ヘルスケア企業の現在とこれから ~ヘルステックや取り組み事例を紹介

ヘルスケアの企業はIT技術の進歩に伴い大きく裾野が広がり、全くの異業者も参入する事態になっています。それだけ将来的にも市場規模の拡大が期待される業種です。従来の医療事業者が新たなテクノロジーを使うことで、より高度な医療を提供できる環境も整ってきています。それではまず、医療とテクノロジーとの融合についてから説明していきましょう。

 ・ヘルステックとは?

 最近では健康の「ヘルス」にITの「テクノロジー」を掛け合わせた言葉で「ヘルステック」と呼ばれ、医療とデジタルIT技術を融合させた企業が増えてきています。ITの進歩とともに、コロナ禍や医療格差の是正で求められる遠隔医療・オンライン診療、介護士の人手不足や負担軽減・要介護者の自立支援のための介護ロボットの導入、AI(人工知能)を利用する医療へのアプローチなどに動きがみられます。

 ・ヘルステックが注目される背景

 ヘルステックの進展には以下の背景が見られます。

 ①デジタル技術の進歩

スマートフォンやスマートウォッチなどの身につけられる端末の普及に伴い、個人の健康に関するデータ(歩数や心拍数など)がクラウドサービスを通じて集められ、AIによる解析でユーザーにアドバイスが伝えられるなどの環境が急速に整ったことにあります。

 ② 人生の質・健康寿命への関心

平均寿命と健康寿命には約10年の差があると言われます。できるだけ長く健康に日々を生活できるよう、高齢者の生活の質の向上は、本人も周りの家族等の介護者にとっても大きな関心事になっています。ヘルステックによって少しでも人生の質の向上が達成されることが期待されています。

 ③医療格差の是正

都市部と地方では適切な医療を受ける上で格差が起こっていると言われています。ヘルステックにより、リモート医療等で地方に居ながらにして、都市部並みの高度な医療が受けられる環境になることが望まれています。

 ④医療費負担の高騰

少子高齢化が進む日本では、医療費を負担する世代が減りつつ、2025年には団塊世代が後期高齢者になり、試算では医療費負担が年間約54兆円になると見込まれています。医療費負担をできるだけ軽減するために、ヘルステックのサービスが期待されています。

ヘルスケア業界・どのような種類がある?

写真提供 =Kari Shea/ Unsplash.com

ヘルスケアの業界と業界構成者にはどのような企業があるでしょうか?ヘルスケア業界への参入の仕方によって事業者の種類が分けられます。

 ①「公的な医療保険・介護保険」が利用できる事業を営む事業者

 国民に身近な病院・クリニック・調剤薬局などの医療機関、介護事業者、医療品・医療機器メーカーなどの高度な医療専門知識を必要とする事業者です。人命に直結する事業を営み、個人情報などの機微情報を扱うだけに、医師・看護師は国家資格が必要とされ、事業者は医薬品・医療機器等法(薬機法)や個人情報保護法などの法令や指針への遵守が厳しく求められています。

②「公的な医療保険・介護保険」外で事業を営む事業者

 フィットネスジムやスポーツクラブ、生命保険会社、健康食品、ドラッグストアなど、公的な医療保険や介護保険の対象外で事業を営む事業者です。

 フィットネスジムでは、スポーツトレーナーによるトレーニングのアドバイス以外にも、管理栄養士による日々の食事などの栄養相談や、臨床心理士によるメンタル面でのサポートなど、トレーニングアプリを通してチームで利用者を支援して行こうという動きが見られます。

 元々は健康食品の仕入れと販売がメインの業者が、健康食品を販売する目的で始めたスポーツジムが大ヒット、大々的なCMも功を奏し、本業を上回る事業となっています。

 生命保険会社は、従来から被保険者の健康のためにスポーツクラブ施設の経営等で支援してきましたが、最近ではさらに身近に個人ベースで利用できる「健康増進アプリ」を使って、日々の健康データの分析等で毎日の健康づくりを支援しています。

 ③その他異業者

 情報通信や金融機関、旅行業者、メーカー、ゲーム制作・開発企業などの企業母体が全くヘルスケアに関連がなかった企業が事業に参入しつつあります。これらの企業に特徴的なのは、参入異業者の不足しているヘルスケア知見や情報等を、1で紹介したような既存の専門ヘルスケア事業者との連携で補っているところです。

 情報通信会社は、得た顧客データからインターネットユーザーと医師を直接結ぶサービスを展開する例が見られます。また、金融機関が保険業務を営むことから健康増進支援サービスを行ったり、旅行業者がヘルスツーリズムとして、地元の自治体と組んで健康志向の旅行プランを提供する動きが見られます。

 カメラと写真フィルムのメーカーが、培ってきた化学の分野でアンチエイジング化粧品を開発したり、カメラ製造技術の応用で医療内視鏡の製造を行っているのは有名な例です。

 ゲーム制作会社が、医薬品メーカーと組んで、ゲーム性を取り入れた運動支援アプリの開発に取り組んでいる例が見られます。

 国の経済産業省も、新規事業創出を後押しする動きが見られるため、今後も市場が拡大していくことでしょう。

注目のヘルスケア企業の取り組みをご紹介!

従来の医療の知見を生かしつつ、医療機関等の体制の未構築だった部分や、さらに利便性の高まる部分に最新テクノロジーを利用した例が見られます。

 ①ヘルスケアテクノロジーズ(株)(ソフトバンクグループ会社)

 福岡市の医療従事者等約11万人に対し、オンライン健康相談アプリ「HELPO」の利用によってPCR検査体制を確立、作業の自動化と効率化が達成でき、保健所職員による人海戦術を使わない体制の構築を行いました。コロナ禍では日本の各地で保健所職員の不足や疲弊による問題点が浮き彫りになりました。それに対し、いち早くテクノロジーを取り入れ地方医療に貢献した活動となりました。

 ②(株)リーバー

 24時間365日体制で医師に医療相談ができるアプリ「LEBER」を開発し、茨城県つくば市とつくばみらい市の、小中学生約3万人の子供とその家庭を対象にした体調管理体制を構築しました。LEBERは約200名の日本最大級の医師ネットワークを持つため、アプリを介して利用者が医師と直接相談できるサービスです。自治体と企業の連携によって達成された好例と言えます。

 ③(株)DeNAライフサイエンス(DeNAグループ会社)

 遺伝子を解析してどんな病気にかかりやすいか、そのための予防ができれば健康寿命が伸びる可能性が高くなりますね。この会社は唾液により遺伝子解析を行うサービス「MYCODE」を提供しています。このMYCODEは遺伝子を解析して、受検者の病気のかかりやすさ、体質などの遺伝的傾向を知る検査です。唾液を郵送することで、最大280の検査項目を調べてくれて、パソコンやスマホで検査結果が確認できます。Googleなどのアメリカの大手情報企業も遺伝子分野に参入してきており、これからも注目の分野と言えます。

 ④みずほ情報総研、村田製作所、The  Elegant Monkeys(EM)、トッパン・フォームズ

 社員の健康管理や企業の健康経営を支援する「感情・ストレス分析サービス」の実証実験を4社協働で行ないました。村田製作所のウェアラブル機器からデータを収集、EMがAIを利用して分析し、みずほ総研が改善のためのコンサルを行ない、トッパンは実証フィールドの提供と個人データの管理で協力しました。実証実験の結果を生かした今後のサービス展開が期待されます。

 ヘルスケア企業のこれから

ここまで見てきたように、ヘルスケア業界は最新テクノロジーを取り入れ、これからも大きく市場規模を拡大していく見込みのある業界です。それに伴い新規参入企業が増えることで、中には基準を満たさない企業や技術などで、事故やトラブルも発生してきます。トラブルの予防のため、国の管轄である厚生労働省などは、新規参入や新薬・新技術等の審査と承認を厳しくするでしょう。人命の安全を第一にした動きは国民を守る良い動きですが、一方で承認が遅れたり却下されたりして、企業の自由な動きは阻害される恐れがあります。

 また、日本ではベンチャー企業への投資が少なく、魅力ある技術を持ち前途有望なベンチャー企業は決まって資金面での不安を抱えています。国の強力な資金面でのサポートや、リスクを取ってくれる投資家の存在が必須です。

 コロナ禍を経験した今こそ、人命を第一にした活動と、真に資金を必要としている企業や人に適切に資金が回るような仕組みを確立して欲しいものです。

まとめ

ヘルスケア企業について、最近のテクノロジーと結びついた動きについて紹介しました。

 魅力ある業界だけに新規参入を検討する企業も多いでしょうが、国の規制や資金面での問題をどうクリアしていくかが鍵になりそうです。

 これからのヘルスケア企業と業界について注視していきましょう。

(TOP写真提供 = Dylan Gillis  / Unsplash.com)


《参考記事一覧》

ヘルスケア事業 どんな業種、業界の事業者がいるのか (TIS INTEC Groupサイト)

LEBER (LEBER ホームページ)

MYCODE (MYCODE ホームページ)