「女性社長であること」:V・ファーレン長崎 髙田春奈社長

2020年1月にV・ファーレン長崎の社長に就任したことで、Jリーグクラブでは史上2人目、現在では唯一の「女性社長」となった髙田春奈氏。世間では「国際女性デー」を迎え、改めて男女平等・女性の活躍推進などに関心が高まる中、今回は髙田社長が自ら、「女性社長であること」への考えを語ります。

女性であることを気にせずに生きてきた

私は幼い頃から女性であることをあまり意識せずに育てられてきました。九州の生まれなので、基本的には男尊女卑寄りの価値観の中で、父は家事を全くしなかったし、どちらかといえば母が「男は家事をするものではない」という考えでした。祖父母や親戚を見てもみんな同じような価値観だったように思いますが、ただ共通して言えるのは、みんな個人を大切にしてくれたということです。だから私も伸び伸びと育ててもらいました。

小学校4年生から通い始めた塾は中学受験のための勉強が中心で、当時九州の私立中学は男子校が多かったこともあり、男の子たちが中心でしたが、その中でテストは大体一番でした。学校でも学級委員やクラブの部長など、目立つ役回りをすることが多かったように思います。振り返ると、「女性だから控えめにしろ」とか、「前に出るものではない」と言われたことはほとんどありません。

中学は受験をして、兵庫県西宮市の女子校に進学しました。女子校だから男女の違いも意識することはなかったし、それよりも関西人の勢いやプロテスタントの空気の中で、より女性の強さを知ったような気がします。大学からは東京に移りましたが、国際的でとてもリベラルな環境で学んできましたし、新卒で入った会社も「自由闊達」な文化の中で伸び伸びと仕事をさせてもらいました。もちろん、思い返せば男性優位の社会ではあったのですが、私自身は男女の違いというよりも、自分という人間のあり方について考えることが多かったように思います。

「女性社長」というものになったのは、2005年10月、父の経営するジャパネットたかたの人事コンサルティング会社を設立してからです。ここでもまた、当たり前に女性であることを意識することはありませんでした。なぜなら、幼い頃から私に性別による違いを感じさせなかった父の会社が取引先であり、そこでは当然多くの女性たちが活躍していたからです。

私の仕事は採用や教育、労務など、「人」に関わることでしたが、そこで「性別」というものを扱ったことがほとんどありませんでした。総合職も含め新卒は半数以上が女性。女性管理職も多く、セクハラも聞いたことがない。もちろん産休育休をはじめとする制度の整備や、社員の子どもたちも含めたイベントの企画など、その違いを考えて落とし込むことはありましたが、それは差別という類のものではなく、単なる違いでしかなかったのです。

ジャパネットの男性社員は優しい、といつも思うのですが、このような環境においては女性だけではなく男性にとっても、仕事において男女差を意識しないことや、その差異から起こる困難に対して思い遣り、助け合うことが普通に思えるようになるのかもしれません。

男性中心のビジネス界

2月16日のクラブ新体制発表会で挨拶する髙田春奈氏。写真提供=V・ファーレン長崎

全く女性を意識することがなかったとは書いたものの、事実として「男性社会」があるのだということを感じるようになったのは、2010年に広告代理店業を営むようになり、外部の方々と関わりが多くなってからです。取引先は全国の媒体社(放送局、新聞社など)で、特にその営業畑はほとんどが男性で構成されています。自分が仕事をしてきた10年間を振り返って、現場担当から役員クラスまで、女性の担当の方は一人ひとりを思い出せるほど希でした。

そんな中でも自分が女性としての生きにくさをあまり感じずにいられたのは、「社長の娘」というラベルのほうが大きかったから、すなわち、「若い女性が社長で大丈夫か?」という前に、「あの髙田社長の娘だから社長なんだね」という納得が先方にあり、私への接し方が一般的な女性に対するそれではなく、別のものであったからではないかと思います。

私が「社長の娘である」がゆえに「女性社長」であることを意識せずに済んだ。それは裏を返せば、女性であることなんてたかだかそれくらいのものなのに、一般の社会では男女差がとても大きく見えてしまっていると言うことではないでしょうか。その結果が、今の男性中心で構成された環境に繋がっているとも言えるのではないかと思います。

ガラスの天井、見えないハードル

2016年、アメリカ大統領選でヒラリー・クリントン氏が現トランプ大統領に敗れたとき、「ガラスの天井(Glass ceiling)」という言葉が用いられました。組織の長などを決める際、実際にはルールなどないのに、ある属性(女性や人種など)によって阻まれてしまう「見えない壁」のことを言います。

その言葉だけを聞くと、選挙で負けてしまったことへの言い訳のようにも見えるかもしれません。でも彼女が言いたかったことは、ガラスの天井は決して見えないのだから、女性や若者にチャレンジすることを諦めないでほしいということだったように思います。自分が大統領になることで、そんな壁はないのだと示したかったのだと思うし、就任後はそう言える社会を作りたかったのだと思います。でもその天井はなかなか打ち破れていません。

日本においては未だ女性管理職登用が大きな課題となっています。優秀な女性は本当に多い、でもなかなかその割合が上がらない事実があるのは、多くの人にとってガラスの天井がとても分厚く見えているからなのかもしれません。

先日の調査で、V・ファーレン長崎はJクラブの中で唯一、女性ファンが過半数を超えたクラブとして注目されました。特に40代以上の世代のサポーターが多く、実際にスタジアムでも、私と同世代の女性が友人や夫婦や親子連れでたくさん来ていただいていると感じます。そしてそれを見た人が、自分も足を運んでみようと思って増えていく、という好循環があると思います。この傾向は昔からあったのかもしれませんが、サッカーの素人である父が社長になった2017年からさらにその色を濃くしたような気もしています。

サッカーは、代表戦の白熱に象徴されるように、「若い男性の見るスポーツ」というイメージが無意識についています。しかしそのイメージを引きはがし、地元のみんなで性別や年齢を問わず楽しめる身近なスポーツという印象がついたとき、それまでの取っつきにくい印象が薄まっていきました。それはガラスの天井同様、本当にあるかどうかは誰にも分らない、「見えないハードル」だったように思います。

多様性が認められる社会へ

私は現在、Jクラブで唯一の「女性社長」ですが、Jクラブにいる「男性社長」たち一人ひとりは「男性」とひとくくりになど到底できないほど多様で、個性がある方たちばかりです。その個性をかき消していることもまた、翻って「女性」を意識することの負の作用であるように思います。

また、私には子どももおらず、女性のキャリアの中断のような苦しみも味わっていないからそう言える、と言われることもあるかもしれません。確かに自分でもそう思うし、世の子育てをされている方々のことを心から尊敬しています。だけど、女性=子どもを産むことというラベリングもまた、女性の可能性を限定してしまうように思います。

ジェンダーの問題は今でこそ社会の理解が進み、その境界線が多様であることは多くの人の知るところになってきました。つまり、男性と女性の境界線というよりは、一人ひとりの人間の多様性がどう確保されるのかのほうが重要なのであり、実際には境界線も天井も存在しないはずだとみんな気づき始めているのです。

しかしそれでもなお偏った組織が存在し、多くの人がその「空気」や「見えない壁」に苦しめられている現実がある。私が言いたいのは、そんなの気にしなくていい、ということではく、そんな空気や壁を作ってしまっている無意識に気づくことこそが大事なのではないか、ということです。これからのV・ファーレン長崎の活動の中で、一つのJリーグクラブとしても、私個人としても、多様でフェアな社会づくりに少しでも貢献していけたらと思います。

編集部より=中断期間中のJリーグ。ファン、サポーターの健康を祈りつつ、リーグの再開も心待ちにされます。髙田春奈社長には、次回、この中断期間に改めて感じた「サッカーのある週末」について綴っていただきます。

また髙田春奈氏には、4月28日(火)に東京で開催されるスポーツビジネス・カンファレンス「HALF TIMEカンファレンス2020」へも登壇いただきます。こちらでは更に深く、クラブ経営について伺う予定です。

(TOP画像提供=V・ファーレン長崎)


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