかったのは事実です。スポーツ庁主導 でガバナンスコードが策定されたこともあり一気に変わる可能性はあると思ってはいるんですけど・・・。

僕はそもそも日本で一番ゆるい会長を目指していて、フェンシングをベンチャースポーツだと言い出して、ゆるキャラで頑張っています(笑)」

トップにビジネス人材を 経営の変化が好循環の鍵に

太田氏の発言を受け、近年のプロスポーツリーグの成功例とされるバスケットボールのBリーグで組織づくりに尽力し、大幅な売上増も果たしているB.LEAGUE 事務局長の葦原一正氏は、自身なりのスポーツ界におけるビジネスパーソンの重要性を語った。

「Bリーグはゼロから立ち上げたという意味で、組織の体系、カルチャーはつくりやすかったです。一般的に協会やリーグというのは役所的なところがあって、私も野球界の球団側に5、6年いたので分かるのですが、前例やルールに囚われすぎるところがあるんですね。そこを変えるのがBリーグの使命の一つだと思っています。なので、基本的に採用する人材は所謂“ベンチャースピリット”があり、とにかく既成概念に囚われずに新しいことをやる人」

以前のHALF TIMEの単独インタビューでも葦原氏が語るように、バスケが好きなだけ、面接でバスケ愛だけを熱く語る応募者はほぼ不採用。求めるのはあくまでも「変化」だ。

▶︎HALF TIME // Bリーグはなぜ“バスケットボール外”の人材を積極登用するのか?

「それくらい変えていかないとやっぱり変わらないんですよ。(以前も野球界という)スポーツ側にいて、古典的な社会だと思っていたので、変えてくことが僕は大事だと思っているんです。さらにぶっ飛んでる方に来て欲しいと思っています」

経営コンサルティング会社からDeNAを経て、プロ野球のDeNAベイスターズからバスケットボールのDeNA川崎ブレイブサンダースに移り代表取締役となった経歴を持つ元沢氏は、葦原氏同様、 野球界からバスケ界に転身した業界経験者。日本特有の「球団と親会社」というプロスポーツ界の構造が生み出す「空気」について言及した。

「バスケットボールの方はまだ1年なので、現場の売上と利益を稼ぐ事業責任者をやっていたベイスターズの話をさせていただくと、野球は皆さんご存知の通り親会社からの出向者が経営のトップになることが多いんですね。プロ野球は規模も大きいので親会社としてもグリップしたいんだと思うんです。一方で、本当に事業単独でプロ経営者を入れて一気にドライブする必要性も感じている。ちょうど今そこの過渡期にあると思います」

親会社との関係性では、モデレーターの鈴木氏も自らの経験から構造上の問題を指摘する。

「確かにそんな雰囲気はあります。選手の立場から言わせてもらえば、(親会社から子会社のチームに)出向で来て2、3年交代というのを繰り返していると、選手がやはりそちらを見ないんですよ。結局変わるんでしょ?やるサッカーも変わってしまうんでしょ?と。これがバスケットをはじめ、最近変わってきている」

モデレーターを務めたAuB株式会社 代表取締役 鈴木啓太氏

元沢氏の前職であるベイスターズでは、5年前に中途採用された人材が30代で副社長に就くなど、人材流動性、経営素養のある人材の積極登用の例も見られるという。

「経営者次第で伸ばせる例をと自分にプレッシャーをかけてるんですけど、成功事例をまずバスケでガンガン作って、野球やサッカーに広げていくのが現実的なやり方だと思います」(元沢氏)

フェンシングの成功例をマイナースポーツに、Bリーグの成功例をメジャースポーツに横展開する――日本のスポーツ界は、欧米の成功事例を並べたり、経営・マーケティングの理論、正論をプレゼンテーションするフェーズから、国内の成功例を手本に業界全体が変化していくフェーズに入ったのかもしれない。

日本のスポーツ界にプロのスポーツビジネス・パーソンが少ない理由

とはいえ、太田氏のフェンシング協会、葦原氏や元沢氏が関わったBリーグやベイスターズなどの成功が驚きを 持って迎えられ、「ニュース」として取り上げられてしまう現状は、日本のスポーツ界が人材によって変化した好例がいかに希少かという証左でもある。

「スポーツが体育だったからではないか?」 

競技としてフェンシングを突き詰めてきた太田氏は、日本のスポーツとビジネスのもどかしい関係性は、そもそもスポーツが体育として定着してきたことが、この空気感を作っているのではないかと指摘する。

この空気感が変わってきている。太田氏が指摘するのは、東京オリンピック開催決定、Bリーグ誕生に端を発する日本のスポーツ界の大きな変化の兆しと、成功例に続こうとする雰囲気が生まれてきていることだ。

「一 気に変わろうとしているムーブメントは感じます」と太田氏。体育からスポーツへ、スポーツをビジネス化する上で、この根本部分が変化してきたのは大きい。

葦原氏は、ビジネスパーソンが積極的にスポーツ界に転身しない理由に、日本のスポーツ界のサラリーの低さを挙げる。

「やっぱりサラリーが低い。低すぎですよね。私は学生時代からスポーツビジネスをやろうと思っていたので覚悟して入りました。自分で決めたので全然ハッピーなんですけど、でもやっぱり僕はサラリーが大事だと思っているんです。子どもができたら辞めてしまうような現状をガラリと変えたい。百歩譲って全体の給料が低くても、めちゃめちゃ優秀だったらめちゃめちゃ稼げる仕組みにしないとダメだと思うんですよ。選手にだけプロを求めるんじゃなくて、ビジネスサイドもプロになる必要がある」

太田氏と葦原氏の話を受けて、元沢氏は、これまでビジネスパーソンがスポーツ界に活躍の場を求めなかったのは、市場原理によるものではないかと分析する。

「単純に今まで必要なかったのかもしれませんね。僕は単純に市場原理の問題だと思っていて採る側が本気で必要じゃなかったんだなと思っています。本気でビジネスとして捉えて事業規模を拡大しようとしたら、売上がどんどん上がって、人も増えますよね。僕のいたベイスターズも5年間で売上げは約2倍、人もオフィスが足りなくなるくらい増えた。売上げが上がれば処遇の改善もできるようになる。ベイスターズはDeNA本体と平均では遜色ない水準になったはずです」

スポーツ界により多くのビジネスパーソンが増えるには

最後のテーマは「どうすればスポーツビジネスに参入するビジネスパーソンが増えるのか?」だった。三者三様、モデレーターの鈴木氏も加えれば4通りの実業がその答えということになるが、このレポートではセッションで語られた取り組みをひとつ紹介したい。

太田氏がフェンシング協会で取り組むのは、「予算がない中でいかに優秀な人材を集めるか」。キーワードは“協力者”だ。

「やりがいとお金はトレードオフのところがあると思うんですけど、今年、複業で4職種の募集をかけたんです。そうすると、4職種に対して1,127人の応募があったんですよ。面接に来てくれたピカピカの人材に対して僕が約束したのは、『アイデアを実装すること』。これには絶対的な自信があるんです。本業ではなかなか実現しないことでも、フェンシングでならやれますよと。

Google が最初にニュージーランドで(プロダクトを)テストをするのと同じように、『フェンシングでまずテストしてください』というポジションを取りに行って、その道のプロ、優秀な人材をたくさんブレーンに加えて改革をしていく」

実際に太田氏は、ヤフーで執行役員を務める小澤隆生氏や、メディアアーティストの落合陽一氏をはじめとするスポーツ外のトップ人材にアクセスし、協力を仰いでいる。構想やプラン、理想が実現できるなら協力は惜しまないというビジネス人材が、イノベーションをもたらす可能性は大きい。

葦原氏がBリーグで掲げる“サラリー革命”も、優秀な人材への正当な評価とさらなる人材を惹きつけるために欠かせない。元沢氏は、ブレイブサンダースで「ワクワクする仕事をしたい」と自身の想いを語り、先頭に立って野心的な取り組みを発案しつつ、経営を司っている。

未開拓のスポーツ界だからこそできることがある。常識にとらわれない自由な発想、大胆な改革、そしてそこから得られるビジネスとしての大きな成果・・・。今後のスポーツ界が、すべての人たちにとって、変化に対するやりがいを感じられる魅力的な活動の場となるのは間違いないだろう。

 
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