昨今、「ヘルスケアテック」という言葉をよく耳にするようになりました。しかし、具体的にどのような内容を指し、自分たちの生活にどのような影響を与えるのかを理解していない場合も多いはず。
今回は、ヘルスケアテックの概要を説明し、その種類や私達の生活に与える影響について解説します。
ヘルスケアテックとは
ここでは、ヘルスケアテックの概要と、昨今注目されている理由について解説します。
医療とITの融合
「ヘルスケアテック」とは、Health(健康)とTechnology(テクノロジー)を掛け合わせた造語です。デジタル技術の進化とともに生まれた概念で、AIやクラウドコンピューター、スマホやタブレット、ウェアラブルデバイスなど、最新のICT技術を活用した新しい医療サービスや技術の総称を指します。
ヘルスケアテックが注目されている理由
ヘルスケアテックは、さまざまな効果が期待されており、現在注目されている分野です。
具体的には、下記のような問題や時代背景のなかで、各企業はヘルスケアテックの活用に取り組んでいます。
医療費の増大
日本は、全国民が平等に医療を受けられる「国民皆保険制度」を採用しています。日本ではこの制度のおかげで、個人の医療費は3割負担程度で治療を受けることが可能になっています。残りの7割は国民・企業・自治体から集めた保険料や負担金から医療機関へ支払われています。
日本の医療の進歩により、平均寿命が長い国となりましたが、それによって医療費の増大にもつながっているのが実情です。国民皆保険制度を継続するために、これ以上財政状況をひっ迫させない取り組みが求められています。
団塊世代が全員後期高齢者に
いわゆる2025年問題といわれている、約800万人の「団塊の世代」全員が2025年には75歳以上の後期高齢者になります。これにより国民の25%が後期高齢者となり、日本は超高齢化社会を迎えるため、さまざまな問題が懸念されています。
特に、1人当たりの年間医療費は、75歳以上は平均92万円と、75歳未満のおよそ4倍(令和2年度)となるため、先に述べた医療費の高騰にもつながります。医療費を抑え現役世代の保険料負担を軽減するためにも、ヘルスケアテックの導入による早急な対策が必要です。
<1人当たり医療費の推移(医療保険適用)>
(単位:万円)
75歳未満 | 75歳以上 | |
平成26年度 | 21.1 | 93.1 |
平成27年度 | 21.9 | 94.8 |
平成28年度 | 21.7 | 93.0 |
平成29年度 | 22.1 | 94.2 |
平成30年度 | 22.2 | 93.9 |
令和元年度 | 22.6 | 95.2 |
令和2年度 | 21.9 | 92.0 |
の2つをもとに作成
医療格差の深刻化
医療格差とは、都市部に医療機関が集中することで、地方や離島に医者が居ない問題が起きている社会現象のことをいいます。
また、地方や離島では交通アクセスが十分でないことも多く、特に高齢者であれば病院に通うことがますます困難になり、病気の早期発見や初期対応が遅れてしまうことにもつながるため、問題は深刻さを増しています。
ヘルスケアテックにより、遠隔診察や高齢者自身による簡単なケアが可能になれば、医療格差の緩和につながるため、効果が期待されています。
進化するデジタル技術
スマートフォンやタブレット、ウェアラブル端末やIoT家電など、デジタル機器やAIの飛躍的な進歩により、人々の生活をデータ化し、そのデータを元にAIが正確に解析できるようになりました。
また、5Gの普及は、高速・大容量のデータ処理を容易にし、その結果、広範囲でのドローンの活用や、医師不足に悩んでいる地方に対し遠隔診察を可能にするなど、ヘルスケアテックの発展に一役を買っています。
ヘルスケアテックにはどんな種類がある?
次に、ヘルスケアテックの具体的な種類について解説します。
疾病を未然に予防するAIやアプリ
自分の生活習慣や遺伝子特徴などを事前に把握し、疾病リスクを防ぎます。例えば、ウェアラブル端末とスマホアプリの連動により、血圧や脈拍、歩数などから健康状態をAIが分析し、今後起こりうる疾病を利用者に知らせることで、予防や健康促進につなげるサービスが開発されています。
また、企業としての取り組みとして、「健康経営」が挙げられます。健康経営とは、経営的な視点から、企業に務める従業員たちの心身の健康を管理し、企業戦略につなげることをいいます。
ヘルスケアテックを企業に導入することで、従業員のストレスチェックを行ったり、健康診断の受診を促したりし、従業員の心身の健康の維持や、それによる生産性の向上をはかっています。
遠隔治療や電子カルテの導入による医療現場の業務効率化
ヘルスケアテックの遠隔治療や電子カルテの導入などは、医師不足が懸念されている地方や離島だけでなく、昨今の新型コロナウィルスの拡大による都市部の医療従事者の負担を軽減することにもつながります。
オンライン診療や遠隔治療が普及すれば、医師不足解消や病院ごとの患者の偏りをなくすことが期待できます。またそれを可能にするには、患者のデータを電子化することが必要になるため、複数の機関でデータを共有することが可能になり、結果的に医療現場の業務効率化へと役立ちます。
介護者の労力を可能にするシステム
少子高齢化が進むにつれ、介護者の精神的・肉体的な負担は深刻な問題になっています。それらを解決するため、介護の分野に対して、ヘルスケアテック商品やサービスの開発に多くの企業が力を入れています。
たとえば、被介護者の自宅にセンサーを設置し、部屋の環境や健康状態を測定しリアルタイムでモニタリングが行くシステムや、被介護者の下腹部に超音波センサーを装着し、排尿を予測し介護者に通知する商品なども開発されています。
介護者の負担を軽減するだけでなく、被介護者の自立支援にも役立つ商品やサービスを開発する企業が増えることで、互いが共存する未来を目指しています。
ヘルスケアテックが医療・介護にもたらす変化とは…私たちの生活への関わりも解説!
最後に、ヘルスケアテックによって医療や介護がどのように変わり、私たちの生活にどう関わっていくのかについて解説します。
病院に「行かない」医療機関の拡大
ヘルスケアテックが普及することにより、健康維持をできるだけ自分自身で維持し、軽度の疾病は治療できる生活に変わることが予想されます。
アプリやシステムを使って病気を予防し、体調が悪いときはAIが分析。そこで診断された必要な薬を自分で薬局で購入する、といった日常が可能になります。
また、個人の健康管理のデータ化が進めば、必要なときに必要な機関がそのデータを利用し、自宅に居ながら診察や治療を受けたり、適切な医療処置を場所を選ばずに受けられます。
介護者と被介護者が共存する未来
ヘルスケアテックが介護分野で大きく成長することで、「老老介護」や、18歳未満の子どもたちが家族をケアする「ヤングケアラー」など、介護者側の負担を軽減できる可能性が見えてきています。
家族だからこそ、ずっとそばにいて介護や支援をしないといけないという義務や情から、介護する側の心身の疲労を抱える高齢者や、進学や将来の夢を諦める若い介護者は多くいます。特に2025年以降は、多くの家庭に被介護者が1人以上いる社会が予想されます。
介護者の負担を軽減し、被介護者の自立支援をすすめることで、介護や支援が必要な人と、それを支える家族がよりよい生活を送れるようになります。
まとめ
この数年間で働き方や生活スタイルは大きく変わりました。新しい生活様式となった今、医療のあり方も見直す段階にきています。実現するにはステークホルダーとの調節や法律の改正などさまざまな困難が立ちはだかっていますが、適切な医療処置が適切な人に届くよう、
私たちも今までの先入観を見直し、新しい取り組みに向き合うことが大切です。
(TOP写真提供 =Bruce Mars / Unsplash.com)
《参考記事一覧》
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