【後編】ATP幹部に聞く、ATPファイナルズが目指す「三位一体」のパートナーシップ

11月19日まで開幕中のテニスATPツアーのシーズン最終戦、Nitto ATPファイナルズ。イタリア・トリノに開催地を移してからは3年目の今大会は、一層パートナー企業や開催都市との関係を緊密にしているという。前編に続き、男子テニスツアー最高峰のATPツアーを主催するATP幹部に聞いた。(取材・文=新川諒)

パートナーと共に歩むATP

「パートナーのサポートなくして、ATPツアーはありません」

ATPのパートナーシップ&ビジネスデベロップメント部門でバイスプレジデントを務めるロドルフ・タステット氏は、パートナー企業や開催都市との関係性をこう説明する。

ATPは男子テニスのツアーを取り仕切り、シーズン最後の大会となるNitto ATPファイナルズを運営する。年間のツアーと年末のファイナルズをどう盛り上げるか、そしてそれ以上にツアーが大切にする理念や価値観をどう推進していくかについて、常に構想している。

Nitto ATPファイナルズは、今年のランキングトップ選手たちを迎え、11月19日まで開催されている。

「私たちはスポンサーのことをパートナーと呼んでいます。なぜならこの大会を盛り上げる鍵を握っていますし、一緒に大会をつくりあげているからです。最高の施設、コート、ボール、そして演出や移動手段まで、“最高のクオリティ”が求められる。パートナーはそれらを提供してくれる存在で、ただロゴを露出するだけということではありません」(タステット氏)

ATPがパートナー企業に提供する価値

ATPツアー全体では10億人のファンが世界中に存在している。ATPマスターズ1000からATP250まで63大会が30カ国で実施され、さらに若手選手を中心としたチャレンジャーツアーを含めればその数は190近くにまで及ぶ。記憶に新しい先日のジャパンオープンはATP500のカテゴリー。そしてその年のファイナルが文字通り、Nitto ATPファイナルズだ。

今年の大会パートナーには中東の航空会社 エミレーツ航空や中国の家電メーカーであるハイアール、同じく中国の太陽光発電関連企業LONGi(ロンジ)など、Nitto ATPファイナルズの開催地であるイタリア以外に本社を持つグローバル企業も多い。

「テニスはグローバルスポーツ。様々な国々で存在感があるというのは、他のスポーツに比べてもユニークだと思います。テレビやソーシャルメディアを通してグローバルにリーチする一方、各市場でも活動を展開できる。この組み合わせはブランドにとって非常に魅力的です」(タステット氏)

ATPがパートナーを選定する際に重視するのはブランドの評判だけでなく、同じ価値観を共有できるか、そして目的に向かってどのように連携を取っていけるかだという。現在は20以上のブランドが大会パートナーとして参画しているが、いかに質の高い経験をファンや選手に提供できるかを心がけている。

開催都市とも一緒に作り上げる

開催地のトリノでは街中で大会がプロモーションされる

もう一つの「パートナー」ともいえるのが、大会の舞台となる開催都市だ。

トリノでの開催はイタリア政府やピエモンテ州、トリノ市からの支援は欠かせず、大会を盛り上げるために協働する。「地元の関係当局のサポートには非常に満足しており、大会期間中だけでなくその前後もイベントを促進してくれています」と、タステット氏。

そもそも、大会会場のアリーナ「パラ・アルピツアー」の改修や、隣接する練習場の建設には市が資金拠出を行っており、アリーナのそばに練習施設があることでテニスファンが選手をより身近に見られる機会をつくり出している。

また、大会前には出場選手が決まる度に市内随一の有名建築物である博物館にバナーが掲げられたり、大会期間を通して街中にはミニテニスコートが設置されたりと、一般市民や来訪者にも広く大会を知らしめている。結果、昨年大会はコロナ禍からの回復もあり大会来場者は40%増、イタリア国内でのテニス人気の高まりも確認できたという。

大会がトリノ市にもたらす経済効果も大きく、昨年は4,800万ユーロ(約76億円)の税収とフルタイム換算で1,338人の雇用を生み出した。国外からの訪問者も多く、10月初旬時点でチケット購入者のうち41%は国外からだった。

まさに大会と開催都市、双方にとってプラスの効果を生み出している。

「大会以上のインパクト」を目指す

パートナー企業にとっても開催都市の協力があることで、アクティベーションの幅は広がっていく。

例えば、大会にあわせてオープンするファンゾーンはファンが集う場所になるだけでなく、スポンサー企業が来場者にプロモーションや体験を届けられる機会になる。公式球を提供するDUNLOPではミニゲームやブースなどを通じて様々な角度からブランドに触れてもらおうと試みる。

地元イタリアのコーヒーブランドLAVAZZAはファンゾーンに毎年「エスプレッソ・ランド」を展開する。リサイクルプラスチックと堆肥化可能なカプセルでつくられたマシンでコーヒーを抽出し、本場のエスプレッソをこれまでと違った形で体験してもらう試みだ。

では、なぜこれほどまでに、ATPはパートナーシップに力を入れるのか? それはATPが、パートナーを巻き込むことで、自分たちが大事にする価値観が広がると考えているからだ。

「Nitto ATPファイナルズは、世界最高峰のプレイヤーが集まるテニス大会という枠を超えて、社会にインパクトをもたらすことを心がけています。エコフレンドリーな大会にしたり、子どもたちにテニスに触れてもらうきっかけを作ったりと、パートナーと共に活動しています」(タステット氏)

ATPは今夏、選手が自らの移動で発生する二酸化炭素排出量を可視化できるアプリ「カーボン・トラッカー」をローンチ。ITコンサルティング会社のインフォシスと提携し、選手が移動時の二酸化炭素排出量について知識を得て、軽減するための行動を促していく。

こうした社会に向けての取り組みが、テニス業界をサステナブル(持続可能)にすることに他ならないとタステット氏は説く。

「Nitto ATPファイナルズを通して、環境や社会にいい影響をもたらしたい。この目的の達成に向けて、行政やパートナー企業から得られるサポートは計り知れません」(タステット氏)