Jリーグとスポーツナビ。リーグとメディアに共通する「DX発想」と求められる専門人材

開幕から30年を迎えようとするJリーグと、Yahoo!経済圏をベースに巨大メディアプラットフォームとなるスポーツナビ。日本のスポーツ界を代表するリーグとメディアが共通して抱えるDX課題と、その解決へのアプローチとは?笹田賢吾氏と山田学社長が『HALF TIMEカンファレンス2021』で語り合った。

日本を代表するリーグとメディアから登壇

スポーツ業界高峰のカンファレンスシリーズ『HALF TIMEカンファレンス』の2021年第一弾が5月12日と13日に開催。新型コロナの影響が続き、大きく様変わりするスポーツビジネスにおいて「コロナ禍のデジタル・トランスフォーメーション(DX) 」をテーマに、オンラインで開催された。

2日目のセッションでは、Jリーグでデジタル戦略を進める笹田賢吾氏と、スポーツナビの山田学社長を迎え、スポーツブランディングジャパンの日置貴之氏をモデレーターに、「日本のライツホルダーのDXの取り組み」と題して議論が展開。

Jリーグは誕生から約30年で、J1からJ3まで全国で40都道府県に57クラブが誕生。それ以下のカテゴリーでも百年構想クラブとして将来のJリーグ入りを目指すクラブが増えた。一方のスポーツナビはYahoo!の経済圏をベースに、日本一のユーザー数を誇るスポーツWebメディアに成長。日本を代表するライツホルダーとプラットフォーマーが対峙したセッションとなった。

DXで新たな収益を創造

スポーツナビ株式会社 代表取締役社長CEO 山田学氏

セッション最初のトピックは「現在取り組むDX」。モデレーターの日置氏から質問が投げ掛けられると、「DXの定義は幅広いが」と前置きしつつスポーツナビの山田氏が答えた。

「まずはデジタルを活用して既存事業の収益を伸ばすこと。そしてより重要なのは、デジタル上での新たな収益を獲得することです」

スポーツナビは、「スポーツ界を支えるプラットフォーム」をビジョンに掲げてきたが、コロナ禍で「スポーツ界のDXを支えるプラットフォーム」となることを目指して再定義した。今後は、スポーツ界全体のDXをいかにして実現するかを重視していくという。

同氏の言葉を受けた日置氏は、これまでのDXが「集客」に注力してきた一方で、集客そのものができないコロナ禍では、各競技団体に自らがコンテンツホルダーであるという自覚が芽生え、DXが後押しされた側面があると指摘した。

これに続いて話したのが笹田氏だ。同氏は、Jリーグが「デジタル戦略」を掲げた後最初の専任担当となった第一号社員でもある。

「Jリーグがやっているのは、全ての情報をJリーグIDに集約して、各クラブが利用できるようにすること」

現在JリーグIDには約200万人が登録。集客だけでなくファンクラブやマーチャンダイジングとの連携も含めて、各クラブがデータの活用に取り組み始めているという。デジタル戦略は2017年から取り組まれてきたが、コロナ前の2019年シーズンは、J1リーグの平均入場者数が初めて2万人を超え、年間総入場者数は1,100万人に初めて到達。成果を表してきた。

スポーツ団体の「メディア化」の動き

日置氏からは、各スポーツでオウンドメディアの存在感が増していることも述べられた。

情報発信のツールやプラットフォームが増えたことで、各団体はもとより一般企業でも自社メディアを持ってファンやオーディエンスに直接情報を届ける動きが盛んだ。そうなると旧来からの放映権をベースとした放送メディアとの関係性も変わるかもしれない。

ただこれについては、笹田氏が「マネタイズとファン獲得のバランスが重要」とも指摘。

自前でOTTなどによる配信がトレンドである一方、Jリーグはまだ「新規ファン獲得」の段階にあると語る。Jリーグは現在DAZNと長期の契約を結んでいるが、プラットフォーム上のJリーグファン以外のスポーツファンが循環することで、Jリーグの視聴者数が増えるメリットを強調した。

一方で山田氏は、「競技団体ごとのファン特性に合わせたコンテンツの開発が必要」だとした。サッカーファンと野球ファンに響くコンテンツは必ずしも同じとは限らない。ファンとのエンゲージを高め、さらにそれを収益につなげていくなら尚更だ。

コンテンツを通したファン獲得とマネタイズ。ライツホルダーとプラットフォーマー双方が試行錯誤を続けていることが確認された。

「ビジネスマンとエンジニア、両方が必要」

公益社団法人日本プロサッカーリーグ(Jリーグ) コミュニケーション・マーケティング本部 本部長 笹田賢吾氏

続いて日置氏からは、テクノロジーやメディアプラットフォームを「いかに使いこなすか」という観点から話が振られた。「スポーツナビの活用がもっと進めばいいのでは?」と水を向けられると、山田氏は「運用」面についても触れた。

「そのスポーツの事業が大きくないと、人に投資する余力がないのが現実。使いやすさだけではなく人的なサポートや、場合によっては金銭的なサポートに踏み込む必要も感じている」

人が先か、事業が先かという論は尽きないが、「デジタル人材の採用」に踏み切ったのがかつてのJリーグだ。笹田氏は、現在デジタル領域に10人以上の専門人材が存在すると明かしつつ、次のように述べた。

「スポーツ団体がDXを進めるには、エンジニアとビジネスマンの両方が必要。エンジニア人材は、プロ契約といった雇用形態も取り入れて集めています。

ビジネスマンは、広い範囲を見てブランドをデザインすることが必要。デジタルを活かすことと、データをマネタイズにつなげるという観点が欠かせません」

テクノロジーは導入することが目的でなく、活用されてこそ意味がある。そしてDXを進めるには、人材こそが欠かせない。その重要性が改めて確認された。


カンファレンスは各セッション、アーカイブ動画で全編を収録。公式Webサイトから無料登録して視聴できる。

▶︎『HALF TIMEカンファレンス2021』公式Webサイト